朝霧班
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「名前か……」
任務を終えたその日の夜、横になりながら自身のクロスを解放して眺めていた。
『お前もクロスを持ってるんだ、せっかくだし名前でもつけたらどうだ?』
朝霧にも言われたのでなにか名前をつけようとしているのだが、全く思いつかない。第一花や植物と言われても種類など分からなかった。
「お前はどんな名前がいいんだ?」
こんなところを相馬にでも見つかったら確実に馬鹿にされるだろう。だが、自分ではどうも考えつかないのでクロスに語りかけてしまう。
「……」
当然、返事はない。
疲れてるのかな、俺……。
解放してみたものの、いいアイディアが思い浮かばなかったのでクロスを収めた。
まあ、明日にでも水野に聞いてみるか。
明日は久しぶりに水野班での任務。内容は簡単に回ってきたが、どうやら護衛任務らしい。これまでに経験したことのない任務。ただ、護衛が必要ということは少なからず奴ら、堕人は現れると覚悟をしておいたほうがいいだろう。
もし、サクラスのような敵が現れたら……。
全く歯が立たなかったあの時の光景が頭を過る。
やっぱりあいつらと戦うためには……。
どうしても『鬼色化』を習得しなくてはならない。正直、クロスの名前よりもそっちの方が今の俺には重要だった。
どうすればあの力を……。
『鬼色化』の方法について考えていると、不意にドアを叩く音が。
誰だよ、こんな時間に……。
人が尋ねてくることなど滅多にない。ましてやこんな時間。『鬼色化』について分からない状態が続き無意識のうちに苛々していたので、わざとらしく大きな足音を立てながら今も鳴るドアを開けた。なんとそこには——、
「お兄ちゃん……」
寝間着姿の真理亜がそこに立っていたのだ。
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「真理亜、どうしてここに?」
突然真理亜がドアの前に立っていたので戸惑うも、とりあえず部屋のなかへと招き入れる。
時刻は十二時を越え、真理亜のような子供は完全に眠っている時間だった。
「眠れない……」
どうやら真理亜は中々寝付けなかったらしく、俺の部屋を尋ねてきたようだ。今はベッドの上にちょこんと座っている。部屋の明かりは小さな間接照明だけなのだが、真理亜の綺麗で艶やかな白髪はよく目立つ。
「華耶はどうした?」
眠れないのであれば真理亜と同じ部屋で生活をしている華耶に言う方が早いだろう。
「お姉ちゃん寝ちゃった……」
一人悲しそうに答える真理亜。
なるほど、まあ華耶は今日任務を行ったばかりなので疲れていたに違いない。
真理亜もそれを分かっていたので起こさず一人でいたのだ。しかし、暗いなか一人でいるのが怖くなったため、こうして俺の部屋までやってきたという訳だ。
「ここで寝ていい?」
小首を傾げながら訪ねてきた真理亜。俺はそれをすぐに許可することは出来なかった。
「だめ……?」
「うっ……」
真理亜は年端もいかない子供。しかも女の子だ。そんな子と俺が一緒に寝ていいのだろうか。
だが、ここで追い返すのもなんだか申し訳ない。
くそ、俺はどうすれば……。
時刻は十二時を越え、俺は心なかで一人戦っていた。
「お兄ちゃん?」
このままここで寝かすか、華耶の部屋にかえすか……。
返事がないことに不安の色を覚える真理亜。
きっとこのまま返したら、泣いちゃうだろうな……。
その証拠と言わんばかりに真理亜の目が潤み始めていた。これは帰るよう伝えた瞬間放流の如く溢れるに違いない。
「……」
かといい、一緒に寝るのは……。
「お兄ちゃん……?」
「……分かった。今日だけ特別だぞ」
「やった!」
今日一日だけここで寝ることを許可した途端、真理亜の表情が一気に明るくなる。気のせいだろうか、部屋全体が先ほどより明るくなった気もした。
やっぱり真理亜は笑っている方が可愛いよな。
