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第六話 二人きりの家

 レオが、ルーカス、マルセルの三人で暮らし始めてから四カ月が過ぎた。

 ある日、レオが起きると、ルーカスが鍋に水を入れているところだった。

 ルーカスが振り返り、

「おはよう」とレオに笑顔を向けた。

「おはよう」

 ルーカスは当初全く家事ができなかった。よっぽど甘やかされて育ったのか、実はかなり育ちが良いのかは分からない。ここで暮らし始めてすぐは、レオが言うとおりの事しかできなかった。しかし、やり方を覚えると、ほとんどの家事をルーカスがこなすようになっていた。

「たまには僕が作るよ」

 あまりにもルーカスがやりすぎるから、レオは申し訳なく思っていた。

「大丈夫。レオは座ってて」

「あ、待ってて。キャベツがそろそろ食べごろだから」

 レオはそう言って外に出た。

 家のそばに作った小さな畑では豆やキャベツを育てている。

 レオはキャベツを採ると、洗ってちぎって皿に盛った。

 食卓にはルーカスが作った粥とキャベツのサラダが並んだ。

 マルセルも起きて来て、三人で食卓を囲んだ。

 キャベツを口にしたルーカスが、

「採れたては甘くておいしいな」と笑顔を浮かべた。

 その言葉に、レオは思わず顔がほころんだ。自分が丹精を込めて作った野菜を褒められるのはうれしい。これまでは一人で食べるだけで褒めてくれる人などいなかったから、新鮮な気持ちだった。

「そうだろ? スープにしてもおいしいんだ。夜は僕がスープを作るよ」

「わあ、楽しみだな」

 レオとルーカスがそんな会話を交わしていると、マルセルが、

「あの、今日はちょっと出掛けて来ますね」と言った。

 レオは、

「どこへ?」と尋ねた。

「討魔団に全く顔を出してなかったので、一度顔を出して事情を話して来ようかと思いまして」

 レオは目を丸めた。

「何も言って来てなかったのか?」

「はい。実はレオを追いかけ始めてから、全く連絡してないんですよ」

 レオは呆れた。

「じゃあ、行方不明みたいなもんだな」

「はい。居所も落ち着いた事ですし、一度団長に会って来ます。たぶん夜には戻ると思いますよ」

 ルーカスが残念そうな表情を浮かべた。

「なんだ。帰って来なくてもいいのに」

 マルセルがルーカスに、

「そんな風に言わないで下さいよ」と笑った。

 その日の夜、レオは居間でマルセルが帰って来るのを待った。しかし、だいぶ遅くなってもマルセルは帰って来なかった。

 正面に座っていたルーカスが、

「今日は帰って来ないんじゃないのか?」と言った。

「そうだね。今日は帰れなかったのかな」

「もう遅いし、寝ようよ」

「うん。そうだな」

 レオは立ち上がり、「おやすみ」と言って自分の寝室に向かおうとした。

 すると、ルーカスが後ろからレオを抱きしめてきたから、レオは驚いて足を止めた。

「何してるんだよ?」

 レオはルーカスの腕を振りほどこうとしたが、ルーカスはレオの肩を強く抱いて離さなかった。

「今日は一緒に寝ようよ」

 ルーカスがレオの耳元で甘えるように言った。

「は? 何言ってるんだよ。早く自分の部屋へ行って寝ろよ」

 レオが断ると、ルーカスがレオを離した。

「冷たいなあ。せっかく二人きりなのに」

「変な事言ってないで、早く寝ろよ」

「分かったよ。おやすみ」

 ルーカスが不貞腐れた様子で自分の寝室の方へ向かった。しかし、途中で足を止めると、レオの方に戻って来た。レオがどうしたんだろうと不思議に思っていると、不意にルーカスがレオに顔を近づけ、レオの唇にキスをした。そして、踵を返して寝室に入り、ドアを閉めた。

 レオは何が起きたのか分からずに、しばらく茫然とその場に立ち尽くした。そして、段々頭がはっきりしてきて、思わず手で口を押えた。

《僕、今、キスされたよな⁈》

 レオの頭に一気に血が上った。心臓が激しく脈を打っている。

《なんでいきなりあんな事するんだよ?》

 レオはめまいを覚えた。

 その晩、レオはルーカスにキスをされたショックでなかなか寝付けなかった。

 翌日の朝、レオは寝室を出ると、マルセルの寝室のドアをノックした。中から返事はない。ドアを開けて中を覗いたが、マルセルはまだ戻っていなかった。

 その時、ルーカスが寝室から出て来て、レオに後ろから抱きつくと「おはよう」と言った。

「お……はよう」

 レオは動揺し、鼓動が速くなったが、なるべく平静を装おうとした。

 ルーカスがレオの肩越しにマルセルの寝室を覗き込んだ。

「まだ戻ってないんだ」

「うん。本当にどうしたんだろう」

「心配?」

「そりゃ心配だよ。何かあったのかもしれないだろ?」

「ふうん。ねえ、俺がいなくなってもこんな風に心配してくれる?」

 レオは、分かり易く嫉妬するルーカスを子供っぽいと思うと同時に、何だかかわいいなと思った。

「するよ」

 レオが答えると、ルーカスがうれしそうにほほ笑んだ。

「本当に? 良かった」

 ルーカスはレオを抱きしめたままだった。

 レオはルーカスの腕をつかんで、

「離せよ。朝食の準備するから」と言った。

 ルーカスは素直にレオを解放した。

「じゃあ、一緒にやろう」

 ルーカスはそう言って、レオの手を握った。

 その日のルーカスは一日中、いつもより大胆にレオに触れてきた。何もしていない時でも身を寄せてくるし、抱きついてきたり、手を握ってきたりする。早くマルセルに帰って来てもらわないと、どんどんエスカレートしそうだと、レオは感じ始めていた。

 しかし、その日もマルセルは帰って来なかった。

 レオはいよいよ心配になってきた。

「明日ちょっと様子を見に行ってくるよ」

 レオが言うと、ルーカスが目を丸めた。

「あいつがそんなに心配?」

「気になるだろ? 何かあったのかもしれないし」

「あいつは図太いから大丈夫だと思うけど」

「何でもないかもしれないけど、確かめないと」

 ルーカスがじっとレオを見つめた。

「レオはあいつの事、好きなわけじゃないよな?」

 レオは慌てて首を振った。

「違うよ。そういうんじゃないよ」

「じゃあ、なんでそんなにあいつを気にするんだよ?」

「ルーカスは心配じゃない? もう随分一緒に暮らしてるのに」

「俺はレオにしか興味ないから」

 ルーカスの徹底ぶりに、レオは呆れた。

「とにかく、僕は明日の朝出るから」

 レオが言うと、ルーカスが、

「俺も行くよ」と言った。

「ルーカスも?」

「うん。だって、嫁が他の男に会いに行くって言ってるのに、放っておけないだろ?」

「『嫁』……? 嫁って、僕のこと?」

「そうだよ」

 レオはため息をついた。

「いつ僕がルーカスの嫁になったんだよ」

「正確には将来の嫁だけど、細かい事はいいだろ?」

 そういう事じゃないんだがと、レオは思ったが、面倒なので反論するのはやめた。

「じゃあ、明日朝一で出掛けよう」

 レオが言うと、ルーカスが「分かった」と頷いた。

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