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閻魔大王だって休みたい  作者: Cr.M=かにかま
第5章 〜輪廻謳歌〜
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Eightiefirst Judge

「ふーん、その子がヤマシロ君の弟なのね」


「は、はじめまして」


須川と相谷との口論がやっとのことで決着が着き、今更ながら互いに簡単な自己紹介を済ませる

どうやらさっきのさっきまで須川は爆睡していたようで寝癖とパジャマ姿で目元には何故か隈まで作ってしまっている

ちなみに相谷は買い出しに出かけてしまったので現在居酒屋「黄泉送り」に残っているのはヤマクロと須川と五右衛門と夏紀の四人だけである


「まぁいいや、何か飲む?」


「.....ここってあんたの店じゃないよな?何でコーヒーメーカーの位置とかコーヒー豆の位置を姉さんが知ってんの?」


「細かい突っ込みは不要よ!」


グッ、と親指を突き出してドヤ顔で応える

五右衛門は頭を抑えながらもビールを注文する、続いて夏紀はココアを頼みヤマクロも渋々ソーダを注文する

何だかここで注文しておかないと駄目な気がしたのだ


「それで閻魔様の弟様が一体私にどんな御用かしら?」


須川がヤマクロの前にソーダを置き向かい合う形で席につく

寝癖や服装なんかで威厳というか真面目さが一切感じることが出来ないのだが声と顔だけは真面目だった


「.....改めて聞きますけど五右衛門さん、この人が本当に」


「あぁ、自称天国一の情報屋である須川時雨の姉さんだ」


「ちょいちょい、私ってそんなに信用ないの?」


冷や汗を垂らしながらコーヒーをガブガブと飲む須川さん

その様子を見てヤマクロと夏紀は絶句し五右衛門はもう見慣れた光景のようにスルーしてビールを飲み始める


「で、何の用なの?わざわざ弟さんが訪ねて来るなん.....て.....」


終盤なんだか言い淀んだ気もするが気にせずにヤマクロは質問する


「ボクのお母さん、ライラさんの事についてです」


ヤマクロは真っ直ぐに須川の目を見て質問した

須川はコーヒーのお代わりを入れてもう一杯飲み始める


「ここに来て一回だけお母さんらしき人を見たんです。でもそれがとても見間違いだとは思えない、お母さんはもう死んだのに。それを確かめたいだけなんです!」


須川は頭に手を当てて悩む仕草を見せる

同時に顔色も悪くなり静かに席を立つ


「ごめんなさい、少し気分が悪いから休んでくるわね」


「だったらせめてお母さんのことを知っているかどうかを」


須川はヤマクロの言葉を遮った

ヤマクロの口元に一枚の紙を差し出して、須川はヤマクロを睨みつける


「今渡せるのはこの写真だけ、これ以上踏み込むことは弟さんにとっても良いことではない。だからこの話はこれでお終い、いいわね」


須川は写真をヤマクロに向かって放り投げると逃げるようにしてその場を後にした

居酒屋「黄泉送り」の外に出て吐き気を抑えるように口を抑える


「ゴクヤマ、本当に貴方はこんな状況下にあるというのに息子達の決断と信念を捻じ曲げる気なの?」


須川は一人静かにそう呟いた

そしてヤマクロに渡した写真のことを思い出す

あの写真はヤマシロにも見せた物だ

彼女が彼らに協力できるのはここまでが限界である

だからこそヤマクロに美原千代の住所を記した写真を手渡したのだ

全てに決着をつけたがっている物好きな兄弟の為に


(さようなら、もう会うことはないでしょうね)


遠くからパトカーのサイレンが聞こえた

須川はフードを被ってマフラーを首に巻きつける

必要最低限の荷物を持って愛用のバイクに鍵を差し込んでエンジンを入れる

あの美原千代の写真はあるルートを使って市役所から盗み出した代物である

行く当てもない須川はバイクを走らせた

決して悔いはなかった


(さようなら信長、五右衛門、瓶山さん、夏紀ちゃん、相谷さん、そしてヤマシロ君に弟さん)


もう何年も流さなかった涙を流していた

最期に泣いたのは恐らく生前に一人の男に救われた時以来だろう


日本人にして生まれながらのアルビノ肌と色素の抜けた色白の髪だった須川は周りから奇異な視線と罵倒を受けながら暮らしていた

そこで彼女を救った一人の男がいた

坂本龍馬と名乗る男だった

彼女はそこから彼の為に必要な情報を集めるに集めた

しかしある日仕事の最中に背後から拳銃にて射殺...


