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第14話「無能力者、太古のモンスターと戦う」

 山へと渋々戻っていく様子のユニコーン後をこっそりとつけた。


「あのユニコーン、動きがとっても遅いわね」

「うん。なんか山に帰るのを嫌がってるみたい」


 時々背後にいる僕らの気配を察して頭を後ろに向けるが、ユニコーンの視界に入る前に気の後ろに隠れてやり過ごしている。


 これ……子供の時にケレス様と一緒にやった遊びによく似ているな。


 ふと、僕は幼少期の頃の自分とケレスお嬢様が遊んでいる姿を思い出した――。


 10年ほど前、僕が無能力者と断定された日のことだった。魔力適性検査に落ちた僕は魔力に関係のない召使い試験で必死に点を稼ぎ、最後のテストでケレスお嬢様に気に入られ、その日から彼女に拾われる形で毎日のように遊び相手になったんだっけ。


 プルート帝国の将軍候補生に抜擢されてからは全然遊べなくなったけど、それでも度々お土産を持って帰ってきてくれていたのに。


 今でも追放されたことが信じられない。しかもどうして……敵同士にならなければならなくなってしまったのか。


 ――何で僕、ケレスお嬢様のことを思い出しているんだろう。


 今さら元に戻れる関係じゃないのに。


「アース、どうしたの?」

「えっ?」

「涙出てるよ」

「!」


 自らの顔を触り、僕の頬を伝うぬるっとした液体の感触を確かめると、自分が泣いていることにようやく気づいた。


「いや、別に……」

「もしかして、さっきのお嬢様のことを思い出してたの?」

「……違うよ」

「嘘を吐くの下手ねー。まっ、そういうとこも好きだけど――」

「嘘じゃないよっ!」

「「「「!」」」」

「……ごめん。ただ、敵がこれ以上増えるのが辛くて」

「――あたしもごめん。神経逆なでしちゃって」

「いいんだよ。こんなことで怒るなんて……どうかしてるよ」

「アース、過去も大事だけど、それよりも――」


 ヴィーナスが僕を抱擁し、何かを語りかけようとしている最中だった。


「あっ、逃げた」

「「「「ええっ!?」」」」


 マーズが指差した先には僕の叫び声に気づき、走り去っていくユニコーンの姿がある。


 まずい……早く後を追わないと。


 5人全員で全力疾走し、ユニコーンの後姿を追いかけた。相手は馬であるため、僕らのスピードでは到底追いつけない。これは僕のミスだ。何としてでも追いつかないと。


 段々と僕らとユニコーンとの距離が離れていったその時――。


 突然上空から何の突拍子もなく突風が発生したかと思えば、目の前に小さく見えていたはずのユニコーンが突風と共に消えてしまった。


「あれっ、ユニコーンは?」

「あそこにいる」

「「「「!」」」」


 マーキュリーが上空を指差すと、そこには鳥のように大きく太い足にユニコーンが捕まっており、爪が食い込んだところから流血を起こし、その体はぐったりとしていた。


 巨人のような胴体、鷹のような鋭いくちばしを持った顔、見た者を震え上がらせる曲がったナイフのような爪がついた5本指の腕と足、背中からはその立派な巨体に見合うほどの大きく立派な茶色い翼が生えていた。その形はまるで天使の翼と言えるほどの迫力だった。


 しかも大空を舞いながら足に持っているユニコーンを上空に投げると、その大きなくちばしで丸飲みにしてしまった。


「あのユニコーンを捕食するなんて」

「何なのこいつ?」

「フレースヴェルグ。太古の昔に絶滅したとされる伝説の鳥人型モンスター。爪に含まれる猛毒で相手を弱らせてから丸飲みにする鳥巨人。別名、天空の支配者」


 マーキュリーが敵を恐れる様子もなく無表情のまま対象の特徴を淡々と説明する。


「その絶滅したはずのフレースヴェルグが何でこんな所にいるのよっ!?」

「理由は不明。1つ確かなのは、フレースヴェルグが私たち人間を捕食対象と見なしているということだけ。気をつけて」

「人間と会ったことないのに食べれるって分かるの?」

「仮に何らかの理由で現代にやってきたばかりであれば、あの鳥巨人は食物連鎖における自らの序列を探している最中であることが推測できる。それが終わるまでの間は……どんな生物が相手でも手当たり次第に襲いかかる」

「来るわよっ!」


 フレースヴェルグが翼を折り畳むと、風のような速さで突進してくる。全員が間一髪のところで攻撃をかわそうとするが、マーキュリーがフレースヴェルグの鋭い足の爪に捕まり、僕らはこの突進で生まれた突風で吹き飛ばされそうになった。


「マーキュリー!」


 ヴィーナスが叫んだ。そして左腰のホルスターから取り出した【白銀銃(シルバーリボルバー)】で応戦するも、その攻撃は無残にも全て弾かれてしまった。


「攻撃が効かない。だったら……」


 さっきの拳銃をしまい、今度は右腰のホルスターから【黄金銃(ゴールドリボルバー)】を取り出すと、それを両手で持ち狙いを定めた。


「これでもくらいな、化け物」


 金色の輝きを放つその拳銃からさっきと変わらないサイズの弾が飛び出すと、それがフレースヴェルグに命中し爆発を起こした。


 凄い……さっきの拳銃とは効果が全然違うけど、こっちは効いているようだ。


白銀銃(シルバーリボルバー)】は連射が早い代わりに威力が低い。だが【黄金銃(ゴールドリボルバー)】は連射が遅い代わりに一発一発の威力が桁違いであり、当たれば爆発で大きなダメージを与えることができる拳銃だ。


 なるほど、彼女はそれぞれの敵に応じて拳銃の種類を使い分けていたんだ。


 そのまま続けて3発が命中すると、フレースヴェルグは背中から地面に撃ち落され、大きな地響きが起きると共に足から離れたマーキュリーが投げ飛ばされた。


「よっと。マーキュリー、大丈夫?」


 マーキュリーの小さな体をマーズが見事に受け止めた。


「全身に爪による損傷を確認、体内には猛毒が侵入」

「ええっ!?」


 フレースヴェルグが怒り心頭の表情で立ち上がるも、両翼が弾の爆発によるダメージによって負傷したためか、空を飛ぶことができなくなっている。


「アース、今ならあんたの剣で攻撃できるわ」

「分かった。やってみる」


 僕の右肘から先が【光魔剣(こうまけん)ガイアソラス】へと変わり、そのまま勢いよくフレースヴェルグに急接近して飛びかかった。


「【魔剣斬(ガイアスラッシュ)】」


 ガイアソラスが青白く光り、フレースヴェルグの胴体を横から真っ二つに切り裂くと、体の裂け目から大爆発を起こし、フレースヴェルグの巨体が地面に音を立てながら倒れた。僕はそのままスタッと後ろ向きに下り立った。


「あの鳥巨人を……いっ、一撃……」

「――アース、あんた一体何者?」

「あはは……えっと、僕はただの人間だよ」


 咄嗟に笑って誤魔化した。右腕を元の腕に戻すと、僕は再びその右腕を確認する。


 これが――ガイアソラスの力……。

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