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プロローグ

刃と刃が打ち合わさり火花を散らす。黒髪のTシャツジーンズの青年と粗末な薄っぺらい革の鎧を着込んだ禿頭のならず者が西洋剣を用いて鍔迫り合う。

筋骨隆々の体格がよいならず者が青年を圧しているが、青年も負けてはいない。

前方向に向けていた力を抜き、躰を右側に移動させ左側に受け流す。

青年を押し倒そうとばかりに力を込めていたならず者はいきなり力を抜かれたことによりつんのめり、そして背中を見せた。

「隙あり!」

青年は剣の柄を握った両手を背後に回し、そのままならず者の背中を袈裟斬りにする。

「#§¤ε£¢!?」

理解不能な言語で叫び声(恐らく悲鳴)を上げ、のけ反るならず者。

すかさず青年は、両手で握りしめた長剣の柄を右頬の近くに持っていき、剣の切っ先を敵へ向ける突き特化型の構え、霞の構えを取り、ならず者の脇腹に突きを繰り出した。

抵抗のあったなめし革を貫通したら、まるで厚手のゴム袋を突くような感覚が青年の手のひらに伝わる。

刃の切っ先が腹側まで出たのを感触だけで確認したあと、右足を上げて男の背中を蹴りその勢いで突き刺した剣を青年は抜く。

そして剣を空中に投げ、逆手に持ち変えると蹴られて転けた男の首へ剣の切っ先を向け───

「ッ!」

歯を喰いしばって 痛みに耐える男の首筋へと青年は剣を突き刺した。

最後の一撃。決まり手の突き刺しは先程の鍔迫り合いと比べて一方的であり、切ないものだった。

「これで······3人目」

血の池を作って死体となったならず者の屍を跨ぎ、両腕を下へ降ろす。剣を下ろし、切っ先を地面スレスレの高さで止め、構える。

通称、脇構えと呼ばれる状態になると、青年は周囲を警戒しながら歩みを進める。

至るところに老人や若男、男の子供といった屍が転がり、所々の土壁でできた家は壊され火が付けられている。

「数時間前までは静かで豊かで、優しい所だったとこだったのにッ!クソッ」

そう、賊が来る前は───

「▧◀☀⚫▲▥©ª«±!」

物思いに耽りそうになっていた所を飛んできた罵声が青年を現実へと引き戻す。

声のした方向を急いで振り返ると槍を持ったエルフ耳の半裸男がこちらへ突きを繰り出そうとしている所だった。

(まずい!)

咄嗟に剣を斜めに構え防御の構えをとるが、斬りや払いと言った線の攻撃ではなく、エルフ男の放った攻撃は突き。点の攻撃である。

盾のような面で防ぐ防具があれば話は別であるが今青年を守るのは直線一本のみ、そこに突きが入らない限り負傷は免れない。

(あっ、これ終わったな)

死を覚悟する青年。強運か、はたまた悪運か槍の切っ先が剣に擦れ軌道が変わり、胸に目掛けて繰り出された突きは左頬を掠めるだけで致命傷を負わせることはできない。

だが───

「痛ッッってぇ!!?」

刃傷(にんじょう)沙汰など物騒な経験をしたことない青年は痛みに慣れていなかった。

慌てて剣の柄を握り込んでいた左手を離すと頬の傷へ当てる、ぬるりとした感触を指の腹で感じた。

青年は頬を触った手を目の前に持ってくる。血だ、指には真っ赤な血液が付着していた。

手を振い、血糊をとばすと青年は再び柄を握り込み───

(───しまった!)

時既に遅し。エルフの男は突きの体勢を取り終わり、今正に青年の胸へと切っ先が迫る。

刃らしき硬いものが入ってくる感触、続いて訪れたのは。

「ウッ!?グゥゥゥゥゥゥ!?!?」

(痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!)

気が触れるかと思うほどの激痛だった。

そして、青年は腹の奥から何かがせり上がってくる感覚を覚え、そのまま地面に吐き出す。

ビチャビチャと音を立てて地面に吐瀉物を吐き散らかす青年。

(ああ、血だな)

死を悟ったものによるものかはたまた別の理由か、どこか達観した様子で吐き出した血を焦点が合わなくなった霞む目で見る青年。

意識が遠のいて来たのか、思考が鉛にように重くなり、あれだけ酷かった痛みも薄らいでくる。

徐々に指に力が入らなくなり、握っていた剣が地面に転がって大きな音を出す。

槍が引き抜かれると同時に立って居られなくなり、地面にうつ伏せに倒れ込む青年。

(今回も駄目か······)

燻る家々を眺めながら、落胆の意を抱く青年。

青年を刺したエルフの男は、青年など知った事ではないとばかりに彼を蹴り飛ばし、唾を吐き捨てると槍を担いで明後日に方向ヘと歩いていってしまう。

勢いよく蹴られたが、すでに感覚は薄く痛みはなかった。

身体中が弛緩していく感覚。意識は遠のき、青年の目の前は真っ白に染まる。

直後青年───出雲宗近いくもむねちか は落命した。

初投稿です。至らぬ点もありましょうが、御手にとって読んでもらえれば幸いです。

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