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朝霧班

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車庫に響き渡る一つの声。


「あのお、一ノ瀬裕太です」


俺は組織が用意した制服に身を包み、車庫へとやってきていた。

そこには既に知之や華耶、先輩に隊長の朝霧が集まり車の中に任務で使う荷物を積んでいた。そのため、車庫に到着した俺の存在に気がついていなかったので、周りに聞こえるようわざと大きな声を出した。


「あ、一ノ瀬君」


最初に気がついたのは同期の華耶だった。

華耶は荷物積みを途中で中断して俺の下まで駆け寄ると、丁寧にぺこりと一度だけ頭をさげる。

訓練兵時代から、そこまでかしこまらなくても大丈夫と言っているのだが、本人はこれが普通らしく同期にも敬語。今のように丁寧に頭を下げて挨拶をしていた。


どっかの誰かさんとは大違いだ。


「もう出発の準備は出来ていますか?」

「悪い。遅くなったな」


言われた通りの時間に来たのだが、既にそこには俺以外の全員揃っていたので一応謝ることにした。


「今日はよろしく。裕太」


話をしていると、訓練兵時代から仲のよかった知之が俺と華耶の下までやってくる。相変わらず爽やかな出で立ちで、どこか海斗の面影を感じてならない。


「こちらこそ頼むな」


挨拶代わりに差し出された手を握り返す。


こんなこと相馬じゃ絶対にやらないだろうな……。


「どうした?」

「いや、なんでもない」


ついあいつらのことを考えていると、表情の変化に知之が気がつく。こうやって訓練兵時代も誰かが悩んでいたりするとさり気なく声をかけていた場面を何度も目にしている。やはり周りが見えて頼りになる男だと思う。


「悩み事ですか?」


華耶も相変わらず自分のことのように思ってくれていた。


「大丈夫だよ。気にしないでくれ」

「そうですか……」

「ああ。ただ正反対だなって思っただけだよ」

「正反対?」


俺の話を聞いて頭にはてなマークを浮かべる華耶。


「まあ、気にしなくていいよ」

「でも、こうして三人でお話しするもの久しぶりな気がしますね」

「そうだな」


華耶と知之が言葉通り、訓練兵を卒業してからそれほど日数は経っていないが、こうして三人で話すのは久しぶりな気がして懐かしく思えてしまう。


もうこいつらも戦場に出てるんだよな。


知之は楪と並ぶ実力者なので問題はないのだが、目の前でこちらを眺めている華耶は果たしてやっていけているのかが心配でならなかった。


「お、来たな裕太」


俺達三人が話しているところに朝霧集がやってきた。


朝霧集。身長百八十センチ。歳は水野より六つ上の三十三。無造作に伸びた髪と顎髭が特徴。

水野とは組織に入る前からの付き合いで、お互い相手のことを悪友と呼んでいる。実力は折り紙付きで、一体一の戦闘なら水野よりも圧倒的に強いと前に本人が悔しそうに言っていた。


この人が水野以上の実力者……。


「今日はよろしくな」


言いながら俺の頭を二回叩く。


どうもこの人が水野以上の実力者だとは思えない。


「どうも、よろしく」

「なんだ、元気ねえじゃんか?」

「そんなことは……」

「ああ、もしかして愛衣ちゃんがいないから寂しい?」


聞いたこともない名前を言われて困惑している所に、朝霧は俺にだけ聞こえるよう耳の近くまで顔を近づけふざけた調子で話を続ける。


「まあ、安心しろ。うちの班には愛衣ちゃんの愛くるしさとはまた違った魅力を持つ女の子がいるぜ」

「……」


呆れて言葉も出ない。水野はこんな人に勝てないのだろうか。


「隊長。おふざけはそのくらいで」


悪さをした子供を咎めるように車の陰から、組織の制服に身を包みメガネをかけた女の子がやってきた。


「げっ、葵ちゃん」


葵と呼ばれるその女の人はそのままこちらへとやってくる。


「な、見た目は怖そうだけど中々綺麗だろ」

「は、はあ……」


注意されたにも懲りず、朝霧は俺の耳元で話を続けた。


「……隊長」

「じょ、冗談だよ。冗談」


有無を言わさぬ迫力に、朝霧もおとなしくなる。

確かに朝霧の言葉ではないが、こちらにやってくる女の人は外見からかなりの迫力を感じる。正直外見の怖さで言ったら楪といい勝負だった。

そんな葵がこちらにやってきて朝霧の服を掴むと、そのまま引っ張り俺の前に立たせる。


「ええっと、一ノ瀬君であっているかしら?」

「はい、一ノ瀬です」


水野や影井、それに朝霧にも敬語を使わなかった俺が迷うことなく敬語を使った。それだけこの女の人は危険だと本能が感じたのだろう。


「そう。では改めて自己紹介を。ほら隊長」


朝霧は背中を押されて一歩前に出る。


「じゃあ改めて自己紹介とのことだったので、どうもこの班の隊長してます朝霧です。好きなものは女の子。以上」


簡単な自己紹介を済ませて一歩下がる朝霧に、葵はわざと聞こえるようにため息を吐く。葵の気持ちもなんとなく分かる。こんな挨拶では隊の威厳もあったものではない。だが、朝霧はこれ以上付け加える訳でもなく、知之を指差し次に挨拶するよう促す。


「まあ、今更自己紹介するまでもないけど大葉知之です。よろしく」


一言だけ告げると知之は一歩後ろへ下り、隣に立っていた華耶に次を託した。


「あ、改めて自己紹介となりますと緊張しますね。ええと、夏目華耶です。あとは……、あとは……」


話すことが思いつかず頭が真っ白になる華耶。


「好きな男のタイプは?」


そこに朝霧が要らぬパスを出してしまう。当然、華耶は答えられる訳もなく顔を真っ赤にしてあたふたしている。朝霧はその光景を見て楽しいのか一人笑っていた。


「華耶、もう大丈夫よ」


女の子には優しい葵だった。


「では、最後に私が。どうもこの班の副隊長を務めております雪平葵です」

「葵ちゃん、好きな男の子のタイプは?」

「あとは今回この場にはいませんが佐々木愛衣という隊員を含めて朝霧班です」

「葵ちゃ〜ん」

「一ノ瀬君、貴方の自己紹介も宜しいですか?」

「は、はい! ですけど……」


先ほどから喋っている朝霧はいいのかと目を配るが、葵は全く気にすることはありませんと言いい俺に自己紹介をするよう勧める。


「どうも、一ノ瀬裕太です。よろしくお願いします」


葵に無視され落ち込む朝霧を他所に、俺は全員に聞こえるよう挨拶をした。と言っても知之や華耶、朝霧は俺のことを知っているのでほとんど葵に向けた自己紹介に近いだろう。軽く挨拶を済ませる頃には朝霧も出会った時の調子に戻っていた。


「まあお前ら、そんなとこだから今日からよろしくやってくれ」


俺の後ろに回った朝霧はわざとらしく何度か肩を叩く。


「隊長、その言い方ですとこれから裕太が俺達の班に入るみたいですよ」

「お、そういえばそうだな」


知之の話を聞いてすぐに訂正する朝霧。確かに今の言い方だと俺は朝霧班に入ったことになってしまう。


「よし、今日一日よろしく」


改めて言い直す朝霧。

そう、俺は水野班を抜けた訳でもクビになった訳でもない。今日一にだけ朝霧班の任務に同行することになったのだ。


「よろしくお願いします」


俺の方からも改めて挨拶をする。


そもそも何故俺が水野班の任務ではなく朝霧班に同行することになったのか、それは少し時間を遡ることになる。

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