朝霧班
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休憩のあと、俺達は周りに注意をしながら歩き続け、目的地である中学校までやってきた。
「とくに以上はありませんでしたね」
「そうね」
とくに異常はなさそうなので今から引き返そうとしている。
「大丈夫か?」
引き返す準備をしている知之達を他所に、朝霧が俺の下へとやってきた。
「ああ、俺は大丈夫だ」
「見つからなかったな……」
朝霧の言葉通り、目的地へと向かっている最中、海斗と最後に別れた場所までやってきたのだが遺体を見つけることは出来なかった。
「もう少し探していくか?」
「いや、もう戻ろう」
「そうか……」
知之達の下へと戻る朝霧の背中に「ありがとう」と伝え、俺も戻る準備を始めた。
海斗、お前は何処に……。
最後に海斗と通うはずだった中学校を一瞥し、朝霧達の後を追う。しかし、途端に朝霧が手を横に差し出し後ろにいる俺達に止まるよう指示を出す。普通の人なら変化に気がつかないだろうが、俺達のように組織の訓練を受けたものなら分かる。確かに今の一瞬で周りの空気が変わったと。
「敵は——、十弱、残党ってところか」
見えない敵を数え出す朝霧。
「——隊長来ます」
「ああ、お前ら戦闘態勢」
葵とのやりとりのあと、近くの建物が崩壊すると同時になかから十三体の堕人が姿を表す。
朝霧の言葉通り残党のようだ。奴らを見つけたと同時に朝霧以外の三人はクロスを解放する。その姿は先ほどまでふざけていた者達とはまるで別人だった。
よし、俺だって!
その様子に驚き遅れてしまうも、俺も知之達に続こうとクロスを解放しようとする。
「裕太、ちょっと待てよ」
しかし、寸前のところで知之が俺の解放を制した。
「なんで止めるんだよ」
「まあ、今回は見てろ。俺達の戦闘を」
「おい、ちょっと!」
言うが早いか、知之、華耶、葵の三人は目にも止まらぬ速さで奴らの群れに突っ込んでいく。
見てろって……。
一応クロスは解放したのだが、俺は知之の指示に従いみんなの戦闘を眺めていることに。少し前には朝霧も三人の戦闘を見物していた。
「いいのかよ?」
「ああ、あいつらは強いよ。少なくともお前達よりな」
「お前達」とは、多分水野班のことを指しているのだろう。
「なっ! 俺達だって——」
「まあ見てろよ、すぐに分かるからさ」
俺達だってかなりの実力だ。と言う前に朝霧が話を終わらせる。そのため俺も仕方なく三人の様子を見守ることしか出来なかった。
「知之、華耶、私が先行します。続いてください」
「「了解」」
勢いよく奴らへと突っ込んでいった知之達は、葵の言葉で陣形を組み立てる。言葉通り葵が先頭、その後ろに華耶、知之と言う陣形。見ようによっては俺達もよくやる普通の陣形だった。
一体なにを……。
知之と朝霧に言われた通り、俺は三人の様子を眺めている。
「華耶、行きます!」
「はい!」
葵のかけ声で、華耶は今以上に地面を強く蹴る。普段は大人しい華耶からは想像もつかない俊敏さだった。
「フッ!」
右手に構えた釜を勢いよく払う葵。さすが副隊長を務めるだけはあるようで、今の一振りで奴らの半数以上を殺すことに成功。残る奴らの数は僅か五体。だが、葵は今の一撃で奴らの群れに突っ込み多くを殺したが、結果、残りの堕人達に背中を向ける態勢になってしまう。
「おい、助けに入らなくて大丈夫かよ!?」
慌てて隣に立っている朝霧に声をかけるも返事はい。黙って見ていろということだろうか。
くそ……、どうして……。
目の前で起こっている状況に、つい剣を握る手に力が入ってしまう。
今にも背を向けている葵に襲いかかろうとする堕人達。
もう飛び出しても間に合う状態ではなかった。葵がやられることを想像してしまい、戦場から目を背けてしまう。しかし、いつまで経っても葵の悲鳴が聞こえてくることはなかったのだ。
「……」
恐る恐る目を開け再び戦場を見ると、予想もしていなかった光景が広がっていた。
「タイミングはばっちりよ、華耶」
「はい、ありがとうございます」
なんと、奴らの攻撃全てを華耶の巨大な盾が防いでいた。
