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朱血姫  作者: ガチ無知
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村の宴

歓声が上がったと同時に、首を縄で引かれたヤギが広場の中央に引き立てられる。四人の男が手際よく分担してそのヤギの喉を掻き切り、吊り上げて血抜きをし、皮を剥ぎ解体していく。椰子の実を割って作った器に、ヤシの樹液を発酵させて作った椰子酒が波々と注がれると、皆で回し飲みを始めた。村の人間も朱一行も燃え盛るヤシの木を中心にして輪になって座っている。炎に照らされ皆、朱い笑顔だ。ヤギの肉が次々と焼かれて、皆の前のバナナの葉に無造作に並べられる。馬頭と菊千代が気を利かせて慌てて茹でたヤシガニが配られ、馬頭秘蔵のウイスキーも皆に振る舞われた。カルディンは朱と健太の間に陣取り、村の人間達への通訳をしてくれている。いつの間にか、馬頭の隣には肉感的で妙齢の女性が、パーソナルスペースを無視した距離で座っている。女性の顔が朱いのは、炎に照らされているだけではないようだ。女性は、馬頭が強大な生きる力を持っていることを直感で見抜き、願わくば馬頭の子を生みたいと感じ、気づいたら馬頭の隣に寄り添うように座っていた。ということらしい。「生きるため」その一点のためだけに女を遠ざけて生きてきた馬頭も、流石に気づきその女性に視線を落とした。女性は真っ直ぐに馬頭の瞳を見上げている。炎の光を反射して輝く瞳は、馬頭が今まで接してきた色街の女達にはない瞳の輝きだった。馬頭はその輝きに吸い込まれるような錯覚を憶え、陶然とした。目があってからずっと口が開いたままだ。女性の絖光る唇が動いた。


「アナク パリニィ」

「アラスダ」


馬頭は、反射的に答えていた。彼女が何を言ってるのか判らなかったが、馬頭は馬頭の野性的な直感で承諾するタイミングであると判断し、思わず韓国語で判った。と答えていた。途端にカルディンが大笑いを始めた。興奮したカルディンは立ち上がると、馬頭に向かって叫ぶ。


「ヘイ!ミスター・ビッグ!彼女が何を言ったか判ったかい?!」

「いや!わからなかった!」

「アハハハハ!そうかい!そんで、ミスターはなんて言ったんだ?」

「よく判らなかったけど、今はこう言うしかないな!と思ったんだよ俺は。それで、判った!と韓国語で答えた!」

「ギャハハハハハハハ!ミスター!あんた傑作だよ!その子はクラウディアだ。この島イチの色女だ!この島の若い男を全員袖にしたモテモテネエチャンだ!そのクラウディアが、ミスターと子供を作ろうって言ったんだよさっき!ちっきしょーめ!妬けるぜ!ミスター!」

「えぇっ!ま、ほ、へ、お。本当か!」


馬頭の耳の天辺まで朱いのは炎のせいじゃないようだ。カルディンはニヤァっと笑うと、


「ミスター。島一番の色女の誘いを断る間抜けは、ここにはいませんよねぇ~?」

「あ、おふ、げっごふっ、お、俺はよく判らねえんだ、そういうこと。喧嘩や殺し合いなら、起き抜けでもOKなんだが。」

「大丈夫。クラウディアはあの艶っぽさだけど、まだ誰も触れてないバージンだ。ミスターと一緒です。清い二人を神が導いてくれますって。考えるな感じろですよ。」

「そ、そ、そうか。そ、そうだよな。身体が自然に動くよな!た、戦いのときも、そ、そうだもんな!」


馬頭はフラフラと立ち上がると、片手でひょいとクラウディアを抱きかかえる。クラウディアは真っ赤な顔を馬頭に寄せて、何かを耳打ちした。片言の英語でクラウディアの家を教えている。


「みんな喜べぇ!今日は奇跡がてんこ盛りだ!ホセは生き返り、クラウディアは夫を見つけた!来年は可愛い子をこの村は授かるぞ!」


カルディンの呼びかけに村中が湧いた。悔しさに転げ回っている男が何人もいたが。一連の出来事を見て朱は大笑いしている。朱がこんなに腹の底から朱が笑ったのは、死んだあの晩から七百年の間で初めてのことだった。朱は陽気に健太の肩をバシバシと叩きながら、


「のう、健太!馬頭の居場所探しは思ったより早く見つかりそうじゃの!」


と、上機嫌で言った。さっきから村人達が入れ代わり立ち代わり、神の使いだという触れ込みの朱と健太に酒やごちそうを持ってくる。そしてカルディンが、彼らは神の使徒故、何も口にしないのだという説明を何度もしている。村人たちは割りと素直にカルディンの言葉を信じて引き下がる。その繰り返しが途切れることなく続いていた。 フランクはいつもの微笑みを顔に張り付かせて、菊千代の肩をバンと叩いた。


「菊千代さん、見てください。朱さんがあんなに笑ってます。私は彼女が笑うと嬉しくなるんですよ。人間の幸せってなんだろうって考えるんですけど。難しいですよね。でもね、犬がどれだけ幸せだったかって考えると、生まれて死ぬまでに、しっぽを振った数だろうって言った人が居たんですよね。それに照らし合わせると、笑った回数だ。って言えるんと思うんですよ。美味しくて笑う、おかしくて笑う、嬉しくて笑う。いろんな笑いがありますけど、朱さんは幼くして笑えない人生をとてつもなく長い時間過ごす羽目になった。とても残酷です。でも私には何も出来ない。だから、めったに笑わない彼女が笑っていると、自分も救われたような気持ちになります。」

「フランクさん、判りますよ。私も世界から争いを失くしたい。なんて偉そうなこと思いついて、こんな旅に皆さんを巻き込んじゃいましたが、まずは身近な人が笑えてないとダメだよなあって考えるようになりました。朱さんは私の恩人ですし、少しでも幸せに過ごしてほしいと思っています。」

「この島に着いて三日立ちましたよね。朱さんを見てると、この島の環境は、朱さんにとって良いんじゃないかと思えるんですよ。どうですか?菊千代さんはどう感じます?」

「あぁ!私もぼんやりとですが、そんな事考えていましたよ!今の所、村の皆さんも我々のことを歓迎してくれていますし、なるべく長く滞在したいですね。」


フランクと菊千代は、そのまま燃え盛る炎を見つめて、じっと考えこむのだった。

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