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朱血姫  作者: ガチ無知
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脱出

「それで、お嬢ちゃんらの移動手段はなんですのん?あぁ。船。古い帆船。そりゃ、目を付けられ辛いやろうから、脱出には打ってつけでんがな。ただ、流石に今出発!というわけにはいきまへんで。こんな明るいうちにのこのこ降りてったら、あっという間に武装集団に囲まれまんがな。暗くなってから、こっそり脱出しまひょ。それで。嬢ちゃんらはとてつもなく力あるやろ?下のフロアに徹甲弾やら焼夷弾やら曳光弾までブローニング用の特殊弾と通常弾合わせてまだ二万発はありますのんや。あと、交換用のバレルまだ二十本はありますわ。李承晩に、保導連盟をまとめてくれ言われてすぐに、銃弾やらこの銃やら、この場所やら色々準備しておってん。まさかこうなるとは思うてなかったけどな。まぁ今日一日やったら、二千発もあれば充分やさかい、持てるだけ持っていってや?」


この男、急ごしらえの傀儡大統領とはいえ、一国の元首から一部地域の組織長を依頼されるだけあって、最初から見た目幼女の朱を長という前提として話をしている鋭い洞察力と言い、充分すぎるほどの銃弾と特殊武器の準備や、立てこもりに最適な場所の確保、踏めば音のなる石を敷く準備まで、最初から予想していたかのような周到な手を打てる頭の回るリーダーではあったのだろう。ズケズケと、朱と健太に銃弾を担いで運ぶ指示をだして笑顔で手を振りながら二人を送り出した。軍用の丈夫な大型ザックに弾薬ケースを詰め込んだものを二つずつ朱と健太は担がされて、滑りやすく急斜面な盛り土を降りていく。普通なら無理だが彼らの超人的な体幹が可能にする芸当であった。一つのザックが約二百キロ。百発入りカートリッジが十五ケース、二人で六千発の弾薬を担いでいることになる。見た目が五歳ほどの幼女と、十二歳ほどの男児が0,8トンもの弾薬を担いでいるとは誰も思わない。誰からも誰何されることなく、鬼神丸まで移動できた。その道中、口を開いたのは健太からであった。


「朱。勝手にあんなおっさん引き込んですまんかったわ。」

「健太よ。ぬしはわしにとって、この地球上でたった独りの仲間だ。そのお前が決めて動いたことだ。反論はない。そもそももし、反論があったとしたら、あの場で言ってる。わしら二人はこの地で狂ったような矛盾を抱えている存在とも言える。あの男独りと行動を共にすることで、健太の迷いが軽くなるなら安いものだ。」

「ありがとうな。しかし、あのおっさん、名前も知らんが、あんな人初めてや。どれだけの修羅場をくぐっているとあんな考え方になるのかのう。しかし、あの身体もすごかったのう。相撲取りでもあんなのなかなかおらんで?飯も相当食うんやろうなぁ。」

「おぉ。そうだ。あの牛のような巨体だ。米を補充せんとなるまいよ。一体どれだけ食うのか想像もつかんな。変な英語を使うし、何から何までおかしな男であったわ。」

「そうですね。でも、なにか先回りして話す事も多いし、用意周到すぎるようなところを見ると頭のいい人かもしれませんね。」

「そうじゃろうな。やつの考え方が正しいかどうかは判らぬが、生きる為には人を殺す事を恐れず、敵が殺しに来るのも当然という。極端だが考えが定まっていて迷いがないから、答えがすぐ出るのだろうな。」

「なんだか楽しみです。」

「そうか。よかったの。」


話が終わって丁度鬼神丸に到着した二人は、フランクと菊千代に巨漢について話して聞かせた。そしてその男を深夜に迎えに行き、今後我々の仲間になることも話した。朱は念の為二人に反対か尋ねてみた。フランクは素直に面白いと思うと言った。菊千代は、


「私は朱さんに救われなかったら、未だに鍋割山で前後不覚に切り刻まれる毎日を送っていたでしょう。それを考えたら、何があっても全くマシです。それに健太さんの悩みが軽くなるなら私は良いことだと思います。」