葵があそこまで臆することなく奴らの群れに飛び込んで行けたのは、どうやら後ろを任せられる仲間がいたからだ。
すごい……。
だが、知之達の連携はこれで終わりではない。
「知之!」
「任せて下さい」
葵と華耶に襲いかかろうとしていた堕人達。そして、その更に後ろには知之が双剣を構えて経っていた。
「俺を忘れてもらっちゃ困るよ」
知之が一瞬にして姿を消し、次に現れた時には奴ら全ての首が綺麗に両断されていた。
嘘だろ……。
思わず言葉を失ってしまう。
「どうだ、中々やるだろ?」
俺が驚いている様子に朝霧は自慢げに声をかけてくる。
まさか最初のやりとりでここまでの連携を……。
葵が最初に先行するとだけ伝えてから全く会話などなく、瞬時に自分のとるべき最善の行動をとり奴らと戦う。朝霧が先ほど言った「少なくともお前達よりな」の意味が分かった。
「お疲れ様です、葵さん」
「戻りますか」
戦いを終えた知之達三人が戻ってくる。個々の実力で言えば俺達水野班の方があるかもしれない。しかし、連携という点で見た場合、この朝霧班はどうやっても敵わないと今の一瞬の戦闘で感じてしまった。
これがチームなのか……。
「結構強いぜ、俺達の班は」
「ああ、正直驚かされたよ」
こちらに戻ってくるなり知之が声をかけてきたので、俺も素直に答える。
「足を引っ張らないようにするのがやっとで……」
華耶も口を開くが、あの迷いのない動きはたいしたものだと思う。今の敵は堕人ではあったが、奴らの攻撃をまとめて受け止める勇気は俺にはない。周りを信頼していないと出来ない技だ。
「華耶ちゃんは足なんて引っ張ってませんよー」
俺達のやりとりを聞いていたらしく、鼻を伸ばしきった状態の朝霧が会話に加わってきた。
「そ、そうでしょうか?」
「そうだとも、よし良い子、良い子してあげよう」
そう言って、華耶の頭を撫でようと朝霧が近づく。
「隊長……」
だが、触れようとしたところに葵がクロスを解放して鎌をちらつかせる。少しでも触れればその手を切り落とさんと言わんばかりに。
「じょ、冗談だよ……」
隊長の威厳が丸潰れ。朝霧は渋々といった様子で伸ばした手をそっと戻す。朝霧が観念したと判断し、葵も溜息を吐いながらクロスを収める。
凄い変わりようだな……。
何度も思うが戦闘時との雰囲気が違い過ぎる。さすが水野の上司だけあった。
「一ノ瀬君、見苦しいところをお見せしてすみません」
隊長の代わりに葵が俺に頭を下げてきた。
「そ、そんな別に……」
「そうだよ、葵ちゃん。気にしすぎだって」
「隊長はもう少し柊隊長を見習って下さい」
柊とは水野、朝霧と共に関東地区を担当している隊長。
あの時も朝霧達と共に増援に駆けつけてくれていた。柊を一言で表すと堅物。俺もそこまで話したことがないので分からないが、水野から聞いた話だと、融通の利かない、真面目人らしい。現に今、葵も見習って欲しいと言っていたのであながち間違えではないのだろう。正直な話、柊班ではなくてよかったと思っている。
こんなこと絶対に言えないけど……。
「やだよ、あいつは真面目過ぎる」
はっきりと申す人が目の前にいた。
「まあ、まあ、二人共その辺で」
決して気まずい空気になりかけている訳ではないもの、知之が場を収めるため止めに入る。
「お、じゃあ引き返しますか」
「隊長人の話を……」
とくに陣形など気にすることもないので、朝霧と葵を先頭に再び歩き始めた。
「私、この班に入れてよかったと思います」
引き返す際も一番後ろを歩いている俺の隣には華耶。ここが戦場だというのに華耶は、目の前の光景を暖かい眼差しで見つめていた。
「なんだか隊長と葵先輩って、私のお兄ちゃんとお姉ちゃんに凄く似ているんです」
「……」
確か華耶の家族って……。
訓練兵時代に華耶が話してくれたことを思い出す。
「……また、目の前の二人のようにみんなが笑っていられる世界がきますよね?」
言い合いながらも笑っている二人のように、満面の笑みを浮かべる真理亜のように、華耶はまたみんなが笑顔で暮らせる世界を目指していた。そして、その答えは勿論決まっている。
「——ああ、必ずくるさ」
俺も目の前の二人を見つめながら、しかし言葉には確かな希望を込めてはっきりと答えた。