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朱血姫  作者: ガチ無知
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怒りの朱

茂みをかき分けてぽかりと視界が開けた途端、2人を腕を組み仁王立ちした朱が待ち構えていた。健太はしょんぼりとうなだれて、拾った犬を抱いて帰ってきたら、仁王立ちした母親に遭遇した子供のようだ。しかし先に口を開いたのは健太だった。


「あ、あんな!めっちゃカッコいい単車に乗っててな!わてのこと、乗せてくれたんや!なんかな!水がなくて困っとってな!道が途中でのうなったんで、そっちに置いてあるんやけどな!朱も見たほうがええで!むっちゃかっっこいいさかい!な!な!ちょっと一緒に見に行こうや!」


一気にまくしたてた健太にため息で答えると、男の方を向き朱は尋ねた。


「で。ぬしは誰じゃ?」

「私はカンターフランケルといいます。フランクと呼んでください。この少年は驚異的な身体能力を持っています。あなた達は何者ですか?」


いきなり切り札を切ったフランクであった。朱はと言うと、なぜかそれほど動じても居ない風情である。絶対的強者の余裕なのだろうか。


「何者かと、言われてものう。ぬしに説明する義理はないしの。この動乱の状況でわしと坊主が消えれば、毛唐のぬしの戯言なぞ誰も取り合わないと思うしの。ほれ、行くぞ。」


言うなり、大きく跳躍し枝に跳び乗った、朱を追おうと力を貯めた健太。刹那の間に、フランクは叫んだ。


「待ってくだサーイ!私は特殊で極秘な研究をしていたヨ!全て話スヨ!あなた達にもオトクな話だと思うよ!私は誰にも話さないネ!」


慌てたのか外国訛りでぞんざいな口ぶりが出たフランクを見下ろす朱。鼓動の音と、発汗の匂いなどから判断した朱は二人の足元に再び降り立つ。朱はくるりと踵を返すと、小屋の方に向かって歩いていく。縁側に座り込むとフランクに顎で促した。


「ほれ。話してみぃ」

「私はユダヤ人です。ユダヤ人はドイツに迫害されていました。ドイツナチスは、自国や占領国のユダヤ人を捕らえて大量虐殺しています。私は私と家族の命を守るために、同胞を裏切りました。ドイツ国内の戦況が悪くなったので、ナチスから依頼された研究を継続するために日本に来ました。日本軍と共同で研究を続けていました。先日ドイツが陥落寸前であるという極秘情報が研究部に入ってきました。ここの近くには最近発見されたばかりの鍾乳洞があると知り、独自の生態系があるかもしれない。と言い張り、試験体調査の為にを口実に、私はナチスを裏切り逃げてきたのです。」

「なぜ。」

「なぜお前らは、必要のない殺し合いをするのだ。自国や家族や同胞を危険に晒してまで。全く理解できん。話はそれだけか」


苦々しく吐き捨て立ち上がる朱にフランクは続ける。


「いえ!今のは前置きです。今から専門的な話もしますので、判らないことがあったら聞いてください。なるべく伝わるように説明し直そうと思います。私の研究は、人体改造強化兵を作ることでした。人間がやっていい研究ではありません。それは私もよく判っています。しかし、妹の命を救うためには、悪魔に魂を売ることも平気でしたと思います。戦争が始まる前は私は遺伝と生物の進化の研究をしていました。進化とは、膨大な遺伝の取捨選択と強者生存の積み重ねにより少しずつ進んでいくと現時点では考えられています。当時私は、番の鴨は雄の特徴を雌が少しずつ受け継いでいく現象を研究していました。まだよく判っていないのですが、動物は膨大な数の細胞によって作られています。細胞の一つ一つにはDNAという人体設計図があると考えられています。雄の精子と雌の卵子が結合すると妊娠をして子供が産まれます。子供が双方の特徴を受け継いで産まれてくるのは、精子と卵子のそれぞれの設計図を元に作られるからです。私は鴨の現象に着目して、雄の精子をすりつぶして雌の血液に注射する実験を続けました。すると、交尾をしていないのに、雌には雄の特徴が表れてきたんです。そこで、私は人工的な進化の可能性について記した論文を発表しました。それがナチスの目に触れて、研究協力を要請してきたんです。それを承諾することは、同胞を裏切ることでした。しかし私は家族と自分の安全と保障を引き換えにナチスの要請を受けました。私はそれから毎日同胞の命を犠牲に人体実験を続けてきました。センザンコウやアルマジロの特徴を移して、銃弾を跳ね返すほどの強靭な皮膚を持つ人間。ダチョウやチータ、カンガルーの特徴を受け継いで強靭な脚力を持つ人間。コウモリの特徴を受け継いで、暗闇でも高速で行動ができる人間。水中で呼吸可能な人間等々。荒唐無稽なナチスのオーダーに、従順に従い成功する可能性の低い実験を日々続けました。大量の動物や魚介類の精子までをも、人体に投与しました。それどころか微生物などを大量に注入することもありました。私は実験で沢山の人命を奪ってきました。家族の命は、敗戦の混乱でどうなるかは判りません。もう、私が関与して家族の未来が変わる状況では、ドイツはありません。私はあまりにも多くの罪を犯しました。家族にも同胞にも会うことはできないと思っています。既に私には、絶望で生きている意味はありませんが、死ぬのは怖いのです。どこか山奥にでも身を隠して生きていこうと思っていました。」


朱は語り終えたフランクの首を掴み、怒りで深紅に変色した瞳で睨みつけながら、


「お前ら人間はどうしてこうも愚かなのだ!人間の身体を変えるだと?そうすることがどれだけ罪深いことか!変えられた人間は、変わった時点で仲間や家族のいない異形の者になるのだぞ!それがどれだけの孤独をもたらすのか。ぬしらには理解できんだろうがっ!」



「あけ!あけっ!あけっ!」


朱は自分を羽交い締めにして必死に叫ぶ健太の声に我に返った。気がつくと、ぐにゃりと不自然に首が曲がり虚ろな瞳で浅い呼吸をするフランクの姿があった。血の渇きに狂う以外で朱が怒りに我を忘れたのは、この数百年に置いて初めての事であった。朱は激高してフランクの頸骨を握り砕いてしまったらしい。大変なことをしてしまったと、慌ててフランクの首に牙を突き立てる。フランクは急にカッと目を見開いてビクンビクンと三度ほど痙攣した後、気絶してしまった。唾液の効果では即回復することは叶わないほどの、重い怪我だったのだろう。激しい後悔で脱力し、四つん這いで身動きもしない朱の背中をさすりながら、な。大丈夫やで。フランクしんでへんからな。と健太は必死で慰めるのであった。

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