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朱血姫  作者: ガチ無知
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銃弾

頃合いを見計らい、朱と健太が子供達に集合をかけた。子供達は素直に浜に上がると、全速力で焚き火を目指して駆けていく。海で獲れた貝やエビを火で炙り、醤油を掛けおかずにする。バナナの皮に包んで持ってきた朱が握った大量の塩むすびを、子供達全員が笑顔で頬張る。がっついたせいで、喉につかえた子供に水を飲ませてやるノラ。浜にいた誰しもが、穏やかな笑顔を浮かべている。幸せな時間であった。


「健太。聞こえておるか?」

「あぁ、バラクーダ号に似てる音だな。米軍所属の艦艇かな?」


ずる賢いキツネ号であった。健太の意見は半分は当たっていた。ずる賢いキツネ号は、マニラ湾周辺に近づくスパイ活動疑いのある不審船を、発見、追跡、鎮圧するために作られた特別艦だった。バラクーダ号に使われているエンジンを、三分の一ぐらい大きさの小さい船体に無理やり詰め込んだ、巡航速度に特化した艦艇だったのだ。船首に重機関銃が据えられている。馬頭愛用のM2だ。不審船小さい船に大きなエンジンを積んで、漁民か、物々交換に来た船を装いマニラに近づいてくる。速度は早いので逃げられると厄介だが、重機の掃射で簡単に鎮圧できる。MPに追われる恐怖心から、深夜の暗い海を危険を承知でドルンとザッカーの二人は船を奔らせて逃げてきたのだった。軍の横流し品や大麻を保管していた倉庫を管理していたエンビーは有無を言わさず、目の前で射殺された。軍所属の自分らに、いきなり撃ってくることは無いだろうが、MPは本気で俺たちを追っているということだ。朝鮮戦争のせいで、日本とフィリピンは重要な軍事拠点となった。軍司令部としては、フィリピン駐留部隊のスキャンダルは記録さえも残したくないらしい。取り調べもせず、エンビーが射殺された。というのはそういう事だ。最悪、自分らも軍事裁判に掛けられることなく処分される可能性もある。なにしろ、どこかの島に、溶け込んでウヤムヤになるまで身を潜めるのが上策だ。不眠不休でマニラ湾から船を奔らせ、イトバヤットの浜辺を見つけたドルンはとりあえず上陸を決めた。浜辺には子どもたちと、数人の大人が焚き火を囲んで食事中のようだ。ドルンたちにしても島民とのトラブルは極力避けたい。島に友好的に受け入れてもらえるため、配ろうとエンビーに運ばせていた大量の大麻も射殺されたことにより受け取れなかった。寝不足で痺れた頭は靄が掛かり、上手く考えがまとまらない。最初にジャブを一発かましてから、笑顔で近づこう。そう安直に考えたザッカーは、ブローニングを砂浜めがけて横薙ぎに掃射した。



子供の尿意は急に襲ってくる。幼い子だと、あ、おしっこと思った途端に漏らしてしまうことも珍しくない。ノラの世話を受けながら、おにぎりを頬張っていた妹が急に立ち上がって、「おしっこー!」と叫び走り出した。抱えて茂みに連れて行こうと、ノラが立ち上がったと同時にパパパパという掃射音が響く。射線は子どもたちより、ずっと手前に着弾していたが、最悪のタイミングで、ずる賢いキツネ号は海面すれすれまで盛り上がっている珊瑚に船底をかすめてしまった。船首はいきなりポンと上がり、射線は一瞬だけ上がってしまう。そして一発の銃弾(M2のパワー的に言ったら砲弾と呼んでも良いだろう)はノラの脇腹に吸い込まれた。


時間が止まってしまったように思えた。不意の突風に揺らめく霧のように、あっけなくノラの身体は寸断された。周りに飛び散った血しぶきは、ノラを庇おうと立ち上がった健太の顔を真っ赤に濡らした。


「グガァッーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


健太は言葉にならない叫び声を上げた。朱は両手両足を地につけて肉食獣のように低い姿勢のまま、真紅に光る双眸はずる賢いキツネ号を射抜くように睨みつけながら、


「菊ぢ代!カルディンのご舟に鉛どベルトがあっぐ。ぞれをどってぎょい。げんだ、ノだはもうあにやわん。おまでのぢぃをあげでやげ。」


朱の言葉は既に人の声になっていなかった。朱の身体からコキンコキンと甲高い音が聞こえる。ごぼごぼぉ、ずぞぞぞと大量の気体と液体が管を流れるような音もする。そのうち朱の身体のあちこちに瘤が出始め、四肢が伸び始めた。やがてウェイトベルトを取ってきた菊千代が朱の横に立ち、ベルトを差し出した掛け声で朱は立ち上がった。朱はすっかり姿形が変わっていた。身長は百六十台半ばは、あるであろう。手足はすっかり伸び均整の取れた美しい女になっていた。菊千代から無言でベルトを受け取ると、事も無げに上部なベルトを引きちぎり、鉛を一つ右手に握る。右足で砂を蹴り一メートルほど前方に飛んだ朱は美しく着地すると、連携の取れたサイドスローフォームで鉛を投げる。砂浜スレスレを飛ぶ鉛はあっという間に海面に到達した。衝撃波なのか、両脇に水しぶきを上げながらブローニングめがけて飛翔した。


