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朝霧班

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「皆さん準備は宜しいですね」

「はい、大丈夫です」


俺達を代表して知之が葵の返事に答える。誰が隊長か分からない光景だった。


「隊長、大丈夫です」

「じゃあ出発しますか」


言いながら袖のボタンを外し、閉まっていたクロスを垂らす朝霧。それに続くかのように知之や華耶、葵までも同じような行動を。


一体何を……。


皆、クロスを腕に垂らしながら突き出す。


「ほら、裕太お前も早くしろ」

「わ、分かった」


訳が分からなかったが朝霧に言われた通りに俺も袖のボタンを外し、クロスを垂らした状態で腕を突き出す。


「まあこれは俺達の班で行う儀式みたいなもんさ」


頭にはてなマークを浮かべている俺に、知之が親切にも教えてくれる。


儀式……。


「よし、では——」


一呼吸おいて朝霧が口を開いた。


「俺達が向かうは最果ての地。死んでいった者達の悲鳴を心に刻め、胸に焼き付けろ。多くの犠牲なくして今の俺達はない。生きる意味を行動で示せ。死んでいった者達に希望を照らせ。最後に笑うのは俺達人間だ」


朝霧の言葉で場が一気に締まったのを感じる。


「これより朝霧班、任務を開始する」

「「「はい!」」」


朝霧達の背中を追う形で俺も再び『相模原』へと足を踏み込んだ。


———————————————————————————————————————

「華耶ちゃん大丈夫? おぶってあげようか?」

「だ、大丈夫ですよ」

「……」

「葵ちゃん、よかったらー——」

「結構です」

「……」


おかしい、俺は確かに朝霧達の後ろを歩いてはずなんだが……。

先ほどまでの張り詰めていた緊張感が一気に解け、朝霧に関しては車庫で見せたように鼻が伸びきっていた。


「おい、知之……」


前を歩く知之に声をかける。


「まあ、俺の班はいつもこんな感じだよ……」


知之も苦笑いを浮かべながら答えた。どうやらあの緊張感は最初だけらしい。


どこか水野に似てるところがあるんだよな……。


「なんか大変そうだな」


今も前で話している朝霧達三人を見つめつつ知之に声をかける。


「まあ、みんないい人ばかりだよ」

「なるほどー」


それに朝霧や葵、今はいないが愛衣の実力は確からしい。


「裕太のところはどうだ?」

「俺のところか……」


言われて少しだけ考えてしまう。無口でなにを考えているか分からない奴、なにかと難癖ばかりをつける奴、先輩だけどそうとは思えない奴、なにかと適当な上司。考えるだけで頭が痛くなってきた。


「どうした裕太?」

「いや、なんでもない。まあ俺の班は普通だよ」


普通の基準が分からないのでこう答えるしかない。そして、確実に言えることは水野班のなかでは俺が一番普通であること。


そうだ、俺が一番普通なんだ……。


「そうか、まあ上手くやってるならなによりだよ」


周りのことを常に気遣っていた知之にとって、俺が上手くあいつらとやれているかが心配だったようだ。


「知之聞いてくれよ、葵ちゃんがー」


二人で話していると、少し前を歩く朝霧がわざとらしく泣き真似をしながらこちらを向いてきた。


「フォローしてやれよ」

「悪いね」


とくに知之と話し足りないというわけでもなかったので、さっさと目の前で騒いでる隊長を宥めるよう提案する。知之もまたかと言わんばかりに軽いため息を一度吐き、朝霧の下へと小走りで向かっていった。


「葵ちゃんが冷たいんだよ」

「まあまあ、落ち着いて下さい」


その様子を再び一番後ろから俺は一人眺めている。


なんだろう、この違和感は……。


先ほど、いや車庫で知之達に会ってからなにか違和感を感じてならない。勿論、違和感の正体など分かる訳もなく、ただ俺は黙って三人の後を追っていた。


「隊長が変態だからです」

「そんなこと言わないでよー」

「まあ、続きは帰ってからにしましょうよ」

「……」


あいつら、今なにしてるのかな……。


それぞれが自分の部屋で療養しているので、任務終わりから顔を合わせていない。多分、俺が今別の班に加わり任務を行っていることは誰も知らないのだろう。


まあ、知られたところでとくに意味はないけど……。


そんなことを一人考えながら懐かしい地元の土を踏んでいた。


「よし、ここら辺で一先ず休憩するか」

「そうですね、今のところ敵の気配も感じませんし休憩をとっても大丈夫でしょう」


朝霧の提案に葵や他の二人も了承し、建物が倒壊して全体を見渡せるポイントで一旦休憩をとることに。


「隊長、飲みますか?」

「おお、ありがとう華耶ちゃん」


瓦礫の上に腰を下ろす者やそのまま立っている者のなか、華耶は、背負っていたリュックから水筒をとり出し隊長、葵、知之という順番に暖かいお茶を配っていく。


「一ノ瀬君もどうぞ」

「ありがとう」


飲み物を全員に配り終えた華耶は自分の分も注ぎ、そのまま立っている俺の隣へとやってくる。


「ここって一ノ瀬君の地元ですよね?」


隣に立った華耶が楪と同じようなことを聞いてきた。


「そうそう、華耶に話してたか」

「はい……」


歳が同じということもあり訓練兵時代から華耶と話す機会は多かったので、その時にここが俺の地元だということを話していたらしい。俺にはその記憶は全くないのだが、隣に立っている華耶はしっかりと覚えていてくれたようだ。


「結構荒れ果てちゃっていますね……」


これでは生存者も一人もいないのではと華耶は話を続けた。


「すみません……。変なことを聞いてしまって……」


すぐさま自分の発言を申し訳なさそうに悔いる華耶。俺はとくに気にしていなかったので「大丈夫」と答えるも、華耶は一人落ち込んでしまう。


どうしよう……。


「そういえば、裕太のクロスってどんなの?」


困り果てた様子で辺りを見渡していると、知之が助け舟を出してくれた。


「お、俺のか?」


その助け船にすぐさま乗船して話を強引にでも逸らす。その話には華耶も興味があるのか、不思議そうにこちらを眺めている。


「俺のクロスはこれだよ」


口で説明するより直接見てもらったほうが伝えやすいので、この場でクロスを解放して見せた。


俺のクロスは柄の部分と刀身の大きさが異なり刀というより剣に近いだろう。


「へえ、裕太のクロスは剣なのか」


一目見て知之が口を開いく。


「かっこいいクロスですね」


隣に立っていた華耶も俺のクロスを見て先ほどよりは調子をとり戻していた。

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