ベッドの上で足をばたつかせながら喜ぶ真理亜の頭を撫で、シンプルに作られた机に腰を下ろし、メモを書き始める。
「なにしてるの?」
「起きた時真理亜が部屋に居ないと華耶が驚くだろうから、メモを書いてる」
簡単に真理亜は俺の部屋で寝ているとだけメモに残し、真理亜に手渡す。
「これを今から華耶の枕元にでも置いといて欲しい」
「うん、分かった!」
素直に俺の話を聞き入れた真理亜は、小走りに華耶の部屋へと一旦戻っていく。俺はその間に真理亜が寝られるスペースを作らなくてはならない。
と言っても、俺が下に寝ればいい話だけどな。
毛布代わりに雨風を防ぐマントを取り出し、準備は完了。あとは真理亜が帰ってくるのを待つだけだったが、すぐに俺の部屋へと戻ってきた。
「置いてきた」
「じゃあ寝ような」
ベッドを使うよう真理亜に伝え、俺は床に横になる。やはり敷き布団がないので少し寝苦しい。真理亜も俺を気遣い一緒に寝ようと、裏のない純な気持ちで誘ってくれているのだけれども、それはさすがに不味いと思ったので丁重にお断りをした。そのため、今は俺のベッドに真理亜、その隣、床には俺という状況。既に部屋が真っ暗なせいか、真理亜が寝返りを打つたびにシーツが擦れる音が耳を擽る。これでは俺が眠れなかった。
「……お兄ちゃん」
「大丈夫、真理亜が眠れるまで起きてるよ」
優しく答えると、真理亜は「違うの」といい話を続けた。
「真理亜、お外に行きたい」
「え……」
お外、それはつまり地上のことを言っているのだろう。今思うと真理亜を保護してから一度も外へ連れて行ってはいなかった。俺や華耶が任務に行く時も常に留守番状態。
俺達が任務で出ている間はなにをしてるんだろ。
「お外で遊びたい」
もう一度、先ほどより強く言葉を発する真理亜。
「外か……」
「だめ……?」
確かに、このままずっと地下に居るのは退屈だろう。もし逆の立場なら俺だって外に出たいと水野か誰かに行っているに違いない。もしかしたら眠れないと言っていたのも、これを頼むためだったのではないだろうか。
「真理亜、外で遊びたいか?」
「うん、お兄ちゃん達と遊びたい」
「……」
危険だと分かっているが考えてしまう。
「真理亜も一緒にお外連れてって」
最終的にはベッドの上から顔を覗かせ、こちらに頼み混んできた。
「……もうちょっと待ってな」
だが、真理亜の提案を素直に受け入れることは出来ない。俺は硬い床から体を起こし、真理亜の頭を撫でながら話を続ける。
「まだ外は危ないから、もう少しだけ待ってな……」
「もう少し……?」
「ああ、もう少しだ」
明確な時期は分からないが、必ず真理亜も外で遊べるようになると伝える。
「分かった。待ってる」
「偉いな。仕事がない時は遊んでやるからな」
「本当!?」
「ああ、約束だ」
必ず外で遊ぶことを約束し、もう遅いから寝たほうがいいと真理亜に伝える。すると、今度は楽しみで眠れないのか、時折くすり笑ったような声がベッドの方から聞こえてくる。よっぽど外で
遊びたかったようだ。だが、その笑声もすぐに収まり、変わって規則正しい寝息が静かな部屋に広がり始める。
「真理亜」
小声で呼びかけるも返事はない。多分疲れて眠りについたのだろう。とくには確認することなく、俺も眠りにつこうとする。
……外か。
今まで考えもしなかったが真理亜はまだ子供。このくらいの歳の子は外で走り回って遊びたいのだろう。真理亜にはかなり申し訳ないことをしている気がしてならなかった。
早く、外で遊ばせたいな……。
そのために俺がやらなくてはいけないことは明白だった。
待ってろよ、真理亜。
やはり、少しだけでも可愛い寝顔を見ておきたかった俺は、硬い床から起き上がり、今も規則正しい寝息を立てている真理亜の頭を撫でながら、改めて自分に誓うのであった。
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次回からは、第2章の始まりです。是非とも宜しくお願い致します。