(今思えば、懐かしい...)


彼女は行く当ても帰る場所も失った

いや、行く当てならばある

この天国にいるかもしれない坂本龍馬を探してみるのもいいかもしれない

天国で情報屋を始めたのも彼を探すためだったのかもしれない


(私の冒険は、まだ始まったばかりね)


須川は更に速度を上げた




その頃、三途の川ではゼストと百目鬼の戦闘が続いていた

本気を出した百目鬼に押されながらも凍結と影の能力で何とか実力差はカバーできていた


「ハァ、ハァ.....!」


「こいつはたまげたな、思った以上にやりおる!」


百目鬼にはまだまだ余裕が見られたがゼストはもう既にかなり脳に負担がかかっていた

ただでさえ強者を相手にしているのに防御のために凍結の能力を使い過ぎたせいで思っている以上に重労働を強いられていた

それでもゼストは止まることなく数珠丸常次を百目鬼に向かって振るう


しかし、今度は斬撃が百目鬼に届く前に何かに掻き消されてしまった


「なっ...!?」


「......冨嶽か?」


百目鬼は目の前に現れた存在の名を呟く


「フン、お前だけ中々骨のある奴と戦わせるわけにはいかんからのぅ」


「ということはお前さんの所は片付いたというところか」


「肩慣らしにもリハビリにもならんかて」


ポキポキと腕の関節を鳴らしながらため息を吐く


「小僧、今のが全力だったのなら儂の期待外れじゃて」


ゼストは直感的にこの二人はヤバイと悟った

百目鬼は実際に相手にして見て、冨嶽は相手にせずともその覇気と先程の発言から歴戦の戦士であることを感じさせられる

さっきの斬撃による一撃はゼストにとって全力の一撃だったからだ

冨嶽がゼストに向かって走り出した、ゼストは防御の態勢を取る


「遅い!」


気がつけば既に冨嶽が攻撃の段取りに入っていた

更に冨嶽はゼストの防御の間合いをすり抜けて懐にまで迫っていた


そのまま冨嶽はゼストの溝に一撃を加えた


「が、はっ.....!?」


声にならない痛みがゼストを襲う

体中の酸素は一気に体外に吐き出され衝撃と痛みだけをゼストの肉体に刻み込む


冨嶽の硬化のイメージによる脳波は隕石すらも素手で砕き、受け止めれるとも言われるほど強化することができるらしい

他に目立った特徴も種類もない一点に強化された脳波

バリエーションが少ない分純粋に一点的に強化された力はバリエーションの数にも匹敵する


「さて、次は儂の番じゃて。覚悟はいいかの、小僧」




三途の川に火柱が立ち上がる

火柱の中心にはヤマシロが鬼丸国綱を右手に握り、閻魔帳を携えて構えていた


「クソ親父め、いきなり息子に雷落とすか普通」


「そういうお前は実の親にいきなり斬りかかるのか?馬鹿息子が」


「あんたには色々文句があるんだよ。そのついで、だッ!!」


ヤマシロは火柱の炎を鬼丸国綱に纏わせて離れた位置から炎の斬撃を放つ

ゴクヤマはその斬撃を雷撃により弾き全身に雷を纏わせてヤマシロに拳を振るう

ヤマシロは防御の為に閻魔帳からゴクヤマを覆うほどの巨大な炎を放出させる


「やはりお前はその閻魔帳なしでは属性を司れんようだな。この出来損ないがァッ!」


しかしゴクヤマはそんなヤマシロの炎を気にせずに拳を放つ

雷に匹敵する速度と膨大な電圧で強化されたゴクヤマの拳一つで巨大なクレーターを作り出してしまうほど


「ガハッ.....!?」


「やはりあの時、お前の脳の一部をあ奴を助けるために移植させたのが間違いだったようだな。ここまで脳波の使い方に異常が現れるとは」


「どういう、こと、だ!?」


