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朱血姫  作者: ガチ無知
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宝探し

カルディンに押されて小舟は海に漕ぎ出した。エメラルドグリーンの水面が陽の光をキラキラと反射させている。朱は、潮の香りを含んだ風を頬に受けて、陽の光に目を細めている。健太は、これから始める宝探しに興奮しているのだろうか、瞳で太陽をギラギラと反射させて、キョロキョロと海面を注意深く覗き込んでいる。朱と健太はそれぞれスイカ大の石を持っていた。網袋に石を入れて腰に巻き付ける。浮いてしまう身体のための重しにしようと、二人で話し合って手頃なサイズの石を移動中に拾ってきたのだ。


「もう、今の辺りから下は水深十五メートル以下です。潜ってみますか?」

「そうじゃな。潜ってみるか。健太。いくぞ。」


朱は躊躇なく羽織っていた小袖を脱ぎ捨てると、海に飛び込んだ。健太も慌てて朱に続く。小舟に一人取り残されたカルディン。小舟を打つさざ波の音、海鳥の鳴き声、潮風が頬を撫でていく音、様々な音に包まれているのだが、あっという間に一人にされた孤独からだろうか、カルディンには静粛に囚われてしまった様な錯覚を覚えた。カルディンはサンタ・ルチア一の潜り名人。息継ぎなしで三分は潜れる。だからこそ、潜ることに対しての知識や恐ろしさも知っていた。そのカルディンがソワソワとしだした。気づくと朱と健太が海に入ってから5分を優に超える時間が過ぎていた。思わず船の上で立ち上がり、所在投げにキョロキョロと海面を見渡した。不安定な船の上で右に左によろけながら海面を窺うも、気泡一つ見つけられない。ただ狼狽えるままなすすべのないカルディンはいたずらに時を過ごしてしまい、既に十五分以上の時間が過ぎてしまっていた。人間であれば、死を覚悟しなくてはならない時間だ。朱と健太が超人である。ということが、カルディンの判断を鈍らせ次の行動に移ることに躊躇わせた。カルディンは既に狼狽える。と言う段階を通り過ぎ、パニックに陥っていた。不安定な小舟の上で座ったり立ち上がったり、あるきまわったり、見渡して両手で頬を挟み込んで叫びを飲み込んでみたり。通常考えられないほど愚かな行動を繰り返す。逃避のための思考停止だった。


海底では、朱と健太は順調にゴールドリップ探しを続けていた。海中に身を投じてすでに四十分が経っていた。しかし二人の網袋に、白蝶貝は数えるほどしか入っていない。数が少ないのには理由があった。二人は白蝶貝の中身を探りながら採集をしていたのだ。貝の中央を爪で弾いて反射した振動を肌で捉える。そして真珠が入っていると思われるものだけを採集していた。カルディンには、大きさが揃っていて真球に近い形が理想と言われていた。最初の十五分が経った頃、朱と健太はジェスチャーで話し合って、集めるサイズを決めた。水滴型のものや、半球型のもの、楕円形のものは採集を見送った。五十分が過ぎた辺りで、合図を送り合い二人は浮上した。船上では、思いついたように祈っってみたり、顔色を赤や青に変えたりと大忙しなカルディンであったが、水面にポカリと朱と健太の顔が浮かんだのを認めた途端、空を見上げてひとしきり絶叫したあと辺りを見渡し、腰を抜かしてへたり込んだ。極度のストレスに長時間晒され一気開放されたことにより、弛緩してしまったようだ。舟に乗り込みながら朱が尋ねる。


「何だカルディンどうした?何かあったか?」

「カルディンどうしたの?」

「どうしたのじゃないよー!私がどれだけあなた達を心配したのか判ってますか?二人共死んだと思いました。」

「あぁ。いや、すまんすまん。わしらは一時間ぐらいは息を継がなくても動けるのだ。最初に言っておけばよかったな。以後気をつける。勘弁してくれ。」

「もういいですよ。ほんと朱さんたちは常識の外で生きてますね。で、白蝶貝取れましたか?」

「おぉ、取れたぞ。これだ。」

「え?あれだけ潜っててこれだけですか?ずいぶん少ないですね。」

「いや、お前が言う通り、なかなかなかったな形の揃った真珠入りの貝は。」

「え?これ全部真珠入りですか?ど、どうやってそんな・・・」

「指で弾いて反射音で、だいたい内部状態が判るのだ。それで、無駄に取らないように選別して取ってきた。」

「ははは。ほんと何でもありですね。それじゃ、これは宝の山です。大事を取って浜に上がってから開けてみましょう。」


呆れた様にカルディンは乾いた笑い声を上げると、舟を浜に向けた。浜に小舟を引き上げているカルディンに朱が尋ねる。


「なぁ、白蝶貝は食えるのか?」

「えぇ、食べられますよ。真珠漁に出た後は、島中で焼いて食べます。真珠漁を楽しみにしている子供も居るぐらいですよ。」

「そうか。では食べてやろう。真珠だけ取って捨ててしまったら、命に申し訳がない。おーい!貝を焼いて食うから、火を熾してくれ!」


朱は、フランクと菊千代に叫ぶ。鬼神丸の上から、フランクが判ったと手を振っている。定位置に舟を戻したカルディンが駆けてくる。朱達三人は、鬼神丸の日陰に集まり白蝶貝を開き始めた。まずは一つ目、なかなか理想的な真球の真珠が入っていた。カルディンは小さく感嘆の叫びを漏らした。続いて二つ目。一つ目とほぼ同じぐらいの真珠が入っている。ヒュッ!カルディンが、驚愕した拍子に息を吸った音がした。三つ目。やはり同じぐらいの大きさの真珠が入っていた。三百の貝を取ってきて三つ入っていたら、喜ぶレベルの話だ。三個開けて三粒の真珠が出てくることは奇跡である。四つめ。四粒目の真珠だ。


「アクニンんー!」


興奮したカルディンは砂浜を転げ回り、子供のように足をバタバタさせてはしゃぐ。結局、三十の貝から二十八粒の大きさの揃った真珠が取れた。一つはエクボが有り、もう一つは半球形だった。カルディンは興奮が抑えられずに話す。


「朱さん!凄い!凄いです!ゴールドリップは濃い金色のものが価値が高いです。色と大きさを揃えられたら、それでまた価値が上がります。数が三十ならブレスレットに。八十ならネックレスが作れます。今日取れたのは十ミリの球が二十八。球が大きめなので、ブレスレット分として売れます。おそらく五千ドルぐらいにはなると思います。漁を後数日続けて、今日と同じぐらい真珠が取れて、色と形を揃えたネックレス分のゴールドリップを集められたら、一万五千ドル位になるでしょう。学校づくりにはどれくらいお金が必要ですか?」


一気に話したカルディンは興奮を鎮めるため、水をグビグビと喉を鳴らして飲んだ。

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