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閻魔大王だって休みたい  作者: Cr.M=かにかま
第5章 〜輪廻謳歌〜
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Seventieight Judge

神の国の入り口である巨門前...


「姉上、ただいま戻りました」


「どうやら予想通り、事態は良くない方向に進んでるみたいですぜ」


月夜命と素戔嗚尊が天国から戻り天照大御神とキリストに報告をする

天国の空港があった場所に出来た大穴にはいくつもの空間の歪が存在していた

本来ならば大きな歪が一つあるモノと思われていたが早くも歪が再生を始めていたのでいくつも歪があるように見えた、ここまで聞けば結果はいいモノと思ってしまうが実際は真逆である


「やはり現世からの力が影響を及ぼしています。空間の歪は私たちが急遽全て塞ぎましたが再発してまた同じような事態になることも考えなければなりません」


「わかりました。一先ずは瘴気による空の汚染は止まりました、神の国の周りにあった暗雲も全てが消え去った成果は大きいモノと捉えましょう」


「やっぱ姉貴の剣って恐ろしいよな、本当に現世の奴に使いこなせる使い手がいたとは思えないんだが」


草薙の剣、遥か昔に炎光神である天照大御神が素戔嗚尊の倒した八岐大蛇の鱗をベースにして造られ神の加護と力を込めることで人々を厄災から守ったとされる伝説の剣

神の加護が宿っているだけで戦闘用にも信仰用にも使うのはその人それぞれの自由であり、どのような用途で使ったとしても決して悪い方向にはたらくとは思えない三種の神器の一つ、それを当時のある人物は戦闘に用いて天下無双の如くの力を手に入れたとも言われている


その草薙の剣の数少ない欠点と閻魔の波長に合わせて創られたのが草薙の剣弍道である


「私の剣は使い手の願いに強く共鳴するようにまじないを掛けてあります、その力が初代と弍道の大きな違いでしょう」


「まじない、とやらでそこまで大きく変わるものなのか?」


興味を持って尋ねてきたのはキリストだった

いくら全知全能のゼウス様と言われていても近代的な技術や未知の知識は彼にとっても山ほどある


「まじないとは一種の呪いみたいなモノですよ、強いイメージがその人を強くも弱くもする。古来より大和の国では盛んに用いられていた呪術的技法の一種なんですよ」


天照大御神は目を閉じて祈るように歩き始める

そして目を開き、哀しそうな瞳で眼下を眺めながらポツリと呟く


「黄泉帰りの法、現世でこれほど絶大で大きな力を持つまじないは他にないでしょうね」




その頃、ゼストから現世に行く誘いを受けているヤマシロは疑問しか生まれていなかった


「どういうことだ、来世から現世に行く力を持っているのは死神だけのはずだ。俺が現世に行くことはできないだろ」


「力、があるだけだ。根本的な所を見直すと死神の補助があれば本来は誰でも来世から現世に行くことは可能なんだ」


ゼストの言ったことに理解が追いつかなかった

ヤマシロの中の常識が音を立てて崩れていくようだった、そんな話聞いたこともなかったため余計に現実離れしているように思えてしまう


「たしかに伝承なんかじゃそんな風に伝わってるけど、それは来世と現世のバランスを保つために初代閻魔大王と死神部隊初代総隊長が話し合いの中で取り決めたことなんだ。死者を連れて現世に行った死神も当時はいたみたいだからな」


ヤマシロは次々と出てくるゼストの言葉に一々驚き頭の整理が追いつかず今までの常識全てを疑いたくなった

いや、それ以前にそんなことを知っているゼストに恐怖心を抱いているのかもしれない


幼い頃兄弟のように育った仲なだけあって自分の知らない彼の一面を知ってしまうことはとても恐ろしく感じた

対するゼストはそんなヤマシロの葛藤を知らずに淡々と言葉を繋げていく、いつものように馬鹿な話で盛り上がるのと全く同じ調子で


「そういうわけだ、兄弟。信じられないのは山々かもしれないけど俺は一度だけ試して成功したことがある、今の話が本当だって言える根拠の一つが俺の経験だ。時間もない、急ごう」


