Nintiefirst Judge
ヤマクロは通りすがりの一般人Aから聞いた膨大な情報をゆっくりと整理しながら居酒屋「黄泉送り」に戻っていた、彼女はあの後伝えるべきことは伝えたと物凄い勢いで立ち去ってしまったのだ
美原千代にも門前払いをされてしまい、その場に留まっていても仕方ないと判断したヤマクロは一旦黄泉送りに戻って気持ちの整理をつけようという思考に辿り着いた
まず、通りすがりの一般人Aは美原千代と友好な関係にあり互いに生前の話までしたことがある
そして美原千代の死因は普通ではありえない不可思議な自室での心肺凍結死、どうやら冷房の類のモノも電源は一切入ってなかったらしい
更に言えば時期的にも不自然な点が多すぎることもあり、美原千代本人は死神が迎えに来たと遺書に記されていたようだ
そして同時にいくつもの疑問も浮上してくる、まず一つは何故通りすがりの一般人Aは死因まで知っているのか
たしかに裁判所には死因や死亡時刻、場所まで記される資料は存在するがこの天国には存在しないはずである
仮に通りすがりの一般人Aの正体が天国一の情報屋である須川時雨であっても知ることのできない事情のはずである、美原千代本人も死ぬ寸前に自分の死因を確認するなど不可能であろう
次は今回の異変と美原千代が関係しているという根拠のない情報についても疑問が湧く、今黄泉帰りの法の現世から流れ出ている力により来世は混乱状態に陥っている
その対象が何故美原千代だと言い切れるのだろう、そもそもそのことを確信にするための証拠はこれまでの流れを振り返ってみても一度も思い当たる節はなかった
【あまり悩まない方がいいよ、一度泥沼にはまると抜け出すのに必要以上に時間がかかっちゃうよ】
「そうだね。でも今回はそんなこと言ってられる場合じゃないんだ。兄さんも解決の為に動いているんだからボクも少しでも真実に近づかないと」
【それには一理あるけどまだボクらは重要な点を知らない。その時点で兄さんや真実に近づくには難しいと思う】
「どういうこと?」
【まず美原千代って人は一体何なのか、兄さんも彼女について調べてたみたいだけど何で調べていたのかはわからない。ただ母さんと顔が同じだけって理由だけで貴重な休憩時間を削ってまで調べるなんてとても思えないよ】
ヤマシロはゴクヤマの引退理由を突き止めるために美原千代について調べていた、という事実をヤマクロ達は知らない
仮に今ここでヤマクロが知ったとしてもあらぬ混乱を招いてしまい事態が進むことはないと予測される
その前にヤマシロがゼストと共に現世に行っているという現実も知らないヤマクロにとっては目の前の謎が精一杯の状態であった
【それにそもそもボク達は天国から出ることができないんだ、一旦図書館に行って調べるなんてこともできない状況で調べれることや知ることなんかは限られてくる。断片的な情報を下手に集めて一つに繋がらない状態で解決に動いても良い方向に進展するなんてとても思えないよ】
「で、でも仮に美原千代が対象だった場合のことも考えないと!全部が全部間違ってるなんてこの状況で今まで集めたことを全て捨てるよりはマシだよ!」
【キミの言うこともわかるよ、でもここは一旦天国と裁判所の交通網が回復するのを下手に行動を起こさずに待つべきだよ。兄さんとも一度話し合う必要もある】
ヤマクロはもう一人のヤマクロ、【ヤマクロ】の言葉に頷くがやはり大人しく待つという言葉にだけは頷くことはできなかった
たしかに一度ヤマシロと会って地獄で起こっている事態のことも頭に入れて解決に動くことが効率的かつ有意義で賢い選択なのかもしれないが先程から裁判所に脳波を飛ばしても脳話に応じないことにヤマクロは疑問を感じていた
もしかしたら余程手こずっており脳話する余裕がないのかもしれないが脳波すらも感知することができなかったのだ
仮に裁判所に戻ったとしてもヤマシロと出会えるかはわからない、出会えたとしてもゆっくりと話をしている暇などないかもしれない
「ボクはボクなりに情報を集める、キミの言っていることにも一理あるけどこれはボクのプライドの問題だ」
五代目閻魔大王の弟としての責任と期待という反面にはヤマシロの弟としての面子、プライドをヤマクロはそれ以上に大きく掲げていた
勿論それは【ヤマクロ】も同じなのだが【ヤマクロ】はそれよりも成功や確実性を重視する傾向にあるようだ
「まずは須川さんを探そう、あの人ならまだ知っていることもあるはずだし」
「その必要はないわ」
「.....どこから出てきたんですか須川さん?」
「私は通りすがりの一般人Aよ。決して須川時雨なんて天国一の情報屋なんてことは例え天地がひっくり返ろうともありえないこちょよ!」
須川時雨、もとい通りすがりの一般人Aは最後の最後で盛大に噛んでしまい頬を赤らめて悶え始める
ヤマクロはその動作を自分の姉貴分である月見里査逆と重ねてしまい思わず身震いする
「それで何の御用ですか、さっき急に立ち去ったばかりですよね?」
「君に伝え忘れたことがあってね、千代ちゃんと私の出会いとか」
「いえ、それは別にいいです」
「即答!?」
ガビーンという擬音と共に涙を流しながら膝から崩れ落ちる
「実はね、正確に言えば千代ちゃんが最初に喫茶店に私を誘ってくれたの、あの無愛想な千代ちゃんが」
頼みもしていないのに復活するなり通りすがりの一般人Aは自分と美原千代との出会いをマシンガントークのごとく話し始める
「どうやら何かをキッカケに私の名前を知ったらしく興味を持ったらしいのよね、生前好きだった人と同じ姓だったらしいわ」
通りすがりの一般人Aはサングラスの角度を合わせながら続ける
「その人の名前は須川雨竜、オカルト大好きな数学学者だったらしいわ、何だか矛盾してる肩書きなんだけどね。それで思い出したのよ、昔兄貴が言ってた須川の家にまつわる家宝の巻物のことを」
もう正体隠す気ゼロの通りすがりの一般人Aにツッコミはあえてしなかった、それ以上に気になるフレーズがヤマクロの耳をよぎったからである
「巻物?」
「たしか、黄泉帰しの法って書かれた箱に厳重に仕舞われていたって兄貴が言ってたことがあったわね」
黄泉帰しの法、その単語を聞いた瞬間ヤマクロの目の色が変わり、体の奥の何か熱いものが噴き上げてくるのを感覚を覚えた




