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第13話「無能力者、港で足止めされる」

 それにしても――ケレスお嬢様は何故あんなことを。


 再び目的地に向かい歩き始めたが、どうにも解せないところも多々あった。


 ルーナを連れ去ろうとしている時点で立派な敵ではあるが、ケレスお嬢様がルーナを渡すように述べながら手を伸ばしてきた時、反射的にその命令に従おうとピクッと体が動いてしまった自分に心底驚いている。


 原因は定かではないが、何故あんなふざけた命令に一瞬でも従おうとしたのか。そんなの分かりたくもなかった。


 それにしても、さっきからヴィーナスがべったりとくっついてくるのだが、これはどうにかならないのだろうか。片腕がいつもより重い。


「ヴィーナス、ちょっとくっつきすぎじゃない?」

「えー、いいじゃーん。アースはあたしの王子様なんだからっ」


 ウィンクをしながら白シャツに包み込まれた豊満な胸を押しつけてくる。ルーナもマーズも頬を膨らませながらヴィーナスの後姿を羨ましそうに睨みつけている。


 しばらく歩いていると、高台からエッジワース港が見えた。


 プルート帝国の港町、エッジワースには魚介類が豊富に揃っていた。ネプチューン王国とウラヌス共和国の領海に挟まれ、度々歯痒い思いをしてきたと聞く。


 すると海岸にある草木を食べているユニコーンの姿が見えた。


「ねえ、あれってユニコーンじゃない?」

「嘘……何でこんな所に」

「普段は山にいるはずよね?」

「ユニコーンがふもとに下りてくる主な理由は2つ。1つは山の食糧が尽きたこと。もう1つは天敵か冒険者に住処を追われたこと」

「だったら早速ギルドカフェでユニコーン討伐の依頼を受けましょ。あのままだと漁師たちにも迷惑がかかるでしょ」

「それはいいんですけど、何だか可哀想です」

「どうして?」

「ふもとまで下りてきた原因がどちらにしても、あのユニコーンに罪はないはずです。山に返してあげるべきですよ」

「分かった。ルーナがそう言うなら、あのユニコーンを山に返してから代金を払って出航してもらうことにするか」

「でも大丈夫なの? ユニコーンは闇の魔力を持った凶悪なモンスターだよ」


 言われてみればそうだ。あの薄紫色の角に刺されたらひとたまりもないだろう。


 暴れ馬のようなイメージとは対照的に戦々恐々とした姿、紫色の体色に炎のような尻尾、闇の魔力は確かに感じるものの、とても悪いことをするようなモンスターには見えない。


「大丈夫。ユニコーンはこちらが敵意を向けなければまず攻撃はしてこない」

「えっ、そういうもんなの?」

「ワタシは一度ユニコーンと戦っている。でも先制攻撃を仕掛けたのはいずれも冒険者たち。その時のユニコーンは()()()()のように抵抗していた」

「まるで冒険者の方が悪いような言い草ね」


 聞きなれない言葉にヴィーナスが疑問を呈した。


 通常、冒険者がモンスターと戦う時は明らかにモンスター側がデンジャーモンスターとして人や家畜などに損害を与えている場合や、増殖しすぎているために人が住む地域にまで縄張りの範囲が広がっている場合などである。


 マーキュリーの言葉からは特に害もないモンスターを冒険者が討伐しているように感じた。


 港まで行くと、そこで作業をしている太り気味で髭を生やしている漁師らしきおじさんに話をうかがってみることに。ここの人ならユニコーンのことを知っているかもしれない。


「あー、ユニコーンね。ここ最近あいつらがよく港の向こう側にある山から下りてくるんだ。一体どうしちまったのかねぇ~」

「山に餌がなくなったとかじゃないんですか?」

「餌なら文字通り山のようにあるぜ。あいつらの好物である草木も生えてるし、多分冒険者たちが山で暴れてるんだろうな」

「なんか冒険者として申し訳なくなってきた」


 マーズがしょんぼりとしながら下を向いた。


「お前さんたちも冒険者かい。だったら一度、山の様子を見てきてくれねえか?」

「分かりました。あの、僕らはムーン大公国まで行く予定なんですけど、もしよければ船に乗せてもらっても構いませんか?」

「それは無理だ」

「えっ、どうしてですか?」

「実はここんとこ海が荒れててな。全然漁に行けねえんだ。落ち着いたらいつでもムーン大公国まで乗せてってやるから、しばらく待っててくれ」


 そう言いながら漁師のおじさんが作業を済ませて帰宅してしまった。どの道しばらくは出航できそうにないか。だったらユニコーンをあの山に返してやるか。


 僕はユニコーンに近づき、恐る恐る話しかけた。僕の後ろではルーナたちがうまくいくことを祈りながら固唾を飲んで見守っている。その鳴き声からはこれ以上近づくなという威嚇にさえ聞こえたが、それでもお構いなしに一歩ずつ距離を詰めた。


 さっきマーキュリーが情緒不安定な人やモンスターの感情にも効果のある回復魔法を教えてもらっていた。この状況にぴったりだ。


 僕はユニコーンに向かって手をかざしながら【休息(レスト)】と強く願った。


 すると、僕の手から癒しの光が発生し、光がユニコーンを包み込んでいく。警戒心を露わにしたまま逆立っていた毛が穏やかになり、足を折り畳んでその場に座った。


 精神疲労を回復する魔法であると同時に、暴れている人やモンスターの気持ちをなだめ落ち着かせる効果もある。回復魔法であれば何でも使えるため、マーキュリーに様々な回復効果のある本を読ませてもらっていたのだ。


「よしよし、落ち着いて。僕は君の敵じゃないよ」


 ユニコーンの背中をゆっくりとさすり安心感を与えると、素直に僕の言うことを聞く姿勢になったことを確認し、山へお帰りと告げた。ユニコーンは山がある方角へとトコトコ歩き始め、その後を僕らが追いかけることに。


 本来その戦闘力はそこらのモンスターを凌ぐほどだ。


 恐らくあの山にはユニコーンを狩っている冒険者がいるに違いない。ここは一度会って話をつける必要があるな。何度も街に下りてこられてもみんな迷惑だろうし。


「そういうわけだから、今からあのユニコーンを追いかけて冒険者を誘い出すよ」

「ふーん、アースって結構頭良いよねー」

「いや、これはマーキュリーが立案してくれた作戦だよ」

「えっ、そうなの?」


 ヴィーナスがマーキュリーに尋ねると、彼女は無表情のままコクリと頷いた。

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