ゼストは一人で話を終わらせて歩き始めた

しかし、ヤマシロがついてきていないことに気が付くと足を止めて振り返る


「どうした兄弟、早く行こうぜ」


ヤマシロの視界の向こうでゼストが手招きしていた

その姿はまるで未知の世界へと誘う案内人にも見えた


「ゼスト、聞きたいことがある」


ヤマシロはやっとのことで言葉を絞り出し、ゼストの瞳を真っ直ぐ見据えて質問する


「お前、何か隠してるんじゃないか?」


「.....どういうことだ?」


雰囲気が変わった、声の調子も普段のゼストのモノと思えないほど冷酷で冷めたモノとなった

ミァスマに体を支配されていた頃のゼストと同じ殺伐とした雰囲気だった


「お前の言っていることは正しいのかもしれない、真実なのかもしれない。だけど何で俺まで現世に行く必要があるんだ?何でお前だけじゃダメなんだ?」


そう、ヤマシロが最も気になっていた点はそこだった

たとえゼストがヤマシロを現世に連れて行く力があったとしてもその目的と用途がわからない

現世に行くだけならばゼストだけで可能だし、現世慣れしたゼストにとって現世を知らないヤマシロは荷物になるだけである


それでもゼストがヤマシロを現世に連れて行く何かがないとここまで執着はしないはずである


「.....理由なんてねェよ、兄弟がいる方が心強いからだ」


「そうか、じゃあそれでいい」


ヤマシロはあっさりと納得した

ゼストもヤマシロの反応が予想外だったようで目を大きく見開く


「いいのかよ」


「お前のことだ、実際何も考えてないんだろ?理由があったら聞きたかっただけだよ」


「そうか、じゃあ行くか」


おう、とヤマシロは応える

何だかんだで長い時間を過ごした二人はある程度のことは言わずとも意思疎通が可能となっていたようだ

仮に何かあったとしても絶対に裏切らない、お互いにそう信じあっている友情があるからこそ実現したことでもあったのだ


ヤマシロはゼストに導かれるまま三途の川の何処かへと向かって行った




(.....悪いな兄弟、俺はお前に隠し事をしている)


その隠し事はヤマシロにとって許し難いことであり、二人の仲の存続にも関わってしまうことだった


ミァスマに支配されていた頃の記憶は残っている

だからこそ公言できるモノでなく、自分自身の手で行ったことではないから余計に知られるのが恐ろしかったのだ


そして、ミァスマに支配される以前のある日には自分自身にとって最も許し難い大きな罪を背負っているのだ


(.....このことが終わったら全てを話そう、たとえ兄弟との仲がこじれようとも)


そう、ヤマシロがある日話してくれた天国の知り合いの話を思い出したのだ

あの時からいつか腹を括って話さなければならない時がいずれ来ることはわかっていた


瓶山一と瓶山夏紀、この親子を殺したのはゼスト自身だということを




地獄では現在も亡者の捜索が行われていた

既に三百人近くの亡者を麒麟亭への避難は完了しており、裁判所の周りはほとんど避難が終わったとも言える状態である


千里眼の笹雅で捜索隊を組み、力仕事が苦手な東雲を中心に亡者の治療に専念していた

途中合流した亜逗子は治療に、麻稚は捜索にそれぞれ合流している

間宮は今も目を覚ます様子はなかった


「.....で、あんたはそんなことがあったから間宮とつゐでに亜逗子ちゃんと顔を合わせづらゐから俺の所まで来たと?」


「文句あるの?」


「ゐゐや、別になゐけど」


麒麟亭の屋根部分で煉獄京と月見里査逆は他愛のない会話をしていた

煉獄は元々緊急時何かあった時の待機部隊の隊長として行く末を見守っていた所に査逆が合流したのだ

煉獄の統率能力と指示能力によって素晴らしいほど物事は上手く行っている状態である


「まぁ、ウチとしては特にすることがないだけなんどね」


「しっかりしてくれよ、今ここにゐる中で一番強ゐのあんたなんだから」


「それは戦闘能力のみよ、メンタルは豆腐で乙女な査逆ちゃんよ☆」


「ハッ.....」


「鼻で笑われた!?」


乙女で豆腐メンタルな査逆ちゃん(自称)は煉獄の反応に早くも崩れ落ちる

どうやら豆腐メンタルというところだけは事実のようだ


「ねェ、ふと思い出したんだけどあんたって希沙邏さんの息子なんだよね、マジで」


「査逆さんって俺の母親知ってんのかよ、初耳だぜ」


「ウチも初めは気がつかなかったし思い出せなかったからね、昔結構お世話になったんだよ」


「.....あんたと俺って大して年齢変わんなかったよな?」


「二十年も生きてる年数が違ったらマジで結構変わるモンなのよ」


地獄ではやはり黒い雷が降り注ぎ、溶岩が地面から溢れ出ていた

溶岩がある程度固まっても降ってきた雷の電熱で再び熱を持って流れてしまうため溶岩の処理は現在後回しにされている


「そうゐや査逆さん、何かさっきから妙に喧嘩売られてる感じしねゑか?」


「多分気のせいじゃないよ、さっきからマジでウチらに殺気バンバンぶつけられてるよ」


査逆は鎖を、煉獄はトンファーを構えて敵に備える


直後、視界という世界が反転し激痛と破壊音が二人を襲った、あまりにも一瞬の出来事で反応することすらできなかった


「がっ....はっ....!?」


「うぅ...ぎ!?」


即座に二人は立ち上がり攻撃を受けた方向に目を向けるがそこには誰もいなかった


「こっちだ馬鹿」


背後から声が聞こえた

査逆と煉獄は言葉とともに乗せられた殺気を感じ取ると一気に距離を取る

そして、襲撃者の顔を見る


「.......やっぱ眠いわ、さっさと終わらせよう」


襲撃者は欠伸混じりに呟く


査逆はその顔を見た瞬間、嫌な汗がブワッと全身から流れたのを実感していた


「それにしても久しぶりだな。元気だったか、ガンマ」


襲撃者はニヤリと笑みを浮かべた


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