第五話 同居生活
新しく建てた家は、入り口から入ってすぐに居間があり、その居間を囲むように寝室が三つある間取りだ。
家具も作られていて、居間にはテーブルと椅子が置かれ、各寝室にはベッドもある。
その日の夜、レオ、ルーカス、マルセルの三人は早速、それぞれの寝室で眠りに就いた。
翌日、レオは目を覚ますと、居間で朝食を作り始めた。居間には小さなかまどを備え付けてある。
町で買っておいた豆と穀物を煮て粥にする。今のところ食糧は豆と穀物しかない。今日から畑作りに着手して野菜を育てなければとレオは思った。
少しして、ルーカスが寝室から出てきた。
「おはよう、レオ」
「おはよう」
「料理してるの?」
ルーカスがレオの方に近付いてきた。
「うん。朝ごはんだよ」
「俺の分もある?」
「うん。ルーカスとマルセルの分もあるよ」
レオが答えると、ルーカスがうれしそうな笑みを浮かべた。
「ありがとう。すごくうれしい」
少しして、マルセルも寝室から出てきた。
「おはようございます」
「おはよう」
「え? 料理してるんですか?」
「うん。朝ごはんは食べないと」
レオは木で作った器に三人分の粥を盛り、テーブルの上に置いた。
「座って」とレオが言うと、マルセルがうれしそうに、
「ありがとうございます。私の分も作って頂いて」と礼を言った。
三人はそろって食卓を囲んだ。
ルーカスは終始笑顔でレオの事を見つめていた。あまりに見られるので、レオは居心地が悪かった。
「なんでそんなにこっちを見るんだよ」
「見ていたいからに決まってるだろ? 好きなんだから」
ルーカスは態度も言葉も全く隠すことなく直球だ。
レオはため息をついた。
「落ち着かないから、あまり見ないでくれよ」
「いいだろ? 別に」
レオは再びため息をついた。
朝食の後、片づけはマルセルがやると申し出てくれた。
「じゃあ、僕は水を汲みに行ってくるよ」
レオが外に出ようとすると、
「俺も行く」と、ルーカスが付いて来た。
レオとルーカスは桶をそれぞれ両手に持ち、山の中にある小川に向かった。
桶に水を汲むと、レオはすぐに帰ろうとしたが、ルーカスに腕をつかまれた。
「ちょっと待って」
「何?」
「せっかく二人きりになれたんだから、もう少しここにいようよ」
「何言ってるんだよ? 帰ろう」
レオはルーカスの手を振り払い、両手に桶を持って歩き出した。
ルーカスも桶を持ってレオの後についてきた。
「重くない? 足りなくなったら俺が補充するから、レオは持たなくても大丈夫だよ?」
「別に、大丈夫だよ」
「他には? 俺、なんでもするよ」
「じゃあ、戻ったら薪割りをお願いしようかな」
「薪……。うん。分かった。やるよ」
ルーカスは頷いた。
家に戻り桶を置くと、ルーカスがレオに、
「薪って、これぐらいの大きさに木を切ればいいんだよな?」と言って、両てのひらで肩幅ぐらいの幅を示して見せた。
レオは内心、《薪を見た事ないのかな?》と思ったが、
「そうだよ」と答えた。
そして、念のため、
「生木はすぐには使えないから、何日か乾かさないといけない。だから、使いやすい大きさに切ったら、その辺に積んでおいて」と説明を加えた。
「分かった」
ルーカスは頷くと、早速風の魔術で豪快に木を一本切り倒した。それを魔術で細かく切っていく。一般的な薪割りとはだいぶ様子が違っていたから、レオは不思議な気分でその様子を見つめた。
レオはしばらくルーカスの様子を見届けてから、畑を作る場所を決めようと家の周りを歩き始めた。
すると、マルセルが切株に座っていたので、レオは声を掛けた。
「何してるんだ?」
マルセルが嬉々とした表情をレオに向け、魔力測定器をレオに見せた。
「これを見て下さい」
レオはマルセルに近付き、マルセルが手にする魔力測定器を覗き込んだ。
マルセルはレオに向かってほほ笑んだ。
「レオに反応して、こんなになってるんです。すごいでしょう? 本当に、こんなになるのはレオだけですよ。見ているだけでうれしくて、なんだか興奮してしまいます」
すると、レオの背後から、
「おい!」と怒気をはらんだルーカスの声がした。
振り返ると、ルーカスがマルセルを睨みつけていた。
「レオに何卑猥な事言ってるんだ?」
マルセルが「卑猥?」と首を傾げた。
レオも何の事だろうと、マルセルの台詞を思い返した。そして、ルーカスが勘違いをしている事に気付いて慌てて首を振った。
「違う、違う! さっきのは魔力測定器の話だよ!」
「魔力測定器……?」
ルーカスが首を傾げた。ルーカスは魔力測定器の存在を知らない。
レオはマルセルに、
「見せてあげなよ」と言った。
マルセルはルーカスに魔力測定器を見せた。
「これは私が発明したもので、魔力を測定できる機械なんですよ。この針がこちらへ行くほど、魔力が強いって事なんです。ただ、かなり大きな魔力も測れるように設計したせいか、その辺の魔術師レベルじゃ全然針が振れなくて。だけど、レオにはものすごく振れるんです」
「へえ。そんな機械作ったのか」
マルセルが興味深げに魔力測定器を覗き込んだ。それから、はっとした様子でレオを見た。
「っていうことは、レオに魔力があるってこと?」
レオは頷いた。
「あるよ」
「そうなんだ……」
マルセルが、
「レオの魔力はすごいですよ。私が知る中ではダントツで一番です。私はレオのそばで魔力測定器が反応しているのが見たくて、それでレオのそばにいさせてもらってるんです」と言った。
それを聞いたルーカスが、
「じゃあ、おまえがレオに付きまとうのは、その機械のためなのか?」とマルセルに尋ねた。
「はい」
マルセルの答えを聞いて、ルーカスが安心したような、うれしそうな表情を浮かべた。
「なんだ、そうだったんだ。それじゃ、レオの事好きだからここにいるわけじゃないんだな?」
「広義の意味では好きですけど、ルーカスが思っているような『好き』ではありませんよ」
「じゃあ、レオは俺のものだな」
ルーカスがそう言って、レオの肩に手を回してきたから、レオは慌ててルーカスから離れた。
「なんでそうなるんだよ?」
「だって、もう俺たちの邪魔をするものはないだろ?」
「僕の気持ちは? 僕の気持ちは考えないわけ?」
「だって、レオがその気になるまで俺は諦めないから。いつかは必ず、レオは俺の事好きになるだろ?」
ルーカスのとんでもない自己中心的な考えに、レオは呆気に取られた。
話を聞いていたマルセルがほほ笑んだ。
「私は邪魔しませんよ。ただここにいさせてもらえればいいです」
ルーカスがマルセルを睨んだ。
「邪魔は邪魔だけどな」
「レオがいなかったら、私はルーカスについて行ったかもしれませんよ?」
「どういう意味だよ?」
「ルーカスの魔力もかなり振れてますから」
レオはルーカスを見た。薄々気付いてはいたが、ルーカスも相当な魔力を持っているという事だ。
「気持ち悪いこと言ってんなよ。俺だったら、おまえなんか速攻殺してるからな」
ルーカスにそう言われても、マルセルはニコニコしていた。
「それは危なかったですね。レオがいてくれてよかったです」
レオは二人の様子を見てため息をついた。