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第十五話 告白

 ルーカスの寝室は、しばらくの間重い空気に包まれた。

「本当に……? 本当に、ルーカスはアレクシアの息子なのか?」

 レオはやっと口を開いた。

 ルーカスは頷いた。

「そうだよ。俺はアレクシアの六番目の子だ」

「なんで……。どういう事なのか全部話してくれ」

「俺はアレクシアの六番目の子で、この前来たのは俺の兄だ」

「兄? あの人はルーカスのお兄さんなのか?」

 だとしたら、だいぶ歳が離れている。アレクシアは二百年生きているからそう言う事も有り得るのだろうが、ルーカスがそういう人間離れした一族の一員なのだと思うと、レオはショックを隠し切れなかった。

「あれは俺の兄だ。俺とは四十歳歳が離れてる。俺も兄もアレクシアの子だ。だけど、俺たちはアレクシアには育てられなかった。アレクシアは、俺たちの事を人に預けて放置していた。俺も兄もアレクシアに比べたら全然魔力も強くないし、アレクシアは俺たちに全く興味なんてなかったんだ。だけど、何か命令がある時だけは城に呼び出された」

 ルーカスが哀れな幼少期を送った事を知り、レオは胸が痛んだ。

 ルーカスが続けた。

「俺は、一年ぐらい前にアレクシアに呼び出されて命令をされた。それは、人探しだった。アレクシアと同じ召喚魔術を使う魔術師が現れたから、その魔術師の居場所を突き止めるようにと」

 レオの体から血の気が引いた。その魔術師というのは間違いなくレオの事だ。

「ルーカスは、僕を探してたのか?」

 ルーカスが頷いた。

「ああ。レオの力を見てすぐに気付いたよ。レオが、アレクシアが探してる魔術師なんだって。だけど、俺はアレクシアに報告する気にはなれなかった。レオの事、好きになってしまったから……」

「…………」

 レオは胸が締め付けられる思いだった。

「俺から全く報告がないから、アレクシアは兄に命じて俺を探させた。だからこの前、兄がここにやって来たんだ。俺は兄に黙ってて欲しいと頼んだ。だけど、このままじゃアレクシアに見つかるのは時間の問題だ。だから俺は、アレクシアの所へ行って、レオを放っておいて欲しいと頼んだ。だけど、アレクシアは聞いてはくれなかった。俺がレオの居場所を黙っていたから、魔物を召喚して俺を攻撃してきた。俺は怪我をして、動けなくなってしまった。その間に、アレクシアはおそらく兄からこの場所を聞き出したんだと思う。それで、アレクシアがここに来てしまったんだ。ごめん、レオ……」

「…………」

 あまりに重たすぎる話に、レオは言葉を失った。

 ルーカスが目を伏せた。

「俺の事、嫌になったよな。だけど、俺がレオを好きなのは本当だよ。本当に好きなんだ。レオのためだったら何だってできる。レオのためだったら、アレクシアの事を裏切ったって構わない。だから、俺の事、嫌いにならないで欲しい」

 ルーカスは今にも泣き出しそうな顔をしていた。レオは、ルーカスが愛おしくて仕方がなかった。ルーカスがこれまで素性を明かせなかったのは、レオに嫌われるのが怖かったからなのだろう。

