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第十話 いがみ合い

 翌日の朝、レオが居間へ出ると、ルーカスが朝食の準備をしていた。

「おはよう、レオ」

 ルーカスは落ち込んでいるかと思ったが、その様子はいつもと変わりなかった。

「おはよう。フリッツの様子見てくるよ」

 レオはそう言って、マルセルの部屋に入った。

 レオがドアを開けると、フリッツが動いたので、レオはベッドに近付いた。

 覗き込むと、フリッツが目を開けた。

「大丈夫か?」

 レオが尋ねると、フリッツが驚いた様子でレオを見上げた。

「……助けてくれたのか?」

「いくらなんでも野ざらしにはできないだろ? 体、痛むか?」

 すると、フリッツが起き上がり、

「痛っ!」と言って顔をしかめ、腰に手をやった。

「大丈夫か?」

「ああ。ちょっと腰が痛むけど、大した事はなさそうだ」

 どうやら大事には至らなかったようだ。レオはほっとした。

「朝食にしよう。動ける?」

「ああ」

「じゃあ、こっちに来て」

 レオはそう言って、先に部屋を出た。

 居間に出てきたフリッツは、ルーカスが用意した朝食を見て驚いた様子だ。

「すごいな。毎日こんなの作ってるのか?」

 ルーカスが得意げに、

「そうだよ。本当はおまえになんか食わせたくないけどな」と言った。

 レオは椅子を引きながら、

「座って」とフリッツを促した。

 食卓に並ぶのは芋と雑穀の粥と、茹でたエンドウ豆だ。

 料理を口にしたフリッツは、

「うまいな」と言った。

 レオとルーカスは同時に顔を輝かせた。

 ルーカスが、

「だろう? 野菜はレオが作ってるし、料理もレオ直伝だからな」と言った。

 すると、フリッツがレオとルーカスを見つめ、

「婚約してるって言ったよな?」と言った。

 レオは慌てて、

「それは、ルーカスが勝手に……」と否定しようとしたが、フリッツが、

「お似合いじゃないか?」と言ったから、思わず言葉を失った。

 ルーカスが増々顔を輝かせた。

「そうか? なんだ、おまえ案外いい奴だな」

 レオは首を振った。

「違う! 何言ってるんだよ! 婚約なんてしてないし!」

 レオは否定したが、ルーカスはそれを無視して、

「だけど、レオにまた何か強要してきたら許さないからな」と、フリッツに釘を刺した。

「おまえ、ルーカスって言ったな?」

「ああ」

「ルーカスもそこそこの力を持っているようだし、レオと二人でアレクシア討伐に力を貸してくれないか?」

 ルーカスはフリッツを睨んだ。

「やだよ。絶対嫌だ」

「そこも似た者同士なんだな。ルーカスも自分の事しか考えられないのか?」

「自分の事じゃなくて、俺はレオの事しか考えてないんだ」

 堂々と言い放つルーカスに、フリッツはため息をついた。

「話にならないな」

「おまえとなんか、話したくないね」

 食卓は一気に険悪な雰囲気に包まれた。

「食事中は穏やかにしようよ」

 レオは二人をなだめたが、場の空気が緩む事はなかった。

 ルーカスがフリッツに、

「それ食い終わったら、さっさと出てけよ」と言った。

「俺は、レオが協力すると言うまで帰らない」

「だったら、もう一度吹き飛ばしてやろうか」

「やればいい。それでも俺は諦めないから」

 ルーカスとフリッツは睨み合い、その場は重たい空気に包まれた。

 食事を終えると、フリッツがレオに改めて言った。

「アレクシアを倒そうっていう有志は大勢いるんだ。でも、今のままじゃ到底アレクシアには勝てない。レオが協力してくれれば、アレクシアを倒せるかもしれない。そうすれば、この世から魔物を消す事ができる。世の中が平和になれば、レオも心置きなく穏やかな生活が送れるだろう? だから、どうか協力してくれ。レオのような力は、持ちたいと思って持てるものじゃない。俺だって、レオのような力があればどんなに良かったか」

