表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱血姫  作者: ガチ無知
18/70

フランクの推測

フランクが意識を取り戻したのは、既に日は落ち虫たちが鳴き始めた頃であった。ガバっと身を起こし両手で首のあたりをさすりながら、荒い呼吸を続けるフランクの傍らには目が覚めるまで長い時間身じろぎもせず待ち続けた朱が正座をしていた。フランクが気づいて朱と視線が合う。朱はゆっくりと上体を下げてゆき深い土下座の姿勢で、


「怒りに我を忘れてしまった。本当に済まなかった。」


と、フランクに謝罪をした。フランクは忙しなく、胸に手をやり首をあちこち押して見たりした後、両手で顔を強く挟んだまま、


「どうして・・・」

「どうして私は生きていますか?私は自分の首の骨が砕ける音を確かに聞きました。意識が無くなる前に、私の大きな罪を清算するために、天上が遣わした女神だとあなたの深紅の瞳を見ながら思いました。少なくとも動けなくなるぐらいの大怪我をしているはずです。なのに私はどこも痛くない。首もおかしいところはありません。どうしてですか?」

「ぬしは体の回復のために、相当体力を失っているはずだ。食事を用意してあるので、まずは食うてくれ。」


健太が運び込んだ食事は大量であった。フランクが気絶した後、朱はフランクの財布から金を抜き取ると町に出て塩と包丁、鍋や道具の類を買ってきた。そして農家で米や味噌を売ってもらうと、山に入り一頭の猪を仕留めた。健太に火を熾させると、四合の米をたくように言った。朱は器用に包丁で猪をさばく。薄切り肉を大量に作り半分を塩をすり込み屋根に敷いたござに並べ干し肉に、半分を味噌に漬け込む。油の多いバラ肉の部分を大ぶりに4つに切り分けると炭火でじっくり焼き始めた。2人はフランクが回復するまでの間に、四号分の白飯の握り飯、大ぶりの炙り肉四塊を用意した。意識を取り戻したフランクは、確かに激しい空腹を覚え狂ったように食べ始めた。旺盛な食欲を見せるフランクを見て安堵したのか、朱は暫く思案をした。どこまで話すべきか考えていたのだ。しかし、フランクは動物の専門家らしい。自分は既に覚悟を決めて長い間生きてきたのでいいが、健太はまだ自分がどういう状況に置かれているか、本当の意味では理解できていない。もし、健太の身体が常人に、もしくは普通に近づけるのであれば、フランクの知識にすがりたい。そう考え、全てを話す決心をした。朱はポツポツと自分が過ごしてきた長い時間について話し始めた。朱にとって千数百年に起こった事のなかから、フランクに伝えたほうが良さそうな事象を話すのは、膨大な記録を高速でページを繰ってフランクに解りそうな語彙を選んでゆっくりと話す。という作業であった。朱は二時間を費やし、今までのことをすべて語り終えた。フランクはとうに食事を終えていたが、身じろぎ一つせず俯いている。朱が語り終えて暫く経ってから、はっと気づいたように顔をあげると、