「そんな事で嫌になったりしないよ。僕もルーカスが好きだから」

 レオが言うと、ルーカスが驚いた様子で「え?」と言って固まった。

 マルセルが気を利かせてか、部屋を出て行った。

 レオはルーカスの手を握った。

「僕はルーカスが好きだ」

 ルーカスは茫然とした様子で、

「本当に?」と言った。

 レオは大きく頷いた。

「うん」

 ルーカスが身を乗り出した。

「じゃあ、俺と結婚してくれる?」

 レオは笑った。

「するよ。嫁でも婿でも、なんにだってなってやるよ」

「レオ!」

 ルーカスが今度は、うれし泣きの表情を浮かべた。

「好きだよ。ルーカス」

「レオ、俺も好き。大好き」

「だから、これからは何でも僕に話せよな」

「うん。分かった」

 二人は顔を見合わせると、ほほ笑み合った。

 レオは心が温かかった。想いが通じ合うというのはこんなにうれしい事だったのかと思った。

「レオ……」

 ルーカスが照れた様子でレオの名を呼ぶと、身をかがめ顔を近づけてきた。レオは戸惑いつつも、ルーカスのキスを受け入れた。レオの心は幸せな気持ちに満たされた。

 しばらくして離れると、ルーカスがベッドの端に寄って、自らの隣を手で叩きながら、

「ここに来てよ」と言った。

「何考えてるんだよ?」

「もうちょっといいだろ?」

「だめだ。怪我してるくせに」

 レオがたしなめると、ルーカスが残念そうな表情を浮かべた。

「ちょっとぐらいいいじゃん……。ああ、なんで怪我なんかしちゃったんだろ」

 レオは吹き出した。

「だったら、早く治せよ」

 ルーカスの顔がにやけた。

「治ったら一緒に寝てくれるの?」

 レオは顔から火が出そうだった。

「それは……。治ったら、いいけど……」

 ルーカスがレオの顔を覗き込んだ。

「もちろん、一緒に寝るだけじゃ済まないよ?」

「――――!」

 ルーカスが笑った。

「想像した?」

「そういう事言うの、やめろよ」

「いいじゃん。ああ、楽しみだな。はやく怪我治さなくちゃ」

「そうだよ。早く治せよ」

「それより……」

と言って、ルーカスが真顔になった。

「アレクシアが城に戻って俺がいない事に気付いたら、ここに戻って来るかもしれない。ここにいるのは危ない」

「そうだな」

「早く逃げないと」

 レオは考えた。確かに、アレクシアがレオを狙っている以上、ここにいるのは危険だ。しかし、アレクシアはルーカスの母親だ。なんとか理解を得る事はできないものだろうか。

「あのさ」

「何?」

「アレクシアに会って話してみようかな」

 レオの言葉に、ルーカスが唖然とした表情を浮かべた。

「何言ってるんだ?」

「会って、僕はアレクシアに逆らうつもりはないって、ちゃんと話せば、分かってくれないかな? それで、ルーカスと一緒にいさせてくれって、お願いするんだ」

 ルーカスは激しく首を横に振った。

「俺がそう言っても全く聞いてはくれなかった。絶対に無理だ。レオが危ない目に遭う。絶対に殺される」

「でも、アレクシアはルーカスのお母さんなんだし……」

「絶対ダメだ!」

 ルーカスはレオの手を強く掴むと、

「逃げるぞ」と言って、呪文を唱え始めた。

「え? ちょっと……」

 レオが尋ねる間もなく、ルーカスとレオの体が宙に浮いた。

「うわっ!」

 レオは声を上げた。

 ルーカスは浮いたままレオの手を引き、部屋のドアを開けた。

 居間にいたマルセルが驚いた様子で二人を見た。

「え? まさか、もう逃げるんですか?」

「ああ」

 ルーカスが頷いた。

「ちょっと待って下さい。少しは荷造りしないと。ねえ? レオ」

 レオは頷いた。

「うん」

「…………」

 ルーカスがレオの手を離した。レオの両足が地面に付き、レオはほっと息をついた。

 ルーカスがマルセルを睨んだ。

「おまえ、付いて来るつもりか?」

「もちろんですよ」

 レオもマルセルに目をやった。

「マルセルは僕たちとは離れた方がいいんじゃないか? 僕たちと一緒にいると危ないかもしれない」

 すると、マルセルが寂しそうな表情を浮かべた。

「両想いになった途端、冷たいじゃありませんか。そんなに私が邪魔ですか?」

 レオは慌てた。

「そういうんじゃなくて、僕はマルセルを心配しただけで……」

 ルーカスが横から、

「邪魔だよ」とマルセルに言い放った。

「そう言わないで下さいよ。私は役に立ちますよ? アレクシアが来た時に逃げる事ができたのも魔力測定器のおかげでしょう?」

「じゃあ、その機械だけ置いていけよ」

「ひどい……。これは一台しかありませんからダメです」

 レオはルーカスをなだめた。

「アレクシアから逃げるにはマルセルの協力が必要だよ」

「……分かったよ」

 ルーカスは渋々という様子で承諾した。

 そうして三人は、最低限の荷造りをして家を出た。

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