 レオはため息をついた。

「本当に、どうして僕はこんな力を持って生まれたんだろうね。フリッツにあげられるものならあげたいよ」

「レオ。そんな事を言わずに、力を貸してくれ」

 すると、ルーカスがフリッツの腕をつかみ、

「それ以上しつこくするなら、力ずくで追い出すぞ」とすごんだ。

「俺はレオが協力すると言うまで諦めるつもりはない」

「出てけよ」

「いやだ」

 フリッツが答えると、ルーカスが呪文を唱えだした。

「吹き渡る風よ……」

 レオは慌ててルーカスの腕をつかんだ。

「だめだ! 魔術は使わないって言っただろ?」

 それから、フリッツに視線を移し、

「帰ってくれないか? そうじゃないと、また怪我をさせるかもしれない」と言った。

「何度も言わせるな。俺は帰らない」

「じゃあ、俺たちが出てくよ」

 ルーカスはそう言うと、レオの手をつかみ、レオを引いて家を出て行ってしまった。

 外に出たルーカスは、レオの手を引きそのままどんどん歩いて行く。

 レオは慌てて、

「ちょっと待って」と、ルーカスに呼びかけた。

「何?」

 ルーカスが足を止めてレオを振り返った。

「このまま引っ越す気?」

「仕方ないだろ? あいつ、つきまとって来そうだし」

「でも……」

 レオが言いかけると、家のドアが開き、フリッツがこちらに駆け寄ってきた。

 それを見たルーカスが、

「早く行こう」とレオの手を引いたが、レオは首を振った。

「マルセルが戻って来るだろ?」

「あんなやつどうだっていいよ」

「でも、いくらなんでも、戻る前に僕たちがいなくなってたら、傷つくじゃないか」

「あいつは魔力測定器があるから、俺たちの居場所分かるだろ」

「そういう問題じゃなくて……」

 そうこうしているうちに、フリッツが二人に追いついた。

「逃げるな」

 レオはため息をついた。

「悪いけど、僕はアレクシア討伐に協力する気はないよ。それは変わらない。諦めないって言うなら、ここにいるのは勝手だけど、もう家には入れないし、いくらここにいても僕の気持ちは変わらないよ」

 レオはフリッツにそう告げると、ルーカスに、

「戻ろう」と言って、家の方に戻った。

 それから、レオとルーカスはいつもどおりの生活をしたが、フリッツは二人につきまとい、レオを説得し続けた。レオは言葉どおり、フリッツを家には入れなかったが、フリッツは家のそばにテントを張り、野宿して粘った。

 そんな日々を送っていたある日、マルセルが家に帰って来た。

 レオは畑の手入れをしていて、そのすぐそばでフリッツとルーカスが言い合いをしているところだった。

「マルセル!」

 レオは気付いて、マルセルの方に駆け寄った。

「ただいま戻りました」

 マルセルがレオにほほ笑んだ。

「怪我は? もう大丈夫なのか?」

 マルセルはまだ足を若干引きずっていた。

「動かすとまだ少し痛みますが、だいぶ良くなりましたよ」

「無理して帰って来ることないのに……」

「早く魔力測定器が反応しているのを見たくて……。全く針が動かないと、楽しみがないんですよ」

 そんな話をしていると、ルーカスとフリッツも近付いて来た。

 マルセルがフリッツを見て、

「あの方はどなたですか?」とレオに小声で尋ねた。

「フリッツだ。ずっと前から、僕に付きまとってるんだ。アレクシア討伐に加われって」

「へえ。なるほど……。レオは本当に人気者ですね」

「変な言い方するなよ……」

 ルーカスがマルセルに、

「帰って来なくてよかったのに、帰ってきたんだな」と言った。

「邪魔をしてすみません。やっぱりレオのそばにいないと全く魔力測定器が反応しないのでつまらなくて。でも、てっきり二人きりの生活を堪能してるのだと思っていたのですが、そうはいかなかったみたいですね」

「ほんとに……。邪魔なんだよ」

 ルーカスがフリッツを睨んだ。

 フリッツがマルセルに、

「あんたはレオとどういう関係なんだ?」と尋ねた。

「私はマルセルと言います。私もレオに付きまとっている一人ですよ。私は、自分が発明した魔力測定器がレオの魔力に反応しているのを見たくて、レオのそばにいるんです」

「魔力測定器?」

「はい。これです」

 マルセルがフリッツに魔力測定器を見せた。レオのそばにいるから、針が大きく振れている。

「この針がこちらに行くほど、魔力が大きいって事なんですよ」

 マルセルがフリッツに説明した。

「魔力が計れるのか。すごいじゃないか……」

 フリッツが感心した様子で魔力測定器を覗き込んだ。

「ただ、かなり大きな魔力でないと針が動かなくて、こんなに振れるのはレオのそばにいる時だけなんです」

「なるほど。それでレオのそばにいるってわけか」

「はい。レオに惹かれているもの同士、仲良くしましょう」

 マルセルが笑顔でフリッツに握手を求めた。フリッツは少し戸惑うそぶりを見せつつも、マルセルの握手に応えた。

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