「菊千代ありがとう。フランクもありがとう。なんか勝手に呼んじゃったけど、面白そうなんだ。よろしく頼むわ~。」


少しバツが悪そうに、掻きながら頭を下げる健太であった。


深夜になり男を迎えに、健太と朱が鬼神丸を後にした。男を狙う襲撃者がいれば面倒なので、仲の良い兄妹を装いつつ二人とも感覚を研ぎ澄ませながら進んだ。岬へ向かう方向に別れる道に進もうとした時、二人は二百メートル先の茂みに身を潜める一人の気配を感じた。朱が健太にうなずきかけると、健太は尿意に襲われた体で道の脇の林に入っていった。健太は茂みに入り不審者の視界から消えた辺りで感覚をマックスまで増大させて、高い木の枝に飛び上がる。辺りは人家から離れ、街灯もない、林に入れば真っ暗闇である。しかし感覚を研ぎ澄ませている健太の障害は何もない。慎重に気配を伺いながら樹上を進むが、やはり一人の気配しか察知できなかった。程なくして不審者の潜む茂みの真上の樹状に健太は到着した。茂みに潜みつつ高射砲台を窺いながらタバコを吸っている。単なる見張り役として、組織から寄越されている人間であろう。辺りは風にそよぐこの葉擦れの音と、遠くから岩礁に打ち寄せる波の音しか聞こえない。健太は、波の音とこの葉擦れの音に自分を同調させる。健太は絶対のタイミングで枝を軽く蹴った。音もなく垂直に落ちていき、男の背後に両足がつくより前に男の左右の頸動脈を両手の中指で押さえた。男は枝から落ちた葉が優しく首元に触れたと思った。しかし同時に両側と思うより先に意識が落ちる。健太は手際よく男の背中を木の幹につけて座らせた形をとらせる。男の両腕を木の幹に回し両手首を持ってきたロープで縛る。男はまだ意識が戻らない。朱が趺喬から伝授された人知れず血をもらう方法を、朱から健太も伝えられていたのだった。健太は木の幹越しに男の両肩に手をかけると引き寄せる。男の胸郭が広がり肺に空気が入る。男はすぐに意識を取り戻した。何が起きているか判らず左右を見渡し、手首の自由が利かないことを知る。男が慌てるよりも早く、健太は絶妙のタイミングで、声を出したら、殺す。と男の耳元で英語で囁いた。健太は音もなくその場を立ち去る。英語は判らずとも騒いだら殺されるというのは男も理解したらしい。男は数分おとなしくしていた。正体不明の敵が、息を潜めて後ろに居るのだという恐怖と戦う。男が拘束されたまま放置されたのだ。と理解して全力で騒ぎ出すのには数十分を要した。


一人道に佇み待っていた朱は、茂みで起こっていることをほぼ正確に把握していた。そして戻ってきた健太と合流し、高射砲台に向かう。盛り土を上りきると、昼間健太が蹴り壊した鉄扉をガタガタと横にずらして、大げさに両手を広げて巨漢が現れた。大きな口をガバっと開けて親愛の笑顔を浮かべているのが、逆光で見えずとも判る。


「お迎えありがとうさんです。それで、そこらにネズミはおらんでしたやろか?」

「あぁ、それなら一匹あっちの茂みの中に居たぞ。健太が木に縛り付けて殺すと脅してまだ間もない。ネズミは恐怖でまだ動いてないが、移動するなら早いほうが良いの。」

「そうでっか~、お嬢はえらい気がきいて助かります~。ほな、さっさといきまひょか。すんまへんけど、残りの弾薬二つずつお願いしますわ。」


下手に出てる体で、テキパキと指示を出し簡潔に話をすすめる男。やはり只者ではないのぅ。と心で呟く朱。朱と健太は昼と同じく大型ザックを二つずつ担いで高射砲台を降りる。男はザックを一つリュックのように背中に背負って、ブローニングM2を肩に担ぐと朱たちに続き降りていく。朱たちは階段を降りるような安定感だが、男は時折小さく叫び声をあげる。それでも固められ年月が経った滑りやすい赤土の上を、四十キロある銃器と二百キロ近いザックを担いで、転ばずに降りていくのは大したものだ。朱と健太は周囲を窺ってみたが特に以上は見つからなかった。無事鬼神丸に着いた三人は弾薬を運び込み、船室で男を紹介することにした。


「この人がえーと・・・そう言えば名前聞いとらんかったわ。」


健太がそう言うと、男は直立の姿勢から丁寧に頭を下げると、


「韓国人は普通名前を捨てない。しかし俺は捨てた。生きるためとは言え、あまりにも人を殺しすぎた。部下や仲間も沢山死なせた、ろくでもないリーダーだ。この重機関銃はマ・デュースと言う。俺に残ったただ一つの相棒だ。韓国語だと馬頭が似てる発音だ。だから俺の頭は馬の頭並みということで、馬頭と呼んでくれ。あんたたちは命の恩人だ。何でもやるから、気軽に使ってくれ。よろしく。」


と、朱達の前で初めてスラスラと日本語で挨拶をした。

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