プロローグ
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「パパ。ご飯出来たよ」
「分かった今行く」
綺麗な黒髪を腰まで流した女の子が、大好きなお父さんを呼びに書斎までやってきた。
玄関を入ってすぐ正面には真っ赤な絨毯が敷かれた螺旋階段。壁には今にも動き出しそうな動物の剥製。勿論、女の子がやってきた父親の書斎も、近所の公民館には引けをとらないほど学術的書籍や専門書が壁一面の本棚に収められている。
「今日はね、——も手伝ったの」
「おお、それは楽しみだな」
「うん。すごく美味しいよ」
そんな何不自由のない家庭で——は育っていた。
「さあ、冷めないうちに頂きましょう」
女の子とお父さんがリビングに行くと、既にお母さんが晩御飯の支度を済ませテーブルについていた。テーブルの上には彩り豊かな食材を使用した手料理の数々。並べ方にもかなりのこだわりがあるのか、一つ一つが芸術作品のような仕上がり。
「わあ、美味しそう!」
完璧なまでに並べられた料理を見て女の子は目を輝かせながらお母さんの下へと駆け寄る。
「——手はちゃんと洗った?」
「洗ったよ!」
優しい口調で尋ねると、女の子も褒めて欲しいと言わんばかりに洗いたての冷たい手をお母さんの前に差し出す。それをお母さんもわざとらしく顔を近づけ確認したあと、女の子の頭を「偉いね」と言って撫でた。
「パパも! パパも!」
自分が終わると次はお父さんの番と言い、洗ったばかりの手をお母さんの前に差し出させる。
「ね、パパもちゃんと手洗ったでしょ?」
「うん、パパも綺麗ね」
「じゃあ、パパも褒めて上げて!」
「「え?」」
女の子の言葉にお父さんもお母さんも同じタイミングで声を上げる。これは女の子のように頭を撫でてあげろと言っているのだろうか。
「早く! 早く!」
どうやらそのようだった。
当然恥ずかしがり困惑するお父さんとお母さん。決して仲が悪いわけではないのだが、我が子が目の前にいると恥じらいが生まれてしまう。だが、女の子はそんなことはお構いなしにと目を輝かせていた。
「あ、——が作った料理が冷めちゃうよ」
「え!?」
「これはいけない、急いで食べなと」
「うん!」
お母さんの機転でなんとか女の子の気を逸らすことに成功。お父さんにはアイコンタクトで「偉いね」と褒めていた。
「いただきます!」
全員席に着いたことを確認し、女の子は笑顔で手を合わせて口を開く。それに続くようにお父さんとお母さんも「頂きます」と目の前に並べらえた彩り豊かなご馳走に手を伸ばし始める。
「パパ! この卵スープね、——が作ったの!」
女の子は自分が作ったというスープをいち早く飲んで欲しいらしく、お父さんの前にスープを差し出す。その様子を見ていたお父さんも、笑顔で女の子が作ったスープを手にとり口へと運んだ。
「どう、どう?」
最初はお父さんが口を開くまで黙っていた女の子も、すぐに待ちきれなくなり体を前に乗り出し感想を伺う。行儀が悪いとお母さんに怒られそうなところだが、今回ばかりは大目に見てくれている。
「どう、どう?」
「うん、美味しいよ」
ゆっくり味わったあとお父さんが口を開いた。
「やった! ママも飲んで!」
「良かったわね。はいはい」
言われた通り、お母さんも女の子が作ったスープを口に運び、お父さんと同じような反応を示す。我が子が一生懸命作った手料理。仮にこれが不味かったとしても二人にとってはそれだけで嬉しく幸せな味なのだろう。お父さんとお母さんはあっという間に女の子が作ったスープを飲み干した。
「——も冷めないうちに飲んじゃいなさい」
「うん!」
お母さんに言われ、女の子も二人に続いて自分で作ったスープを飲み干す。
「これからも——が沢山料理作るね」
「将来はコックさんかな?」
お父さんが料理を口にしながら冗談交じりに答える。お母さんもその冗談に乗るかのように、「いいわね」と笑顔で答えた。
女の子もお父さんとお母さんに言われ満更でもないのか、
「——、将来コックさんになってパパとママのご飯を作るね」
とむしろやる気に満ちた表情で答えたのだ。きっと、一週間もすれば女の子の夢は変わっているのだろう。一週間後は「学校の先生」、また一週間後には違うものに変わっているかもしれない。
でもそれでいいと、二人は女の子の楽しそうに笑っている顔を見つめていた。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。さあご飯を食べよう」
「そうね、頂きましょう」
そう、今は色々なことを経験して少しずつ大人になって欲しいと女の子の両親は思っていた。
「ママお代わり!」
そして、この幸せが永遠に続くようにと長いながら三人は楽しい晩餐を過ごす。
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「ママ! ママ!」
「——逃げて!」
しかし、その願いが叶うことはなく、儚くもこれが三人で過ごす最後の晩餐となってしまった。




