第二節
出雲宗近は西暦2018年に自宅で首を吊って自害した。
残された遺書には「疲れた、楽になりたい」とかかれてあったらしい。
天井から吊り下げられた縄の輪に首を通すのには勇気が要ったが、一度通してしまった後は楽だった。
首に衝撃を感じた瞬間意識が飛び、目の前が暗くなった。まさに眠りに落ちるような感覚だったのを覚えていた。
───どのくらいの時間が経ったのだろうか、宗近は目を覚ました。
まず目に飛び込んできたのは抜けるような青い空に斑に浮かぶ白い雲々だった。
宗近は何度か瞬きした後に首へと手を動かし、ペタペタと触る。
首は繋がっており、特にこれと言った損傷もないように思えた。
(ここが天国か? いや、地獄だな。ま、どっちにしろあの世には違いない)
しばらくの間横に寝転がっていた宗近だったが、回りの状況を確認するために上体を起こそうとして、地面に手をついたところで違和感とパチャリという水音を聞いて眉根を顰める。
「なんだこれ……って水か」
ムクリと起き上がり、自分の手。正確には手を着いた地面を見る宗近。
どうやら小さな水溜りに手をついたらしい。
どうでも良かったことなので次に周囲に視線を巡らせてみる。
まず自分が座っている場所は一般的に天国の想像図としてあげられる雲もしくは霞に覆われた大地ではなく、ただの無舗装の道。それも蓮に囲まれた世界などではなく森林に囲まれていた。
「ここはどこだ······」
その問いに答える者は居らず、宗近の吐いた言葉はただ空中を漂うだけだった。
(俺は死んだはずだ、そうだろ?)
心の中で自分に言い聞かす、だが心臓は脈をうち胸部は上下して空気を取り入れている。
(ここで座り続けていても仕方がない、それにあのクソッタレな世界とはおさらばできたはずだ)
「とはいえ······」
両てのひらを目の前にかざして宗近はぼやく。
「まさか死後の世界があるとは思っていなかったな·····」
溜め息をついて再び寝転がり空を見上げようと、体を倒そうとしたそのときだった。
「そういえば······」
ふと背後を振り返っていないことを思いだし、宗近は背後を振り返る。
街道なのか、未舗装だが一応整備された細い道が水平線の向こうまで続いておりその両脇には針葉樹と思われる森林が生い茂っていた。
結果から言うと先程目を覚ました際に上体を起こした時に見た景色と何も変わりはなかった。
ただ一つの点を除いて。
「······水溜り?それも沢山?」
つい疑問系になってしまった。が仕方がない。
途切れながらも連続して存在するその水溜り郡はまるで足跡のように点々とそれも規則正しく存在していたからだ。
かと言って凹凸の激しい地形では無い為水が貯まり続けるとは考えにくい他、土と接触している割には泥の混じった様な濁った感じもなければそもそも付近で雨が降ったような形跡すらない。
空を見たときには入道雲といったゲリラ雨を降らすものに近い大きな雲は見当たらなかった。
無論誰かが水をぶちまけた可能性もあるが、それだと地面に吸収されてシミになるだけである。コンクリートやアスファルトとは違う。
そして最大の謎はまるで目標のように規則正しく存在する水溜り達。
自然や偶然が創り出すにはあまりにも奇妙で不自然な程それは規則正しく点在していた。