第15話「無能力者、敵の能力を吸収する」
爆殺されたフレースヴェルグが焼き鳥のように僕の後ろを転がっている。
突然僕と融合した光魔剣ガイアソラス。
僕以外とは一度も融合したことがないこの魔剣だが、何故マケマケ村が襲われた時、この件は父さんと融合しなかったのだろうか。これほどの力を持っているならば、マケマケ村を滅ぼした犯人だって倒せたはず。
父さんはその手この剣持ってはいたが、融合まではしていなかった。
一体何故だ? ――いくら考えても謎が解けぬ歯痒さに、僕はボーッとしながらその場に立ち尽くしてしまっていた。
「アースっ! 早く来てっ!」
「!」
マーズの叫び声に僕はハッと我に返った――目の前には全身に爪が刺さり、そこから入った猛毒が体を回り始めているマーキュリーがマーズの抱きかかえられたまま倒れている。
「マーキュリー、今回復するから安心して」
弱っていく彼女に近づき、右手を掲げて【治療】と強く願った。
マーキュリーの体内から猛毒が抜けていくのを感じる。そして今度は【回復】と強く願うと、体の傷が元に戻り体力が回復した。
「ありがとう」
無表情のまま彼女が礼を言った。その頬は僅かに緩んでいたが、たったそれだけでも感謝の気持ちが十分にあることがうかがえる。
そのままのっそり立ち上がると、いつも通りの元気な体へと戻っていた。
そのついでに戦いで破れた服も元に戻した。みんなはあのかまいたちのような突風で服が所々切り裂かれていた。それで思うように動けなかったわけか。もう少しあのダメージを受けた服装の姿を見ていたい気もしたけど、それだと彼女たちが可哀想なのでやめにした。
「体の表面に損傷なし。体内に入った猛毒の消滅を確認」
「よかったぁ~。アースがいて本当によかったぁ~」
「回復だけじゃなく剣で戦うこともできるんですね。さすがはアースさんです」
そう言いながらルーナが僕に抱きついてくる。同時に柔らかな感触が僕の左腕に襲いかかり、その谷間に目が吸い寄せられた。
顔が赤くなっても困るのでさりげなくその手を放してそっぽを向いたが、ルーナはそんな僕を見て少しばかり寂しそうな表情を浮かべている。
「マーキュリー、フレースヴェルグが太古の昔に絶滅したって本当なの?」
「記録上は事実であり、一度は絶滅したことが魔力感知によって確認されている。それがまた現れた理由については定かではない」
「じゃあ、あの死体を調べれば分かるんじゃない?」
「調べるには損傷が激しすぎる」
「ごめん。ちょっとやりすぎたかも」
「――アース、あなたに一度試してほしいことがある」
「試すって……一体何を?」
「全ての回復魔法が使えるのであれば、【吸収】も同様に使いこなせるはず。それを使ってフレースヴェルグの死体をあなたの中に吸収するの。やってみて」
「……分かった」
体が真っ二つの焼き鳥と化したこの鳥巨人はピクリとも動かないまますっかり燃え尽きている。僕はマーキュリーの導きに従い、その丸焦げとなった死体に両手を掲げながら目を瞑り、【吸収】と強く願った。
すると、その死体が1つの大きく丸い光となり、それが僕を包み込んだ後、最終的に光が僕の体の中に入り一体化する。
ルーナたちはその様子を固唾を飲んで見守っていた。
「アース、大丈夫?」
「うん、平気だよ。でも、何ともないよ」
「今のアースなら、フレースヴェルグの力を吸収したことで空を飛べるようになっているはず」
「空を飛べる? ――うわっ! なっ、何なのこれっ!?」
「「「「!」」」」
ここにいた全員が僕の新たな姿に注目する。
何とも度し難いことなのだが、僕の背中からフレースヴェルグと同く、大きく力強い両翼が服を突き破り生えてきたのだ。翼の大きさは僕の体のサイズに合わせているみたいだけど、それにしても凄く立派な翼だ。
ルーナたちはこの姿に目を奪われてしまっている。ただ1人を除いては。
「この翼を調べれば、フレースヴェルグの謎が分かるはず」
「ねえ、マーキュリー。アースは一体どうなってしまったの?」
「心配ない。今やその翼はアースの体の一部、さっきの剣と同様にいつでも翼を生やしたり引っ込めたりできるはず。【吸収】は相手の体力を奪い、自らの養分として吸収する回復魔法であると同時に、相手の死体に対して使った場合はそのまま相手を吸収し、その相手が持っていた能力と同じ能力を得ることができる。アースはこの魔法によってフレースヴェルグが持つ飛行能力と風を操る力を得た」
要するに、僕はガイアソラスの力によって倒したモンスターの能力まで使うことができるようになったわけだ。
この魔法を使えば、あらゆる能力を手に入れることも夢じゃないかもな。
それにしても、何故マーキュリーはこのことを知っていたんだ?
「凄い! 僕、本当に空を飛んでる! いやっほおおおおおぉぉぉぉぉ!」
しばらくはこの大きな翼を使い、飛行訓練も兼ねて猛スピードでこの天空を駆け抜けている。ルーナたちは首が痛くなるまで調子に乗って飛行する僕を見つめている。
「マーキュリーさん、どうしてその回復魔法を知っているのですか?」
ルーナが僕の代わりに聞いてくれた。僕は翼を使い飛んだままだったが、フレースヴェルグの強力な聴力まで手に入れたためか、彼女たちの会話があっさりここまで聞こえてしまっている。
さっきの僕の叫び声にフレースヴェルグが気づいてしまったのが、今回の戦闘の原因だったんだ。
「ある魔導書に回復魔法の一覧が古代語で記載されていた」
「へぇ~、昔の人は凄いなぁ~」
「というか、古代語読めるんですね」
「ワタシが読んだ魔導書によれば、回復魔法は全てモンスターや植物が持っている能力によるもの。薬草から生成されるポーションは、言わば元からある回復魔法を液体化した存在」
「何でモンスターや植物は回復ができるのに、私たち人間は1人として使えないのかねー」
「何故人間だけが回復魔法を使えないのかまでは分からない。ただ、アースが持つガイアソラスの謎が解ければ、その理由も自ずと分かるはず。現にアースは回復魔法を使いこなせる唯一の人間となっている。研究の余地は大いにあると思う」
マーキュリーの言うことにも一理ある。
確かにこの剣が持つ謎が解ければ、今まで誰もが気にしていた全ての謎が解けるかもしれない。ここまで導いてくれたガイアソラスが、一体僕をどこまで導こうとしているのかも気になるし、それなら彼女の実験につき合ってもいいかもしれない。
僕は何も知らないふりをしながら地上に降りた。
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