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朱血姫  作者: ガチ無知
24/70

マッカーサー

赤坂に着いた朱はあたりを歩いてみた。すると、門から本館らしい建物まで物々しい数の米兵が警備している建物を見つけた。その建物の隣の建物の屋上まで朱は移動した。朱にとって人に悟られずビルの屋上まで移動するのはわけもないことであった。建物から突き出たテラスの端に手をかけて、懸垂の要領で腕の力を使って跳び上階のテラスに手をかける。この繰り返しでものの数秒で屋上に降り立った。残暑の蒸し暑さが残っている時期だったが、高いところに登ると少し気持ちの良い風が吹いている。コンクリートに座り込んで、朱は脚をぶらぶらさせながら公使館を窺った。朱は英語を解さないので、何を言ってるかは解らなかったが、多くの会話が気安いリラックスした声で交わされていて、歩哨同士の雑談だと想像できた。唯一、建物の東端から聞こえる会話だけ雰囲気が違っていた。三人の男の声からは緊張を感じられ、それに受け答えする男の声は鷹揚で相づちだけで済ませることもあり立場の上の人間だと判断できた。おそらくマッカーサーだ。朱はチャンスを窺った。一時間ほどの間に三人の男たちはそれぞれが別の方向へ移動していき、マッカーサーは一人になった。マッカーサーはグラスに何かを注ぐと、それを少しずつ飲みながら何かのページを繰る音がした。二時間ほどそういう音が続いた後、マッカーサーは部屋を移動して衣擦れの音をたてた。寝室で寝間着に着替えたのだろう。ベッドに潜り込み十分ほどで大きなあくびを一つした。朱はいい頃合いと感じ立ち上がった。


不意に肩を叩かれて眼を開けた男は、何事かと素早く上体を起こす。現役を退いたとは言え、彼は兵士の緊張を未だにもっていた。マッカーサーの目に写ったのは、おかっぱ頭の幼女の姿であった。朱はぶっきらぼうにメモをマッカーサーに差し出す。マッカーサーはベッド横の照明をつけて眉間を揉みながらメモを読んだ。マッカーサーは軍人らしく、今起きている事の異常性よりも現実を優先する男であった。彼は隣の部屋へ移動しインターホンを使って通訳を呼んだ。マッカーサーの私室に入ってきた通訳は、最高司令官と幼女の取り合わせにギョッとした。マッカーサーは通訳に眼で合図をして話しだした。


「それで君は?」

「わしは朱という。」


通訳を交えて会話が始まった後も、朱は交渉をどう進めようかと考えていた。少なくともマッカーサーには動揺はなく、得体の知れない存在の朱に対しても怯えは一切伺えなかった。それどころか、朱に対してイニシアチブを握ろうと、ゆっくりとした動きと会話を心がけているように取れた。朱は長引いても得はないと判断した。


「まず先に言おう。わしは厳密に言えば人間ではない。元は日本人の娘であったが、それは七百年も前の話だ。そして、現在の日本の体制に加担する気はない。わしの目的は、百年ほど前に救ったある少年の柵を断ち切るための手続きに訪れただけだ。日本政府にも、アメリカ政府にも興味はない。そして、数多くの警備兵、更に屋上に四人の歩哨が居ても、わしの侵入を拒めなかったことをよく考えてほしい。わしはあなたを殺すことも、更に言えば、あなたの国の元首を殺すことも可能だ。なんの道具も持たずとも、わしは海を泳ぎ陸を走りあなたの国へ到達しそれをなすことが出来る。ただ、わしはそう言ったことに全く興味がない。わしが求めているのは一つ。昭和天皇を処刑するのを止めてほしいということだ。先にも言ったが、わしは昭和天皇に興味なぞない。ただ、柵を断ち切るのに必要な条件というだけだ。昭和天皇を含めた戦犯裁判はあるのか?ぬしが働きかけて昭和天皇の処刑を止めることは出来るか?」

「君の話を信じよう。七百年生きているというのは信じられないがね。ただ、君は来るのが遅すぎた。確かに昭和天皇を裁判にかける。という要望は各国からもでていた。しかし、日本を運営するのに天皇制は残すほうが得策と我々は判断した。だから、裁判にもかけなかったし、彼が罪に問われることもなかった。もう三年近く前の話だ。」

