白蝶貝
「よっしゃ!これで決まったね。あんたたちには期待してるからね!島の女を代表して礼を言うよ。なにか困ったり私らの力が必要になったら、遠慮なく相談しておくれよ!」
結論が出たことで、島の連中は日常へと戻っていく。集会所には朱たちとカルディンが残った。朱の隣りに座った健太が何やらもじもじとしている。その様子を見ずとも把握している朱はニヤリと笑って言った。
「健太。皆で決めて動いたことだ。ぬしが遠慮することはない。金は皆で作ればいいだろう。なぁ、カルディンよ。なにか金を作る方法はないか?」
カルディンはしばらく腕組みをして考え込んだ後、立ち上がり集会所を出ていった。すぐに戻ってきたカルディンの手には、一枚の貝殻が握られていた。朱の前に座り込んで貝殻を手渡したカルディンは口を開く。
「白蝶貝と言う貝です。この貝から稀に真珠が取れます。ゴールドリップと呼ばれて金色に光っています。深水二十メートルまでの海域に生息しています。我々はお金を作るため、深海十五メートルほどまでにいた白蝶貝は取り尽くしました。深いところにはまだ白蝶貝は残っていますが、採集は困難です。貝の中に自然に真珠ができるのは非常に稀です。何百個も取って一つ見つけたらラッキーです。真珠はすべて売ってしまったので、手元にありません。なるべく真球に近い形で、歪みがなく輝きが均一で、色が金に近いほど価値が高くなります。百ドルから、大きかったり質が良ければ三百ドルぐらいになることも。そして大きさや色が均一な真珠が数がまとまると、価値は飛躍的に上がります。ネックレスやブレスレットに加工できるからです。深海作業用の機材があれば、十五メートル以上の深さの採集も出来ますが。米軍なら持っていると思いますが、フィリピン国内には流通していません。」
そう言ってカルディンは肩を落とした。
「なんだ、そんなことか。わしと健太なら百メートルぐらいまで潜れる事を確認済みだ。全然問題ない。」
こともなげに、朱が言う。カルディンはパチンと自分の額を叩いた後、からからと笑い始めた。苦しさを和らげるため、足を投げ出し両手を後ろに突いて天井を見ながらひとしきり笑い声をたてる。気が済んだのか、姿勢を正して朱に向き直ると、
「朱さん、あなたは本当に何でも出来ますね!それでは、ゴールドリップ集めましょう。なるべく大きさが揃ったものを二十個集めましょう。ブレスレットが作れるはずです。それをマニラに売りに行きましょう。四千ドルで売れると思います。それだけあれば、教材も揃えられますか?」
「そうだな。充分であろう。どれ、それでは早速船を出して潜ってみようぞ。健太ついてこい。」
「うん!」
あれよあれよという間に、お金の問題の解決策が決まった。さっきまで心に重くのしかかっていた気後れが嘘のようだ。健太は元気よく返事をすると、朱について浜に向かった。二人は浜への道中、色々と打ち合わせを始めた。
「カルディンは何百個も取って真珠が入っているのは一つとか言うておったの。それが乱獲に繋がり、この浜近辺深水十五メートル以下の白蝶貝はなくなってしまった。我々余所者の都合で、この島の資産が減るのは忍びないよな。わしがまだ幼い頃な、趺喬が遊びを考えてくれてな。紙の箱に入れたものを当てる。と言う遊びだ。まぁズルと言えばズルなんだがな。箱を軽く降ると、中のものがぶつかって音を立てるだろ?その音に集中していると、材質とか形とかが大体判ったのよ。なんというかの、音が肌にぶつかった時に、形がわかる。みたいな感じだったかの。健太もそういう事あるか?」
「あぁ。判る判る。飼っていた鶏の卵に、たまに双子の卵あるやろ?あれがたまたま菊千代と俺とで続いて出たことがあってな。なんとなく勝負やぁ!ってなって、喉の奥の方で立てた音を当てると、双子はこの玉子だ!って判るもんだから、菊千代に連勝してな。菊千代悔しがっとったわー。」
「そうか。その方法を応用して、なるべく形と大きさの揃ったものだけを取るということを試してみよう。」
「わかったで。一度潜っていろいろ試してみよう。合図したら一度上がって貝開けてみようや。」
「そうだな。うまく真珠を集められて、学校が始められると良いな。」
健太は、いつも俺の気持ちをお見通しなんだからな。と、喜びと照れの混じった気持ちを、鼻をこすることで誤魔化した。やがて二人は茂みを抜けて浜に出た。そのまま迷いなく鬼神丸まで歩くと、躊躇なく二人で鬼神丸を担ぎ上げる。すると、後ろから叫び声が聞こえる。カルディンだった。必死になってウェーィト!と叫んでいる。朱と健太は鬼神丸と担いだまま、何事かと待っていると、追いついたカルディンはゼェゼェと息を切らせながら、言う。
「そ、げ、ぜげぇ。そ、ゲホゲホ。そ、そんな大きな船は、げ。ひ、必要ないですから。ゼェゼェ。お、俺のコ、小舟がありますから。ちょとまってください。」
カルディンにしてみれば、何トンもありそうな鬼神丸を、それほど沖に出る必要もないのに、こんな大船を海に出す必要もないのと、朱と健太に島には無いような大きい船を担がせているのが畏れ多いのとで、慌ててしまったのだ。朱と健太は何事か?となんでも無いように担いだまま目線を交わし首をかしげあったが、カルディンの血相を見て、とりあえず。と、鬼神丸をその場に下ろす。カルディンは少し落ち着きを取り戻すと、浜の端を指差した。崖の脇に何艘かの小舟が並べられていた。カヌーのような細身の船体の片側にステーで浮きが取り付けられている舟だ。カルディンは手早く自分の舟を波打ち際まで移動させると、乗ってくださいと朱と健太に促した。小さい船なので、後を付いてきた菊千代とフランクは乗り込めそうにない。振り向いた朱にフランクは、二人は荷物整理をしています。とジェスチャーで伝えた。