ヤマシロにはゴクヤマの言っている意味がわからなかった

幼い頃からヤマシロは脳波を操ることを苦手としていた

それはヒトなら誰でもあるそれぞれの得意不得意の分野に分類されるものだとヤマシロは思っていたのだがゴクヤマの言葉はあっさりとその常識を否定した


「そうか、お前には話してなかったな。良い機会だ」


ゴクヤマは天に腕を伸ばして振り下ろす

瞬間、ヤマシロの頭上から巨大な雷が落ちた


「う、ぎぃぃ!?」


「威力は小さいが麻痺性の雷だ、そう簡単には動けまい」


ゴクヤマは思い出すように語り始める

どうやらこの雷を落としたのは自分の話の途中に攻撃をされないための保険のようだ


「お前が生まれて間もない頃か、俺の妻が弟を連れて来たんだ。命が危ないと、脳を蝕んでいた瘴気が原因だった」


ゴクヤマは続ける


「俺は妻の弟を見殺しにできかった、妻も同意の上でお前の脳の一部をそいつに移植することになったんだ。閻魔の脳波には瘴気を浄化する作用があるらしいからな」


そう、そうすればゴクヤマの妻であるライラの弟の命を救うことができる

それは技術的には不可能なことではなかったため手術はすぐ様行われた

一刻を争ったからである


「まだ赤子だったお前たちは無事に生き延びた。だがそれが原因でお前は脳波を使うのに若干の障害が現れた、それを見るたびに毎度悔やむよ。俺の脳を使えば良かったと、だがそれは叶わぬことだった」


医師の話によればあの手術は生まれて間もない幼い子供だったからできたことである

もし仮にゴクヤマが同じ手術をするとしても年の離れた者同士ではなく年が密接した者同士でしかできない、つまりゴクヤマはどちらにしろ手術に介入することができなかったのだ


「だが結果としてライラも喜んでいた、本当にそこは良かったよ」


「親、父...」


「だが、もう一つとんでもない事態が起こった」


ゴクヤマは拳を握りしめた


「ライラの弟は閻魔にしか扱えない属性変換を扱うことに成功した、これは長い歴史を誇る天地の裁判所でも前代未聞の出来事だったのだ。当時の俺は慌てたよ、ライラの弟じゃなかったら即座に殺していたことだ」


「ッ!なんで...」


「俺たち閻魔以外にあの能力を使うことは許されない。あれは誇り高き閻魔の血筋の証なのだッ!」


ゴクヤマは激昂して雷を落とす

彼以上に閻魔の種族を誇りに思っている男はいないだろう

だが、ここでライラの弟について一人だけ心当たりのある人物がヤマシロの頭を過った


「許せぬッ!何故あんな死神風情が誇り高き閻魔の力を...!」


「親父」


「あン?」


「.....母さんは死神だったんだな、閻魔はどの種族と結ばれても生まれてくる種族は閻魔になるようにこの世界は成り立っているからな」


「それがどうした?ライラは確かに死神だったがあの死神部隊の野蛮な連中とは違うッ!」


「そうじゃねぇよ、何で俺があいつと幼い頃から過ごすことになってたのか、何であいつが属性変換を使えるのかも全部わかった。それを確かめたかっただけだ」


ヤマシロが口元に笑みを浮かべてゆっくりと鬼丸国綱を支えにしながら立ち上がる

そしてヤマシロの母親、ライラが自分の息子であるヤマシロの脳を使ってまでも救おうとした弟の名前を静かに呟く


「ゼスト、なんだろ?」


ヤマシロは確信に近い自信に溢れた瞳でゴクヤマを睨みつける


「そうなんだろ?」


ゴクヤマは表情を変えずに静かに頷いた



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