第6話 ー青天の霹靂ー
「中島っつったか?てめぇ。」
木村先輩は中島を壁に追いやり、左頬から10cmのところに掌を押し当てた。いわゆる『壁ドン』である。さらに、航空会社の社長令嬢とは思えない言葉遣いと行動に俺も中島も唖然とした。
「名前を覚えさせるだと?テメェの名前なんざ誰も覚えようとしねぇよ!」
「な、なんだよ急に!でしゃばりやがって!あんたに言われる筋合いはないだろ!」
「大体、陰キャだの陽キャだのくだらねぇんだよ!」
「周りからコソコソ『陰キャ』『暗すぎ』って言われる気持ちがあんたにわかるかよ!」
「じゃあ、なんでてめぇが周りから言われるのかおしえてやろうか?……それはな、こんな汚ねぇやり方しかできねぇからだ!」
「え?」
「しっかり言えば良かっただろ、『俺は陰キャじゃない』って。自分から話しかければよかっただろ、『友達になろう』って。」
木村先輩の言葉に中島は少し経ってから答えた。
「陽キャ・陰キャの前に、人として終わっていたんですね。」
「最優先にやることがあるだろ。」
「はい。あの女子生徒2人に謝ってきます。」
そう言うと中島は空き教室を出ていった。
「人ってのは注目を浴びたい生き物だからな。」
「そうですね。にしても、凄かったです。」
「だろ?……え?あれ?え?」
木村先輩は何かに気付くと、一気に顔が赤くなっていった。
「あの、相宮くん……私、どのような感じで怒っていました?」
「え?覚えてないんですか?『こんな汚ねぇやり方しかできねぇからだ!』って言ってましたよ。」
「キャーーー!このこと他の誰にも言わないでくださいね?ね?」
「……。わかりました。」
先輩曰く、昔から悪人が許せない性分で怒るときは言葉遣いが荒くなるらしい。意外な一面だな…。
「はぁ。この高校の人にはまだ誰にもあの姿を見せていなかったのですけれど……。」
「なんかすいません…。でも、僕の代わりに怒ってくれてありがとうございました。木村先輩がいてくれて助かりました。」
「そうですか?それなら良かったです!」
その後、事件はあの女子生徒2人のおかげで広まらずに済んだとのこと。中島も心を入れ替え、積極的に友達を作っているとか。まぁ、これにてこの事件は無事幕を閉じることができたわけだが、1人だけ満足していない奴がいるようだ……
「志郎ー!なんで俺なしで解決しちまうんだよー!」
「仕方ないだろ。おまえはバイトだったんだから。」
「1日待ってくれても良かったじゃーん!」
「賑やかでいいね。」
「……。」
「倉谷くん?」
「あー鬱陶しい。俺そろそろ帰ります。」
「あ!待てよー。」
俺の学園ラブコメミステリーはまだ始まったばかりである。