第六節
「¥π¶≮∩∞」
肩を叩かれて目が覚める。どうやら寝てしまっていたらしい。
両手を天に向け、伸びをして欠伸を一つ。
「ふぁぁあ······」
首を回してついでに肩を回し、コリを解すと寝ぼけ眼の状態で周囲を見渡す。
「✠✡✽○❋↛↜#@〜!」
「@$%!¢€π¤µ」
荷車は停まっていた。それどころか大量の人に囲まれていた。
「ここが、目的地なのか?」
辺りを見回す宗近。
丸太を切り出して、先を尖らせた物を幾つも並べた外とを分け隔てる柵。土や粘土等で作られたと思われる壁に茅葺きの屋根の建物が幾つも建っていた。
「村······なのか?」
荷車が停車した場所は丁度中央に位置するようで、周囲には色んな鉱石や動物が元と思われる素材などが籠やザルに入れられ並べられている。
「±≠≧∅⊕∥∩λ?」
「※÷¶∆≠+∑∝∠···」
村人と思われる一人が宗近を指で示し、何か甲冑の人、護衛人に質問して居たり、珍妙な物を見るような目で彼に視線を向ける人々―――
(すげぇ注目浴びてるな······どっちかというとあんまり嬉しくない注目のされ方だがな)
無理もない話である。技術力は中世レベル、ジーンズなど存在しない(村人達は綿で出来た簡素な布製のズボンやタイツのような物を穿いている)どころか、宗近が履いているスニーカーに使われているゴムすら存在しないであろう世界に突如未知なる服装をした人物が現れれば、怪訝な目で見られるのは火を見るよりも明らかである。
「よっと」
宗近は荷車の御者台から飛び降りる。着地の衝撃を膝を曲げて和らげ、ゆっくりと立ち上がる。
宗近の言動を見守っていた村人達が一斉に驚きの顔を見せる。
(さて、これからどうしよう······)
言語は通じない、ボディランゲージは誤解の恐れあり、となると取れる意思疎通の手段は限られてくる。
(絵書いて通じるかな)
人類が誕生してから今の今まで表現の一つとして使われてきた言語によらない方法。
絵画、つまり絵である。
とりあえず腹が減っているので、食事にありつきたい。その一心で描き上げた絵は―――
「これ、パンって見えるかな」
かろうじてパンに見えなくもない絵を描き上げた宗近、彼が何をしたのか一目見ようと村人達がワラワラと詰め寄る。
「#*+”〜&@?」
「@*℃€€π×¶⁉」
宗近の拙い絵を見た村人達は何かを相談し始める。
(変に誤解されなきゃいいけど、そもそもパン自体存在するのか?)
そんな心配をしていると、グゥ〜と間抜けな音が響き渡った。宗近の腹から響き渡った音、空腹の証である。
その音に宗近も周りの村人達も一時的に動きが固まり、視線が音の発生源、宗近本人に向けられる。
「ブッ、ッハッハッハ」
耐えられなくなった村人の一人が笑い始める。
「‰¤√↝↺↻⇆⇊⇋⇍⇐≪、ハッハッハ」
「ヒヒッ、*@ー=/#」
つられて幾人もの人々が笑いだし、たり腹を抱える者までで始める。
「そんなに可笑しかったのか·····」
左頬をポリポリと掻ながら困惑した顔で笑う村人達を見る宗近。
ひとしきり笑い、満足したのか村人達の一部は持ち場や家などに戻ってしまう。
「#$&*§、≮∂∀∅∑∩∪」
残った一部の村人達は宗近を囲み、何かを話し合っている。
(何だ何だ?)
すると、家に帰って行った村人達の一人が何やら布で包まれた塊を持ってきて宗近の眼前にそれを置いてくる。
「何だ?」
包みを解いて中身を調べる宗近、包の中身はというと。
「おお、パンだ」
コッペパンやフランスパンと言った長細い形状ではなく、ドーム型の焦茶色だったが。
それでもこの空腹を凌げるならばありがたい話である。
宗近は静かに合掌し、いただきますと告げるとパンにかじりついた。