朝霧班
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「そ、そうか? ありがとう」
クロスを褒められ悪い気はしない。むしろ、俺自身もこのクロスはかなりのお気に入りでもある。
「やっぱり人によってクロスの形状は全く違うんだな」
独り言のように口を開く知之。
確かに知之の言う通り、クロスは所有者によってその形状は大きく異なる。理由としてクロスは人間の血で反応しているからだ。
最初に俺達がクロスを手にするようになってから行うことは、この十字架に自身の血を与えること。そして、血を得たクロスは今手にしているように武器へと形状を変えることが出来るようになる。そのため形状が似ている場合もあるが、基本的には同じクロスは存在しない。
「知之のクロスはどんなのだ?」
俺が知っているのは水野班だけなので、素直に思ったことを口にした。
「俺のクロスはこれだ。名は『柳』」
言いながら、クロスを解放した知之の両手には刀身が三日月状に逸れた剣が握られていた。
「柳……?」
「そう、この双剣は柳っていうんだ」
「一ノ瀬君のクロスはなんて名前ですか?」
二人の会話を聞いていた華耶が俺のクロスの名前を訪ねてきたが、とくにそんなものはないので答えに窮する。
「因みに私のクロスは『アイリス』です」
華耶のクロスは自分のからだよりも大きな盾だった。
「待って、クロスに名前なんてあるのか?」
一方的に言われても分からないことだらけなので、俺は二人に説明するよう頼む。
「まあ、あいつは名前とか気にしない奴だからな」
以外にも、俺の質問に答えたのは朝霧だった。朝霧はそのまま話を続ける。
「まあ決まりって訳じゃないけど、自分のクロスに名前を付ける奴が多いんだ」
「名前を……」
そんなことは初めて聞いた。
「因みに、みなさん付けるのは決まって花や植物の名前が多いです」
朝霧の内容を補足するかのように葵が口を開く。因みに朝霧のクロスは大剣で名前は『アザレア』、葵は鎌で名前は『桔梗』らしい。
「なんで花の名前を?」
最後に喋っていた葵に訳を伺うと、それは隊長からといって話の主導権が移った。
「まあ、あれだ。俺達の組織名って覚えてるか?」
「『最果ての地』だろ?」
忘れる訳もないのですぐに答える。
「正解。意味は分かるか?」
「意味……?」
そういえば、今まで組織の名前の意味を考えたことはなかった。
「『最果て』を簡単に説明すると、なにもないって意味だ」
「なにもない……」
「そう。だがそんななにもない場所でも必ず緑は育ち、俺達を導いてくれる。そんな理由から俺達はクロスの名前に花や植物を使うんだ」
導くか……。
話を聞きながら今も解放状態のクロスに目を落とす。
「あいつは俺の班にいた時から名前なんて気にする奴じゃなかったけどな」
「あいつって水野のことか?」
「そうだよ」
「へえー、あの水野がー」
さも当然のように言うものだから聞き流してしまいそうになったが、言葉のなかに驚くべき内容が含まれていた。それ
は——、
「え! 水野って朝霧の部下だったの!?」
「朝霧?」
「あ、朝霧隊長の……」
口だけでいいもの、何故かクロスまで解放する葵。
「まあ、あいつはすぐに俺の班を抜けて隊長になったけどな」
「知らなかった……」
まさか水野が元朝霧班の一員だったとは。俺を助けてくれた時には周りに指示を出していたので、既にあの頃には隊長になっていたのだろう。
「……あ」
水野の過去を聞いた瞬間、全てのピースが一気に埋まっていく。
そうか、水野のいい加減なところはこの人からきてたのか。
「どうした?」
「いや、なんでも……ありません」
「お前もクロスを持ってるんだ、せっかくだし名前でもつけたらどうだ?」
「名前か……」
確かに名前があったほうがより愛着がわくかもしれない。
「なんなら俺がつけてやろうか?」
「いや、自分で決めたい」
「そうか、まああいつにも話してみるといいさ」
なにか名前のヒントが貰えるかもしれないと言いながら、朝霧は瓦礫の上から立ち上がる。話の区切りもいいのでそろそろ出発するらしかった。
「名前が決まったら教えてくださいね」
最後に華耶が俺に話しかけ、再び歩き出す。