「あと5分考えさせてください」


と、言いフランクはまた俯いた姿勢に戻った。

十分ほど経って顔を上げたフランクは、話し始めた。


「まず、私が今から話すことは全て推測です。そのうえで聞いてください。朱さん、あなたが見た空から降ってきた火の玉ですが、地球外、別の惑星からやってきた生物である可能性が高いと思います。恒星間航行をしているというだけで高い科学力を持っていると考えられます。恒星間航行が目的で。かは定かではありませんが、彼らは不死性を会得しているのだと思われます。そして極めて奇跡的な偶然ではありますが、彼らと地球人が非常に似通った進化の過程を経ていた可能性が高いです。彼らは温体動物で、酸素を必要としている循環器を持っていたということです。地球上の生物に酸素は欠かせないものですが、本来酸素は猛毒な気体なのです。通常は酸素のない大気構成の惑星のほうが生物の発生確率も生存進化確立も高いという説もあります。そして、彼らの血液中には、地球の科学力では理解できないような技術でもって人為的に作られた、意図的な効果をもたらすDNA細胞があったはずです。唾液により体内に入り込んだ特殊細胞は寿命までは宿主を活かすように働きますが、死に絶えてしまう。吸血により一時的に吸われた人間が驚異的な回復をするという事象はそれで説明ができます。そして、特殊細胞が一定量宿主の血液中に入り込んだ場合、造血細胞の一部、もしくは全部に自分のDNAを写し血液の機能を飛躍的に高めます。そして、宿主の不死身性獲得や、各身体部分の飛躍的向上を行い宿主能力を高めてしまう。そういうことだと考えられます。一言で言うと、血液が混ざった場合、宿主の人間性はそのままに、身体を超高性能に作り変えてしまう。という感じでしょうか。人間性は先天的に持っていた資質と記憶によるものだと思いますので。」


暫く腕組みをして考え込んでいた朱が口を開いた。


「それで、わしらが普通の身体に戻ることは可能か?」

「うーん。それは非常に難しいと思います。おそらくあなた方の細胞は全てが書き換えられているはずです。今の我々の技術では細胞に干渉することさえ難しい。DNAのことはよく判っていないし、どうすれば何が出来るかさえも見当がつかない。そんな状況です。後数百年まてばあるいは。という感じでしょうか。」

「それはそうと、これは私からの提案なのですが。朱さん達がここで暮らすというのでしたら、私も一緒に暮らしてもいいですか?私は異国人なので、人目につきます。ですから、収入を得ることもままなりません。正直邪魔な人間でしかないのですが、朱さんたちは定期的に人血を必要とします。私が供給すれば、人に知られることも少なく暮らせていけると思います。どうでしょうか?」

「ふむ。」

「ぬしはそれで何の得があるのだ?もし一緒に暮らすとすれば、わしと健太が山のものを取ってきて金に変えればぬしが食べるものに困るということはない。わしが趺喬と暮らした頃は、血を混ぜれば不死になれることを知らなんだ。まぁおしょさんは、それを知っていたところで、それを望まなかった気がするがの。だが普通の人間ならわしらと同じ身体を望むものだろう?なぜ今のまま血を分けるというのだ?」

「さっき話した通り、私には帰る国がない。そして私の犯した罪は償いきれるものではありません。家族とも二度と会えないと覚悟しています。なんの希望もありません。だからと言って自死は怖い。このまま山奥でひっそりと死ぬまで孤独に生きていこうと思っていました。もし誰かの役に立てるならこんな幸せはないです。」

「そうか。おしょさんは全く違ったが、たまにわしに血を飲ませたいと望む人間がおったのぉ。わしは大体、新月の時を目安に血を吸うておったのだが、噂が立ち始めた場所は捨てて場所を移動することでしのいでおった。しかし、なにやらたまにな、血を分けてもろうた人間が、噂を頼りに新月の頃になると自分が血を吸われた場所までやってきて人待ち顔でそわそわしておった。あれはなんだったんじゃろうのう。」

「あぁ。それはおそらくマゾヒズムだと思います。自分の命運を絶対的強者に委ねることが快感に感じる人間がたまにいるんですよ。信仰に近い心理なんですかねぇ。」


フランクが苦笑いでそう答える。朱と健太にはマゾヒズムという言葉は理解できなかったが、まぁそういう人間がたまにいる。という説明は朱の腑に落ちた。朱は振り返り健太に尋ねる。朱にとって健太は、たった一人の同胞なのだ。


「健太はどう感じる?」

「んー、わしはようわからんけどな。このあんちゃんは悪い人や無いと思うわ。朱に殺されかけたのに文句一つ言うとらんしな。それにビーエンビーももっとるしなぁ。」


そう言って健太は陶然とした表情を浮かべる。朱は呆れ顔のままフランクに「好きなだけここにおったらよい」と言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