表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱血姫  作者: ガチ無知
34/70

済州島

フランクの気持ちが、徐々に回復してきたため全体的に和やかな気持ちで、済州島に上陸した一行。


「な、なんだこれは?」


驚愕の表情を顔に張り付かせた、朱の口から漏れた言葉。千年の時間を生きてきた女を驚愕させる出来事なぞ、早々あるものでもないと思うが無理もない。済州島は一面焼け野原であった。木造家屋はことごとく焼け落ち、未だに島のあちこちから黒煙が立ち上っている。遥か彼方にも煙が見て取れる。島の全域に渡り状況は変わらないと見て良いようだ。かろうじて政府直轄の港湾管理事務所などはコンクリート製で残っていたが、壁面に銃弾の痕であろうか、所々が抉れていた。小銃を肩にラッキーストライクを咥えた兵士を、朱は呼び止める。


「先ほどバラクーダ号のピーター艦長に上陸許可を貰い上陸してみたら、この有様です。一体どうしましたか?艦長は特に島について言っていなかったので、私達は驚いています。現在島に危険はありますか?」

「君たちはどこから来た?なんのために上陸した?」

「私達はインドへ行く途中です。この島には水と食料の補充で寄りました。何があったのですか?」

「うーん。あの艦長のことだから、この島について触れたくなかったんだろうな。」


兵士は顔をしかめて独り言を言った。


「んー。連合軍としては、この島の事件については不干渉を貫いています。簡単に言うと祖国分断に対する反対勢力や、社会主義に傾倒したバカどもがこの島で蜂起し、韓国政府が鎮圧しているところです。危険かという質問だが、甚だ危険と言わざるを得ない。テロリストの犠牲より遥かに多くの一般人が巻き添えになっている。なるべくなら、港の近くで用は済ませて早々にここを立ち去ることをおすすめする。ピーター館長は私もよく知っている人物である。正義感の強い人だ。彼は一般人が多く犠牲になっているこの状態を面白くは思っていないのだと思う。だから、あなた方に説明しなかったのだろう。」


気がつくと朱は小刻みに震えていた。目も赤く光っている。朱は激しく怒っているのだ。朱の様子を見て驚いた兵士は


「おい、大丈夫かい?お嬢ちゃん。目も充血してるぞ。衛生兵を呼ぼうか?」

「必要ない。落ち着いたら直る。色々教えてくれて、ありがとう。」

「お、おぉ。なんてことはないよ。アメリカ軍人は女性には優しいのさ。」


なぜか分からぬが、急に身体を強張らせた畏怖の感情。それをごまかすようにおどける兵士。一行は鬼神丸に一度戻り、話し合うことにした。東屋の下に車座になる一行。


「人間は!人間というものは!なぜに。なぜにこう。争いを望む女や子供がおるか?男は。権力というものは。なぜここまで眼を曇らせるのか!」


あまりの怒りに震えが収まらぬ朱。心配そうに朱の背中をさする健太。しばらくすると朱も落ち着いてきて、瞳も戻ってきた。朱は一度大きく息を吐くと、フランクに尋ねた。


「フランクよ。結局の所、どういう状況なのだ?」

「ユダヤ人として迫害を受けてきた経験から推測で話します。人は無意識下でも意識下でも、カテゴリに従い他人を区別します。カテゴリとは、国であったり、人種であったり、宗教であったり、思想であったりします。こうして人間というものは、自分と異質カテゴリの人間を差別や迫害することに寄って本能的な安息を得ます。これは井戸端に洗濯に集まった奥様方にも存在しうる構造です。そしてその構造は、様々な権力闘争に利用されてきました。古くは宗教戦争から、領土戦争、奴隷戦争、そして、今の朝鮮戦争は、社会主義という新たな概念が生まれたことによる思想戦争であると言えます。それら様々な争いの根源にあるのは、先に言った人間の本能的な差別が元になっています。しかし戦争とは、それら本能的な構造を利用して権力者が意図的な圧力を掛けて起こるものです。我々ユダヤ人が日々何千人と殺されている横で、一般市民のドイツ人が、えーと、うーん、なんて言ったか・・・そうそう、営みです。普通に営んでいるんです。ナチスは人の根源的な本能を利用扇動してホロコーストを起こしました。しかし彼ら一般市民は、それらをナチスが勝手にやったこと。として我関せず、日々の営みに大忙しなのです。要は戦争の種は人々の本能に潜んでいるけど、それを利用して戦争を起こしているのは権力者層であるということです。これはすべての戦争に当てはまる構造であろうと私は思っています。」

「ふむ。ということは、フランクは戦争は永遠になくすことは出来ないと、人間はどれだけ血を流しても学ばないということだな?」

「悲しいですが、そうだと思います。そう考えることで、私はユダヤ人が受けた迫害への恨みを少し和らげることができました。レミングというネズミがいます。彼らは一定以上群れが増えすぎると、集団で移住を試みて、海や川へも恐れず飛び込むそうです。それを昔の人は自殺をして数を一定に保っていると考えました。有史以来人間が起こしてきた様々な過ちの根底に、レミングスのように種としての人間の衝動が作用しているのかは判りませんが、本能が根ざしているのは間違いないと私は思っています。そして、この朝鮮戦争というものは、社会主義という新たな概念が原因となっていますが、構造的には宗教戦争と変わりありません。権力層が宗旨変えをされて利益や権力を失うことを恐れて始めた争いでしょう。宗教にせよ社会的思想にせよ、作られたときは人々の幸せのためにという心から生まれたはずなのに、多くの命が宗教や思想で失われている。とても皮肉なものだと思います。」

「人間がいる限り、戦争を起こす構造自体は壊すことは出来ないと。そういうことだな?しかし、戦争が起きるきっかけは権力者層にあるのだろ?権力者層をなくしてしまえば、戦争は起こらないのではないか?」

「それは無理でしょう。仮に今、神の雷槌が降り注ぎ全世界の国家がなくなったとしましょう。そうすれば、次点繰り上げでその下の層が権力者として機能するでしょう。権力者。という概念はゴキブリの様に根絶は不可能です。集団のあるところに必ず権力者は生まれます。そしてまた、人々は支配者を必要としているのです。政府が治水工事や道路を作り、治安を守ることで、人々が営みを続けていく。そういう構造を人はもう捨てることは出来ないでしょう。」

「うーむ。難しいものじゃのう。そうすると、戦争を起こさせない方法は、馬鹿な権力者が生まれた土地に行って、そのバカを殺すなり、脅すなりして馬鹿な事をやめさせるのが効果的かの?」

「あはははははは!いや、まさかそんな事、できたら夢のようですね。・・・ってできますね。朱さんなら。マッカーサーに一筆書かせることも出来るんですから。」

「そうじゃろう?まぁ仮に本当にそうするにせよ、世界中を飛び歩かなくてはならぬだろうし、苦労しそうだのお。まぁ何はともあれ、今目の前にあるこの状況を見て見ぬふりはできぬよなぁ。」


朱はそう言うと、他の三人もうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