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朱血姫  作者: ガチ無知
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島の話し合い

朱の謝罪の叫びに顔を上げたノラの父親。父親と朱の目が合ったところで、朱は深々と頭を下げた。島にお辞儀の習慣はなかったが、朱の悲痛な表情に村長は慌てて立ち上がった。


「あなたはどなたですかな?」


村長に尋ねられて、自分の変貌を思い出し朱は名乗る。


「わしは、朱だ。米軍艦艇からの機銃掃射でノラの体が二つに別れた時、激しい怒りで気がついたら体が大きくなってしまったのだ。」


「おぉ。神の子よ。」


ノラの変貌に思考がついてきていない村長は、一言だけようやくと言った風情で絞り出すと朱の両の手を取った。朱が頭を上げると、村長は滂沱の涙を流していた。


「ノラが死にかけたのは、米軍のせいです。朱さんのせいではありません。それに、親としてノラの幸せを願うとは言え、神の子である、健太さんとの結婚を勝手に許したこちらも、礼を欠いていたと言えます。そしてもし、健太さんがノラの愛を受け入れてくださった場合、神の子である健太さんと夫婦になるわけですから、ノラも人として生きられぬかもしれないということは、覚悟をしておりました。私もノラの親です。子供の幸せや健康を願わない親はいません。朱さん。あなたは変貌まで遂げて、ノラを救ってくださいました。礼を言うのはこちらの方です。朱さん、健太さん、あなた達は今、不幸ですか?」


強い意志を込めて、鋭く見つめ返す親の目はこうも強い力を持つのか。何をおも恐れぬまま数百年を生きてきた朱が、思わず後ずさった。


「わ、わしは、この身体になってしまってから何百年もの間、悔し思いも、寂しい思いも沢山してきた。しかし、健太と他の仲間達を得て、そしてこの島に出会えて、島の人々に受け入れてもらったことで、かつてないほど毎日を楽しく過ごしている。本当に、この島に、島の人々に、感謝をしている。私は今、とても幸せだ。」


朱の言葉に、大きく口を開き、潮風によって刻まれた深い皺を一層露わにして村長は笑顔を浮かべる。一本前歯の欠損した満面の笑みは、村長の心情を正直に表していた。


「朱さん。それでは何の問題もないではありませんか。少なくとも今ここには不幸な人間は一人も居りません。ノラも目を覚ましたらきっとこう言います。健太さんの仲間になれて嬉しい。これで私と健太さんの結婚は一層確実なものになったと。」


村人たちから大量に血を分けてもらい、落ち着いたノラはすやすやと寝息を立てていた。安らかな我が子の寝顔を満足そうに見下ろして、村長はそう言って少し笑った。




村長はノラを抱きあげると、自宅に連れていき寝床に寝かしつけ戻ってきた。村の広場に皆を集めた。丁度そこへ、馬頭に襟首を掴まれ引きずられるようにしてドルンが連れてこられた。怒りによるものか、健太は双眸を紅く輝かせながら、馬頭からドルンをひったくるようにすると、広場の中央にドルンを放り出して叫んだ。


「この男は、ノラを撃った艦艇の機関兵だ!ノラを撃った男はもう死んでしまったが、仲間はこいつだけだ!こいつは図々しくも、この島に置いてくれと言っている。こいつはノラを撃った殺してやりたいほど憎い男の仲間だ。だから、俺は助けたいとは思わないし、なんなら殺してやりたい程の怒りを持っている。しかし、俺も朱もそれについて答える権利は持っていない。だから、判断はこの村に委ねようと思って、ここに連れてきた!」


健太の訴えに、血の気が上がった島の若い男達は、立ち上がると口々に叫び始めた。一連の流れを静かに見守ってきた村長は、静かに広場の中央に転がっているドルンに向かって歩き始めた。ドルンのもとに着いた村長がゆっくりと両手を掲げた。威厳を醸しながら、中央に佇む村長の姿がやがて静粛を呼び、広場は水を打ったように静けさを取り戻した。一呼吸置いて、村長はドルンに尋ねる。


「あなたの仲間は私の娘を撃ち殺そうとした。あなた達はどういう意図を持って、この島にやってきたのか?」


ほんの百年前まで街の広場で私刑を行っていたアメリカ国民であるドルンも、島の言葉は殆どわからなかったが、ここが命の分かれ道であることは、直感できた。緊張により乾き粘つく口内を必死に動かして、島民たちに聞こえるように精一杯の大声で答える。


「お、俺達は、ただの小悪党だ。軍に悪さがバレて追われてきた。少しばかりこの島に隠れ暮らそうと寄ったんだ!あんたの娘さんを撃ったのはザッカーという仲間だ。やつも人殺しなんて到底できない小心者だ!本当は島に土産でも持ってこれたら良かったんだが、急いで逃げてきたのでそれもない。おそらくザッカーは、脅しのつもりで機銃を撃ったんだと思う。それが運悪く当たってしまったんだ。と、思う。人を殺しておいて、間違いでしたで済まないのは判る。でも俺はその時、機関室にいたんだ。もし脅しを掛けようとするザッカーの横にいたら俺は危ないから止めてたよ!本当だ!信じてくれ!本当に済まなかった!」


ドルンは必死で訴え、両手を握りしめ額につけて村長の足元に跪いた。村長も村の皆の耳に届くように、大声で話し始めた。


「ではあなたは、我々島民を傷つける気はないということですね?」

「も、もちろんだよ!もし、置いてくれるなら、漁や農作業とかも手伝うぜ!」


膝立ちでにじり寄るドルンを片手で制すると、村長は声を上げる。


「朱さん達が、何の利益もないのに島に学校を作ってくれると言った時、我々は島が変わることを恐れて反対をした!朱さんは、島に外部からの圧力があった時に、抵抗できる知恵が必要だと言った!しかしそれでも我々はグズグズと、そんなことは無いと思おうとした!しかし実際、そういうことが今起こったのだ!私達は間違えていた。既に私達は学校の存在を喜んでいるし感謝もしている!より一層の感謝を朱さんたちにするべきだと私は思う!そして、我々イトバヤット島の人間は争いを好まない。女の取り合いや、椰子酒を飲んでの喧嘩はたまにはあるが、命を奪うような行為はするべきではない!私は今、この男に尋ねたが、嘘を言っているようには見えない!私はこの男をこの村においてやろうと思う。そしてこの男を見るたびに、我々が間違えていたことを思い出し、考えて生きて行こうではないか!」


村長の言葉が終わってしばらくの間、広場はシーンと静まり返ったままであった。しかし、やはり争いを好まないのか、ホセが気を利かせて手を鳴らし始めると、まばらに拍手の音が立ち始め次第に大きくなっていく。それを見て、朱は満足そうに微笑んで振り返ると、健太と馬頭に「村で決めたことだ。お前らも無茶なことはするなよ。」と優しく声をかけた。

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