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閻魔大王だって休みたい  作者: Cr.M=かにかま
第5章 〜輪廻謳歌〜
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Seventiesixth Judge

ヤマシロと枡崎は天地の裁判所と麒麟亭を繋ぐ渡り廊下の入り口で立ち止まっていた

何故なら渡り廊下が地獄から噴き出た溶岩によって破壊され壁が出来てしまったせいで通れなくなってしまったからだ

無理矢理こじ開けようとすれば裁判所に溶岩が流れ込み大惨事になる可能性もある


「クソ、麒麟亭に行けば暇に暇を持て余してる連中がいると思ってたのに!」


「閻魔様、そう思ってるなら仕事させてあげてくださいよ」


「一応仕事の配分は亜逗子と麻稚に全部任せてる。一人一人の仕事の配分まで見てられるほど暇ではないんでね」


(麒麟亭にいる八割が亜逗子様の部下だというのが今ハッキリとわかりました)


道理で同じ職場で会うことが多いわけだ、と枡崎は一人で納得する

最も彼女がそのような面倒事を放置する以外考えることはできないが

もういっそのこと隊を一括して麻稚に雑務を、亜逗子に統率を担当させればいいのでは?と思ったがこの状況で言っても何一つ改善することはなさそうなので何も言わずにぐっと我慢する

今はどのようにしてこの事態を乗り越えるかの方が重要である


「閻魔様!」


ヤマシロが鬼丸国綱を握り締め、溶岩を真っ二つに切り裂こうと考えていた所に三途の川に向かった麻稚が息を切らしながら走ってきた


「麻稚」


「大変です、三途の川では空間が歪み現世との境界が曖昧になってしまっています!」


「それヤバイじゃん!?」


想像を超える事態に思わず枡崎は普段の話し方を捨ててしまうほどの勢いで驚く

ヤマシロは至って冷静に顎に手を乗せる、そして麻稚に質問を投げる


「現段階で三途の川に影響は出てるか?」


「いえ、空間が歪んでるだけですが...」


「ならいい。ゼストの奴に聞けば何とかなるだろうからな、そういやゼストはまだ来ないのか?」


とんでもない事態を軽く受け流してしまったヤマシロに戦慄を覚える麻稚と枡崎、やはり閻魔大王という役職に恥じぬくらいの器であった

ヤマシロは閻魔帳を取り出して過去の記録を漁ってみる

閻魔大王しか入ることの許されていない特別な資料室で見た情報では空間の歪みで出来てしまった残骸は脳波で処理することが可能らしい

ヤマシロも実際見ていないから何とも言えないが現世をも巻き込みかねない事態に発展していることはたしかだった


「麻稚、至急この場に亜逗子を呼んでくれ。あいつもこの事態に気がついて多分何かしていると思うから一旦合流して状況を聞く必要がある」


「わかりました」


ヤマシロの指示で麻稚が脳波を展開しようと集中力を高めた瞬間、


「その必要はねェ!」


「待たせたな兄弟!」


亜逗子とゼストの二人が並走してこちらにやって来た

どうやら二人は途中で合流したらしい

二人ともやはりこの事態に気がついており早期解決のために特に何もしていないとのことだ

ゼストはヤマシロを探すため天地の裁判所をひたすら走り回り、亜逗子はベンガディラン図書館で査逆と一悶着あり情報収集すらできていない始末である


「お前ら、給料なしか裁判所全体の清掃のどちらか選べ。クビは勘弁してやるから」


『本当に申し訳ありませんでした』


とりあえず二人の頭にタンコブを一つずつ作り土下座させたヤマシロは一人ずつに丁寧に指示を出していく


「亜逗子と麻稚は地獄にいる煉獄達と合流して煉獄を手伝ってやってくれ」


『了解!』


亜逗子と麻稚は指示を聞くなりすぐさま飛び去って行ってしまった

性格や趣味に一癖あっても今がどんな状況で閻魔大王補佐官の名に恥じぬ迅速な対応と反応である

やはりあの二人は他の鬼たちとはどこか違った


「枡崎は呪殺のことをもっと専門的に調べてくれ。俺は一応脳話をいつでも受け入れられる状態にしておくから何かあったら連絡を寄越してくれ」


「わかりました、閻魔様もお気をつけて」


枡崎はベンガディラン図書館の方向に走って行った

体力に自信のない彼が走るのは結構貴重なコトである


「で兄弟、俺はどうするよ?」


「俺と一緒に三途の川に来てくれ。お前の知識と能力が必要になるかもしれない」


「オーケー」


ヤマシロとゼストも三途の川を目指して走り始めた

事態は決して良い方向に進んでいるようには思えないが一度裁判所の主力が集結し、それぞれが成すべき道へと閻魔大王であるヤマシロが導いたことは悪い方向に進んだとはとても考えずらい

大きな組織というモノは上層部が上手く動くことで下が自然に動くシステムとなっているようだ

ヤマシロも無意識の内にそのことを理解しているのかもしれない

たとえそれが間違い一つで悪い方向へと一気に進展してしまうとしても


「ゼスト、ちょっとペース上げるぞ」


「応よ!」


三途の川へと近づくにつれ不穏な気配を感じ取ったヤマシロは浮遊術で一気に加速し、ゼストも潜影術で必死について行く


二人が三途の川に到着して見た景色は想像を絶するモノだった

やはり麻稚が往復している間に事態は急速に進行していたようだ

川は荒れ大渦がいくつも発生し、渦の中心では空間が歪んでしまい地獄の様子が丸見えの状態である


更に空には現世の空が迫ってきていた


「どうなってんだ、こりゃ!?」


「マズイぞ!このままじゃ現世もこっちも跡形もなく消滅してしまう!」




一方、天国では餓鬼の不意打ちがヤマクロを狙い大剣を振り回した瞬間、


(.....あれ、痛みがこない?)


