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朱血姫  作者: ガチ無知
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出港準備

素直にうなずいた三人に、朱は満足そうに笑みを浮かべる。


「まぁ、ぬしらもわしがいないと、少し心細く感じるかの。すまぬな。」

「とととととととんでもございません!陛下と元帥に命令されるような海神様は、やはり生き神様でございます!わしらは大変誇らしゅう、嬉しく感じております!」


本家の長が伏すのに習い、他の二人もひれ伏した。


「少し図に乗って、重ねて頼んでみるのだがの。ぬしらのところに遊んでいる船はないか?実は救い出した若者は村上水軍の末裔での。少し古い操船技術に沿った様な船があるとよいのだがの。台湾を経由してフィリピンに行きたいと思っている。」

「あぁ!それでしたら打って付けの船がございます。七代前の長が三家の祭事に使おうと、三家で金を集めて大きめの帆船を作りました。海上様に使っていただけるのでしたら、舟を作った甲斐があるというものでございます!」

「おぉ!そうか。聞いて見るものだのう。ありがたいの。一度戻ってある程度準備ができたら、健太を連れて舟を見に来る。」


そう言うと朱は機嫌よく長の家を後にした。


三嶽に戻った朱は上機嫌で三人に説明した。


「喜べ。血契三家が祭事用に作った帆船を譲ってくれるというとる。菊千代の時代から言ったら帆船が使いやすかろうと言っておった。そういうものか?」


朱の第一声に既に眼を輝かしていた菊千代は、キョトンとした顔をして逆に開けに尋ね返した。


「帆船でないと、外海を乗り切れないと思います。帆や櫂以外の船の動力ってあるんですか?」

「おぉそうですね。菊千代さんの技術的な知識は、江戸後期辺りで止まってるのですね。朱さんとこちらへ来る途中、機関車は見ましたか?」

「はい、あれはとても速い乗り物ですね。驚きました。」

「あれは石炭を燃料にして蒸気の圧力を使った動力ですが、現在は石油というとても燃えやすい油を使った、もっと小さくて力の出る動力がうまれています。その力を使って、人間は道路を走ったり、空も飛べるようになりました。もちろん船の動力としても使われています。最近終わった戦争では、鉄でできた全長が二町もある大きな軍艦もあったんですよ。」

「えぇ!なんで鉄の船が浮くんですか?鉄は沈みますよ。しかもそんな大きな鉄の塊をどうやって作るんですか?」


目を白黒させる菊千代に、ノートを広げてフランクは浮力について教え始めた。朱と健太は会話練習を兼ねて、英語で血契三家の話を始めた。


「健太は祭事用の帆船を見たことがあるか?」

「うん、浜に建てた倉に仕舞ってあったで。御神船って呼んどった。若狭で一番の船大工に作らせた言うとったわ。」

「どうだ、その船で外国まで行けると思うか?」

「そやなー、あの船見たんが十一歳の頃やったで、船のことは良うわからん時分だったけど、わしと朱の力があるんやさかい、ごつい櫂を船尾につけたら良いと思うわー。」

「それは良い考えかもしれんの。わしはマッカーサーのところへ行って、わしら四人の身分保証書を貰いに行ってくるわ。ぬしらは三家に赴いて、その大型の櫂と他に気づいたことを準備しておいてくれ。やつらには、菊千代のことは話してあるがフランクのことは説明してない。我らの通訳として雇われた。とでも言っておけば良い。もしBMWが動くのならそれで行け。船のお礼だといって渡してやれ。」


朱も健太もなかなかの英会話習得振りであった。洗濯物を取り込みに行くような気軽さで朱が出ていくと、健太はフランクと菊千代に話した内容を説明し始めた。朱は日本出国を目前にして、多少噂になっても構わないと判断した。山間を選んで進み、三嶽を夕方に出発した朱は明け方にはマッカーサーの枕元に立っていた。


「こんな時間にすまない、少し頼みがある。」


朱は習得した英語でマッカーサーに話しかけた。眉をしかめて枕元のライトを点けると、朱の姿を確認し軽くかぶりを振った。


「あなたには、合衆国の権威を掛けた警備も意味を成さないようだ。」

「すまない、あなたの国の誇りを傷つけてしまったようだ。先日は世話になったな。おかげで、合衆国に仇なす組織を一つ解体できた。そして、私に関係する人間を救うことが出来た。礼を言う。それで、もう一つ頼みたいことが出来たので、参ったのだが。」


長い期間、誰の顔色も伺う必要のない生活を続けてきた男は、眉根を揉みながら諦めた表情を浮かべた。


「何をすれば良いのですか?」

「まぁ話すと長くなるのだがな。頼み込む手前、経緯をすべて話すべきだろう。」


そう言った朱は、人血しか飲めなくなったあの日から今までの経過と、フランクが立てた推測をなるべく理解しやすいように、マッカーサーに説明した。


「それで、救い出した菊千代が外を見て見聞を広げたいというのだ。私と同じ身体の健太も十二歳からあまり外を見せていない。いい機会なので、我ら四人で世界を回ってみようということになった。移動していたほうが、わしのような特殊な体質は人に知られずに済むからな。それで、私は人間は好きだが、国家の都合には関わりたくないと思っている。だから、私が誰かに与える利益は恩返しの範囲でしかない。あなたには恩があると考えているので、将来なにか返したいと思っている。あなたが病に倒れたら、京都新聞という新聞に私を呼ぶ広告を一週間載せよ。私はなるべ急いであなたの元へ赴き、あなたを病から一度だけ救ってやろう。」

「本来、私の立場からすれば、あなたの存在を確保して合衆国の利益にせねばならない。しかし、それが可能だとは到底思えない。今聞いた話から、あなたは人類がどうこうできる存在ではない。あなた方とは友好関係を保つほうが得策のようだ。よろしい、あなた方の身分を保証する公式文書を今から発行しましょう。アメリカと交友のある国ならどこでも出入りできるものです。そして、たまに私の部下があなた方に接触することがあるかもしれないが、断じて敵対行動ではないことを今誓っておこう。接触者になるべく危害を加えないでほしい。」


マッカーサーが差し出した右手を、おぉこれがシェイクハンドか。とつぶやいて朱は握り返した。四人の名を聞かれ、ファーストネームがあったほうが良いというマッカーサーの言葉に、健太の名字である白崎と、菊千代とフランクの名前を伝えた。数十分待たされ、隣室から戻ってきたマッカーサーの手には金箔を押した革表紙で閉じられた文書があった。その文書には、


「 以下の四名の身元を合衆国の名のもとに保証するものである。

貴国においての行動、交通、滞在を妨げないことを願う。

この文書は奪われることはない。すなわち文書の持ち主が、以下に記す四名である。


カンターフランケル

村上菊千代

白崎健太

白崎朱


アメリカ合衆国

連合国軍最高司令官 ダグラス・マッカーサー」


と、記されていた。

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