「ほぉ。それは良かった。では、昭和天皇は裁かれることはない。と、ぬしの記名入りメモを書いてくれ。あぁ、簡単なものでよい。」


その言葉が通訳から伝わると、マッカーサーは激怒した。しかし、朱はいち早くマッカーサーの感情が高ぶったことを感じ取った。間髪をいれず朱が言った。


「あぁ。ぬしが怒るのは勝手だ。力を誇示しても良い。しかし損するのはぬしらの方だ。わしは傷一つつかんぞ?愚かなことはするな」


朱の言葉に気を削がれてマッカーサーは肩で息をしながら落ち着くことに努めた。マッカーサーは卓上のメモ用紙を取ると、昭和天皇は裁かれない。ダグラス・マッカーサーとサインをして朱に差し出す。一言ありがとうの。と礼を言い、朱は部屋を出ていった。通訳が、「記録に残しますか?」と聞いた。マッカーサーは、椅子に身体を預けため息を一つつくと


「いや、必要ない。誰も信じないだろうし、説明するのも面倒だ。」


と言った。


朱はメモを晒布に挟んで腹に巻いた。これで、菊千代とゆっくり話ができるな。と考えながら町を駆けた。早朝に施設に着くと、男にマッカーサーからのメモを渡す。男は昭和天皇のメモとマッカーサーからのメモを何度も読み直した。十五分も熟考を続けて、やっと陛下はもう大丈夫なのだ。とつぶやき、糸が切れた操り人形のように身体から力を抜いた。そのタイミングで朱が声を掛ける。


「あぁ、やっと得心がいったか。やれやれだ。それでの、すこし菊千代の様子を見させてもらうぞ。」


朱は言うと、菊千代の枕元に座り菊千代と声をかけた。長い間、拘束されて切り刻まれて弄り回されてきた菊千代は一切の感覚を断っていたのか、菊千代という呼びかけにより瞳にかすかな光が宿った。そして、菊千代とだけつぶやいた。


「血を混ぜた頃と変わらんな。菊千代はずっとこの状態だったか?」


朱は男に問いかけた。


「はい、日本海の西側の小島で発見され捕獲したときは、敏捷で自分で魚や果物を採って食べていたようです。捕獲後は感情を出すことが極端に減り、今のような無感情になりました。話しかけても菊千代と名前らしき言葉ぐらいしか発しないのは最初からそのようでした。髪型などから考えると江戸末期からずっと生きていたと考えるのが妥当ですが、一部研究員はありえないと信じていませんでした。」

「そうか。頼みがあるんだがの。ぬしはもう全ての義務から開放されたわけだから、帰る場所があるなら帰りたいだろう。わしは菊千代と意思の疎通ができるようになりたいのじゃが、フランクの推測ではそうなるまでに少し時間がかかると言っておった。で、もし研究員が残っていて協力を仰げそうならそうしたほうが良いと言われたのだ。どうだ?少しわしに時間を分けてくれんだろうか?」

「あなたが来なければ、食料が尽きて菊千代と二人ここで餓死するしかなかったでしょう。私には東京に家族がおりましたが、大空襲でどうなったかわかりません。もう終戦から五年が経ってますし、家族も私のことは諦めていると思います。あなたの気が済むまでいくらでもお手伝いしたいと思います。」

「そうか、すまんの。とりあえずフランクの立てた推測の概略だけ簡単に話そう。わしは元々平安末期の頃まで普通の娘だった。それが、別の惑星からの来訪者の起こした事故に巻き込まれて瀕死の状態になった。その異星人がわしを救おうとわしの血に異星人の血を混ぜた。異星人の血には宿主体の細胞を書きかえることで、修復と能力上昇を実現させる力があった。不死で超人になったわしは、そのかわり人血しか口にできなくなった。わしの唾液が他人の血流に入ると一時的に回復力が上がり簡単な怪我ならたちまち治る。わしの血液が入ると、わしと同じ不死の超人になってしまう。事故のときに家族も失い一人何千年も生きる中で、何度か自死を試してみたが何しろ死ねない。わしはすでに死ぬことを諦めたが、菊千代と出会ったとき、此奴は身体の殆どを失っていたのだ。造血細胞の絶対数が少なくて細胞の書き換えが進まなかったから不完全なまま生きながらえている。そういう状態であると考えるのが自然。だそうだ。で、わしの希望としては、菊千代と意思の疎通がが出来るまで回復させて事情を話し、菊千代の意向に沿ってやりたいというわけだ。」

「意向に沿う。というのは?」

「菊千代が異形の者になっても生きたいというのならそうしてやるし、死にたいというのなら殺してやろうと思っている。」


そう言って俯いた朱の横顔は少し悲しそうであった。

先日アップ遅延予想を報告しましたが、なぜだか一話分ストックが出来ていたと言うね。性格がアレなもので、推敲とかもほとんど出来ずなのが疾さの秘訣なのかもw これからどう転ぶか判りませんが、なるべく一日一話アップを心がけてまいります。よろしくお願いします!

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