【どういうこと!?】


何かが飛び散る音と共に背後の餓鬼は力を失って倒れた

どうやら音の正体は餓鬼の頭が破裂する音だったようだ

大剣は分裂し複数の餓鬼へと姿を変えて臨戦態勢を取っている


「大丈夫ですか、五代目の弟殿」


ヤマクロの隣には黒髪の青年が立っていた

少し離れた所には隣に立っている青年と瓜二つの青年がもう一人いた

どうやら餓鬼を仕留めたのは離れたところにいる方のようだ


「あ、はい、大丈夫です」


「兄貴、俺たちが態々来る必要があったのか?いくら姉貴の意思とはいえ疑問しか残らないぜ」


「そう言わずに、姉上は事情によりこちらに来ることが出来ないのです。それに彼は閻魔とはいえ対処法と現状を理解していないようですので説明から入りましょう」


めんどくせーな、と頭をボリボリとかきながら欠伸をしてこちらに青年が歩いてくる


「あの、あなた方は...」


「申し遅れました、私は月読命と申します。それであちらの私に似ていますが馬鹿っぽくて礼儀を知らない馬鹿は弟の素戔嗚尊と言います」


「馬鹿は余計だ、馬鹿は」


月夜命と素戔嗚尊は表情を変えることなく簡単に自己紹介を済ませる

流石のヤマクロでもこの二人の名前には聞き覚えというか知っていた

大和の国の有名な神でそれぞれが高名で現世での信仰も厚い神々である


【これは中々見られない大物がやって来たね、ある意味凄いよ】


ヤマクロの中で心の闇がポツリと漏らす

ちなみに心の闇の声はヤマクロにしか聞こえない


「あの、貴方達は今天国で何が起こっているかご存知なのでしょうか?」


「はい、それをお伝えするためにやって来たのですから...」


そこから長い長い月夜命による説明が始まった

月夜命が説明している間、素戔嗚尊が餓鬼をひたすら潰していた

素戔嗚尊は破壊の神とも知られている素戔嗚尊の力は凄まじく、それでいて無駄な力は出さずに的確に一体ずつ頭を狙って倒していく


「まぁ、こんな所です」


「.....そんなモノが本当に現世にあるのですか?」


「えぇ、大昔に死者を信仰する者たちによって編み出されたモノらしいです。ですがこれが明るみに出てしまうと現世と来世のバランスが狂ってしまう、だから当時死神に完全破棄を依頼したのですが...」


「まだ、残っていた」


「悔しいですがそういうことです」


ヤマクロは握った手から汗が止まらなくなっていた

もう天国だけの問題ではなくなってしまったことを知りスケールの大きさを実感した恐怖か、今自分がその中心に立っているという実感が湧いて来たのかはわからない


「それでは、最後にこちらを貴方に」


そう言って月夜命が差し出して来たのは一本の美しい刀だった


「草薙の剣弍道でございます。我々の姉上である炎光神天照大御神が閻魔様の一族の為に創造なされた神器です」


「草薙の、剣」


「現在も大和の国に伝わる草薙の剣は既に力も失い役目も果たして錆び付いておりますが、姉上が新たに創造されたこちらよ弍道は貴方様に授けるよう言われました」


本来ならヤマシロに渡るはずだったのだがこの緊急事態で天国にはヤマクロしかいない

弟殿でも構わない、彼らの力になれるのであれば!というのが天照大御神の本意である


「どうぞ、お受け取りください」


ヤマクロは本当に受け取っていいのか戸惑っていた

凄まじい力に圧倒されているのと自分が本当に会ったことのない人物の期待に応えていいのかという思いが葛藤していたのだ


【ありがたくもらおうよ】


(でも...)


【ここで受け取らないと、その神様にも失礼だよ。素直にその期待は受け取るべきだとボクは思うよ】


心の闇、いやもう一人のヤマクロが助言をくれる

この天国に来て彼にも世話になっている、この件が終わったあたりにでも呼び名を考えるのもいいかもしれない


そしてヤマクロは差し出された草薙の剣弍道を受け取る


「ありがたく、使わせていただきます」


刀を握った瞬間、ヤマクロは自身の中を流れる力の渦が急激に高ぶって高揚しているのを感じた

そして、刀を鞘から引き抜く

鞘は持っていると邪魔になってしまうので腰の帯に一旦差す


「ボクが終わらせる」


ヤマクロの瞳の色が薄い紅色に変わる

脳波の質も変わり力を抑えきれないのを感じていた


「ボクが闇を打ち払う、ボクは五代目閻魔大王、ヤマシロの弟だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ヤマクロが餓鬼に向かって草薙の剣弍道を振るう

太陽の光の輝きの如く残像が餓鬼の首を斬り裂き天国にいる全ての餓鬼に光が飛び散った


(ねぇ、ボク達はもっと早くに分かり合えなかったのかな)


ヤマクロは視線を空港の下から溢れ出している黒い柱に向ける


【どうだろうね、でももっと早くに分かり合えたとしても今のボク達は存在しなかっただろうね】


ヤマクロは浮遊術で今でも湧き出ている黒い柱に接近する


(そうだね、ボクはもう過去を否定したりはしない。もう自分から絶対に逃げたりはしない!)


そして草薙の剣弍道を上段に構える


【.....強くなったね、長い間縛り付けて本当にごめんね】


(いいよ、君とこうして分かり合えたんだから、いくよ)


【(ヤマクロ!)】


黒い柱に光輝く閃光の炎が注がれる

黒い柱は真っ二つになり、中心には光の柱が空まで伸びていた


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