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朱血姫  作者: ガチ無知
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カルディンの涙

普段温厚で、勝負しようと言ってきて負けた時も笑顔で収めたカルディンが、ここまで感情を露わにするのも珍しい。そう感じた朱は、カルディンに尋ねる。


「カルディン、そこまで激しく感情を高ぶらせるのだ?理由を話してみろ。」

「ジョアは子供の頃から、とても仲良かった友達だ。何時も一緒にでかけて、一緒に木に登って、一緒に泳いで、一緒に笑って、一緒に怒られた。バナナもいつもはんぶんこして食べたんだ。俺が溺れそうになった時も、命がけで助けてくれた。俺もジョアも死んでいてもおかしくなかった。なんとか助かって、波打ち際で二人してゲロ吐いて。ふたりとも涙と鼻水が凄くて、お互いの顔を見て笑ったんだ。俺とジョアは年の近い兄弟みたいなもんだった。それがある日、急にジョアのお腹が膨れだして、次の日から熱が出て三日目には死んでしまった。汗が浮いた顔で、ジョアの手を握った俺と目が合うと無理して笑った。最後に俺にゴメンって言ってジョアは死んだんだ。ゴメンってなんだよ!謝るのは俺の方だ!何の準備もしてこなかった俺たちが悪いんだろ!なんだよゴメンって・・・」


その後は言葉にならず、カルディンはずっと啜り泣くばかりだった。朱は立ち上がるとカルディンの横に移動して背中をさすりはじめた。カルディンが落ち着くまで根気よく朱は待った。カルディンが鼻水を啜って状態を起こし、朱に礼を言ったところで話し始めた。カルディンはしゃくりあげながら、その言葉を訳して村長たちに伝える。


「私は七百年前はただの少女だった。ある日、夜中にトイレの為目が覚めた私は、外に出た。すると、空から火の玉が落ちてきた。火の玉は私の家の横に落ちた。家を焼き尽くし、家族は全て死んだ。私も大怪我をしてそのまま死ぬはずだった。しかし、私から全てを奪った、火の玉から人のようなものが二つ出てきた。人のようなものは、自分を傷つけ自分の血を私の傷口に垂らした。私の大怪我はみるみるうちに治ってしまった。私はその日から、水も食事も必要としなくなった。私が生きるために必要なのは人の血だけだ。私に血を分けた人間は、大怪我や病気が治る。ホセの息子を治したのも、その不思議な力のせいだ。それ以来、死なずに何百年も生きている。あの火の玉から出てきた二人は神だったのか、悪魔だったのかは判らない。私が神なのか悪魔なのかもわからない。ただ、私には人の心がある。目の前で人が死んだら悲しい。仮にこの島に誰かが攻めてきて、戦った上で敵が目の前で死んでも、やはり悲しい。私が住んでいた日本では、私を悪魔だと考える人が多い。だから私は一人でずっと暮してきた。私は悲しむのは嫌だった。たまたま仲間ができたので、一緒に日本を出て旅に出た。そして、この島に立ち寄った。私はこの島が好きになった。この島の人々が好きになった。この島の生活が好きになった。もし、あなた達が許すなら、私達はこの島に滞在したい。そして、あなた達が望むなら、病気や怪我を治そう。そして、あなた達が望まないのなら、今すぐこの島を出ていこう。」


カルディンと朱の言葉を聞いて、村長と男たちは激しく言葉をぶつけ合い出した。三十分ほど朱たちは、待たされた。その議論の長さに、島の人間達が島の生き方を頑なに守ろうとしている強い意志を感じた。やがて話が終わったのか、村長が朱たちに向き直り口を開く。


「私達は、既にホセの息子を救っていただいて、それについて感謝もしています。今更、あなた達を悪魔だという気は全く有りません。あなた達は神の使いだと思っています。ただ、やはり島が変わってしまうのを反対する人間が、まだ多くいるのです。私も島が変わってしまった時に、島の仲間に責任が取る方法がない。その事が怖い。あなた方に、すぐ出ていけなんていう人間は島にはいません。どうぞ、お好きなだけ滞在してください。学校については、島の年寄と若い人間達でしばらく話し合わないと結論が出ないと思います。朱さんの好意に対して、失礼だとは思いますが、どうかご理解ください。」


村長の言葉に、朱は微笑むと右手を差し出す。村長はその手を取ると自分の額に押し付けた。


「あ、握手ではないのか?」


戸惑う朱のつぶやきに、カルディンはフィリピンで敬意を表す動作ですと説明した。やがて集会所に人が集まりだした。学校の是非について、主要な村人たちと、賛成派達が議論を始めるらしい。流石にその場に朱達がいたら話しづらかろうと、気を使って一行は外に出てきた。集会所から外に出た瞬間、馬頭を認めたクラウディアが駆け寄ってきて馬頭の腕にまとわりつく。当然馬頭も満更ではなく慈愛の瞳をクラウディアに向ける。その二人に立ちふさがった男がいた。見ると男は滂沱の涙を流すどころか、鼻汁も涎も大量に垂れ流して放心したように泣いていた。子供が泣くようにえづきながらなにか言っている。カルディンが笑いを堪えながら、男の言葉を朱たちに伝える。


「俺は!俺はぁっ!クラウディアが誰のものにもならないと言うから、諦めて見守ってきたぁっ!だがなんだ!いくら神の使いだと言え、俺の弟を救ってくれた恩人だと言え、カモメが釣った魚をかっさらう様に!お、お前つ、強そうだな!でも、俺はこ、こわくねえぞ!俺は、お前がクラウディアを守れる男なのか、た、確かめに来た!」


どうやら、昨日救ったホセの兄貴らしい。クラウディアに熱烈な恋をしていたようだ。アイドルに向けるファン心理のようなものなのか、行き場のない気持ちを命がけで馬頭にぶつけに来たのだった。ここで怪我人でも出したら話がこじれてしまう。朱は一計を案じた。カルディンに言って、ドラム缶を一つ用意させる。何枚か麻袋を敷いてクッション代わりにした。朱がカルディンに言って腕相撲のルールを男に伝えさせる。背が低くて届かない朱が木樽に乗って審判を勤めた。娯楽に飢えている島の人間がぞろぞろと集まってくる。朱が叫ぶ。


「男は力だ!」

「女は愛嬌だ!」

「男は女を食わせるために働く!働いて力をつける!その力は女を守るために使う!女は守ってもらうために、愛嬌を身につける!可愛い女は男に守られる価値がある!」


朱の言葉を島の言葉でカルディンが叫ぶたびに、叫び声が上がる。その隙に朱は馬頭に耳打ちをした。(勝つのは良いが、怪我はさせるな。)小さくうなずく馬頭。


「可愛いクラウディアの為に今二人の男が力を出し尽くす!勝った方も負けた方も勇敢な男だ!島の皆で讃えようぞ!では、行くぞ!見合って見合って、はっけよーい!残った!」


興奮の坩堝の中、馬頭とホセは男のメンツをぶつけ合った。

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