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朱血姫  作者: ガチ無知
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停船命令

船は順調に航海を進め三日掛けて対馬と壱岐の間を通り抜けた。うねりもなく、相変わらずの晴天。寄港はせずに進むことを決めた。最初の補給地は済州島にという菊千代の提案だ。海の色も変わってきた。最初は濃かった色から徐々に藍が抜けていき、緑が増えて翠玉色に近づいてきた。朱が船の縁を覗き込み、水面を照り返す光の反射を楽しんでいると、フランクが声をかけてきた。


「朱さん、済州島大丈夫でしょうか?今、朝鮮半島は戦争真っ最中です。戦時中の領土沿岸の警戒はとても厳重。そこにこんな前々前時代的な船が現れたら警戒されないでしょうか?」

「ふむ。わしや健太は警戒されようが、誰が来ようが関係ないが、船が壊されたりするとフランクと菊千代には死活問題よの。すまんの。どうしてもわしらは、そういう緊張感が足りないな。少し反省しないとならんな。ただの。反省はすれども、何をどうすればよいのやら。わしらにはマッカーサーの文書があるゆえ、米軍艦が接触してきたのならなんとでもなるとは思うが。いずれにせよ、もっともらしい筋書きを作って打ち合わせしておく必要があるな。何を聞かれても答えられるように。」

「そうですね。一度停泊してゆっくりしましょうか。」


フランクはそう言うと、菊千代に停泊地を探すよう頼みに行った。フランクは菊千代と二、三やり取りをした後、すぐ戻ってきた。


「小二神島というとても小さい島があるそうです。そこに停泊することにしました。そろそろ日も傾いてきているので、朝まで停泊してゆっくりしましょう。」


程なくして、船は小二神島に着いた。錨を下ろすと、菊千代は海に潜って海藻や貝類を獲ってきた。フランクと菊千代は食事の支度を終えてあとは寝るだけ。という段になって四人で車座に集まった。


「それで。」


と、朱が口を開いた。その声に促されて、作業をしながら考えをまとめておいたフランクが後に続く。


「まず船の名前を決めるべきです。軍がこの船に接触してきた場合、まず所属確認をするのがセオリーですから。」

「おぉ、そうか。名前のう。な、ま、え。なかなか思い浮かばんのう。菊千代よ。この島は何という名前だ?」

「ここはおにがみじまといいます。小さい二つの神の島です。」

「おぉ!それでいいではないか。わしらは人からしたら鬼のような存在であるのに、三家の人間からは何百年もの間、神として祀られてきた。出会いが変われば見方も変わる。鬼も神として扱われるようなこともある。わしらがしようとしている世直しもそういうところが大事になるのではないのか?鬼神丸でよいではないか。」

「それでは、その船名になった由来も考えましょう。嘘の信憑性が増します。」

「なんじゃフランク、ぬしはそういう嘘が得意なのか?」


少しはしゃいだように、朱が感心を示す。


「私達ユダヤ人にとって、第二次大戦で嘘を付くことでしか生き延びる方法は、ありませんでしたから。」


悲しそうに目を伏せてフランクが答えた。朱もすまぬと一言つぶやいた後、場が一気に沈黙で支配された。


「お、鬼神丸!い、いいじゃないですか!考えようによっては皮肉も混じってますし、面白いです。私は大賛成です!」


菊千代が気を使って、必死に取り繕った。今まで新参者の気後れからか、そう言った行動を取ってこなかった菊千代がそうしたことで、銘々が我に返り集中して話し合いが始まった。話し合いは明け方頃まで続いた。



話し合いが遅くまで続いたことで、人並な睡眠が必要であるフランクと菊千代は寝かしておこうと、朱と健太は出航の準備を進める。彼らは菊千代やフランクの作業を意識してみておらずとも映像記憶として持っていたし、離れた場所からでも彼らの話も聞こえていたので、稀に疑問が生じたときに菊千代に質問することで操船術を会得していたのだ。昨日よりは若干波が高かったが危なげなく、命名鬼神丸は航路につくことが出来た。


目的地の済州島が見えてきた。島に近づくに連れて、大きな軍艦が停泊しているのも見えてきた。そして案の定、こちらに高速で近づいてくる小型船があった。小型船は拡声器で停船を呼びかけた。しかし鬼神丸は旧型の帆船である。急に止まることは出来ない。かと言って、命令を無視したと誤解されるのは避けたい。菊千代はすぐに帆を畳むと、朱に乗船を依頼した。朱が許可なく乗船しても、見かけは幼女なので思い切った行動を選ばないであろうという菊千代の読みだった。朱は竹で延長した帆柱に登ると、そこから小型艇の縁に跳び乗った。幼女とは言え、許可なく乗船してきたことで、二人の警備兵が小銃片手に駆け寄ってきた。


「私達は、マッカーサー元帥から文書を託されている。この艦の責任者に会わせてほしい。」


黒いおかっぱ頭に、膝までの着物、小さい草履。そんな出で立ちの少女に、いきなり英語で話しかけられたのだ。二人の警備兵はお互い顔を見合わせた。二人共動揺している。しかし、年かさの兵士が一度頷くと、もうひとりはコクコクと何度かうなずいて艦長を呼びに艦橋へ走った。やがて艦長らしき人物が若手の兵士の先導で姿を見せた。胸板が厚く肩幅も広い。かなり鍛えられた肉体を持っていた。両切りのラッキーストライクを斜めに咥えたまま、左手をズボンのポッケに入れ、ベルトのバックルに右手を掛けてゆっくりと歩いてくる。堂に入った威圧感のあるポーズである。荒くれ者を束ねるには、海賊のように力を誇示する方法が手っ取り早いのかもしれない。男は朱の眼前に立つと口を開いた。


「君が総司令官の文書を持っているお嬢ちゃんかい?」

「そうだ。我々は世界の平和を願うため、インドまで仏教のバイブルを頂きに行く一行だ。村上菊千代が歴史ある寺院から遣わされた高僧だ。私と兄の健太が従者で、アメリカ系ユダヤ人のカンターフランケルがガイド兼通訳だ。フランケルとは長年一緒に過ごしているので、私も兄も簡単な英会話なら話せるようになった。」

「おぉ。お嬢ちゃん、英語上手だね。だが、そこが怪しい。日本政府が寄越した通訳でも君ほど上手くなかった。司令官の文書だけではなく、お嬢ちゃんの船も見せてくれるかい?」


艦長は単なる荒くれ者ではないようだ。職務を忠実に全うしようと、抜け目ない視線を朱に投げかけた。

先日お伝えしたとおり、菊千代を敵役ではなく、仲間にしてしまったせいで、ストーリーが当初の予定から大きく様変わりしています。拙い知識をネットで補いながらなるべく高度な嘘を描くように努力していますが、思想や宗教が絡むと、ステマ的な作品と勘ぐられるという可能性を恐れたりなどもして、なかなか筆が進みません。そもそも現在の世直し一行。という形も作者自身イマイチじゃん?と思ってたりもしてます(^_^;目標一日一話アップを心がけつつ、三日ほど掛かってしまうこともあることをご了承くださいorz

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