やべぇ!しでかした!島民のしかも女児を撃ち殺してしまったザッカーは舌打ちとともに、悪態をついた。これでは島民と打ち解けることはかなわない。ザッカーは浜辺の人間を皆殺しにして、恐怖で押さえつけようと瞬時に考えを改めた。ブローニングの照準を、人が集まる焚き火の辺りに修正する。トリガーボタンをザッカーが押すのと、ブローニングの銃身がガキンと音を立てて曲がるのが同時だった。鉛が当たった銃身が曲がったため、発射された12.77mm✕99mm NATO弾が暴発した。キーンという耳鳴りで、何も聞こえないザッカーは自分を検めた。両手の指が何本か吹っ飛んでいて、血がピューピューと吹き出ている。痛みは感じないが顔も負傷しているようだ。何が起こったか判らないザッカーは、周りをキョロキョロと見ることしか出来なかった。


一投目を投げた朱は、素早く次の行動へ移る。美しい長い足で砂を蹴ると、ずる賢いキツネ号に向かって走り出す。まるで重力がないように、ひと蹴りで五メートルほど朱は翔んだ。湿って硬く締まった砂浜で両足を着くと、強く跳躍をした。空中で朱は引きちぎった鉛をザッカーに向かって投げる。キョロキョロと辺りを見回すザッカーの首から上は鉛の直撃で飛散した。



宙に浮いたノラの上半身を健太は受け止めた。たちまち健太の下半身は生暖かいノラの血に塗れる。ノラは愛する健太に、初めて抱いてもらった喜びを弱々しく、しかし精一杯笑顔にして血の気の引いた顔に浮かべた。健太が真っ赤な両目をして、何故怒った顔をしているのかノラにはわからなかった。それよりも、健太が自分で噛みちぎった健太の手首の傷のほうが、ノラには気がかりだった。怒りと焦りで考えがまとまらない健太は日本語で叫ぶ。ノラにはそれが理解できない。しかし、ノラには健太のすべてを受け入れる覚悟があった。なんだかわからないが、ノラは残りの力を振り絞り、弱々しくうなずいた。健太はノラを見て、自分の血が滴る手首でノラの腹部を弄った。ノラの上半身がビクンと跳ねる。ノラの頭の中には無数のフラッシュが明滅した。ノラは湧き上がる欲望に翻弄され狼狽えた。力が戻り、ノラは力強く健太を両腕で抱き寄せる。ノラは健太に武者振りつくと、夢中で健太の唇を吸った。ノラはとてつもない幸せに包まれた。健太はノラのしたいように任せて跪くと、ノラの下半身を片手で抱き上げる。ノラの上半身の切断面には既に無数の触手が蠢き、取り憑く先を探している。上半身から滴る血が下半身の切断面に掛かると、下半身もビクンと跳ねた。元気を取り戻した下半身はバタバタと両足で暴れる。やがて内股でもじもじしだすと、失禁した。健太の両足はノラの体液で生暖かく濡れる。やがて下半身からも触手が伸びてきた。上半身の触手と、下半身の触手は空中で出会い、一層動きを活発にさせるとお互いを引っ張り始める。たちまち上半身と下半身は繋がり始める。断面から長く伸びた触手達は、血に濡れた体表を弄り一滴の血も無駄にしないと言うのか、どんどんと吸収していく。断面だった辺りからサラサラと白い砂が落ちていく。下半身に付着した不純物を体外に排出しているのだ。おそらく体内に入り込んだ雑菌も、何らかの方法で処理されているに違いない。傷の塞がった下腹部周辺には無数のミミズ腫れが浮き出て、グネグネとうごめいている。所々で、拳大の瘤や凹みが出来て、また平に戻る。ものの数分で、ノラの腹部はなめらかな褐色の肌を取り戻した。傷一つ見当たらない。そして突然、ノラは真っ赤に輝く目を見開き、鬼のように伸びた牙をガチガチと鳴らし始めた。健太はフランクと馬頭を呼び、ノラに血を与える。少し落ち着いたノラを抱えて、健太は村に走った。

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