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閻魔大王だって休みたい  作者: Cr.M=かにかま
第5章 〜輪廻謳歌〜
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Seventiefourth Judge

暗雲が空に立ち込め不穏な雰囲気を演出し、かつての平和で幸せな天国の姿は現在溢れ出した瘴気から続々と這い出て来ている餓鬼達によって崩されていっていた

いくらヤマクロが天才的戦闘センスを持ち閻魔の血筋を引いているとはいえ数が多くては対処の仕様がない

それに餓鬼は首を刎ねない限り無限に再生を続ける生物である

ヤマクロは餓鬼の対処法を知らないためひたすら格闘や炎で薙ぎ倒していっているがどれも気絶させる程度の力加減であり殺すに至るまでの力が発揮できていない


「ハァ、ハァ、くそッ!」


ヤマクロは炎を餓鬼目掛けて放出するがメラメラと燃える業火の中も餓鬼は再生と燃焼を繰り返しながらゆっくりと歩いてくる


(ダメだ、数が多すぎる!一体何なんだこいつらは、何か、何か弱点でもあれば...)


【困ってるみたいだね】


「....?」


ヤマクロは突如頭に響いた声に疑問を覚える

初めは脳波による脳話なのかと思ったがどうもそんな感じはしない

何だかもっと近くで身近な場所から、それこそ隣に誰か居るような不思議な感覚だった


【ボクだよボク。まさか忘れちゃったの?酷いな〜】


「だ、誰だ!?」


【.....本当に忘れられちゃったんだね。もう悲しさを通り越して虚しさしか感じないよ。この間までボクがキミだったのにさ】


謎の声はかなり饒舌でそれが逆にヤマクロにとっては不気味に感じ取れた

だが全く知らない声ではない

そう、まるで自分の声を機械に通してその声を改めて自分で聞いているような


「ま、さか」


【ボクはキミ自身の闇だよ】


そう、かつてヤマクロが自ら被った仮面の自分の声だった

ヤマクロはあの時自らの闇を克服して仮面を剥がすことに成功したが仮面が消滅したわけではない

つまり、心の闇は今もヤマクロの中で生き続けていたのだ

心の闇は続ける


【ボクと一旦代わるんだ、そしたらこんな奴ら一掃してやるよォ】


心の闇は不気味にニヤリと笑った




一方、ヤマクロの後方部分にまで行進して行った餓鬼達、そして避難に専念した五右衛門達...


「つぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


織田信長、武田信玄の二人の戦国武将が餓鬼達と壮絶な戦いが行われていた

信長はそこら辺にあった鉄パイプを適当に拾って、信玄は武器など不要と自信満々に素手で応戦していた

しかも互角以上の戦いを繰り広げている


「流石じゃの甲斐の虎よ。腕は当時のまま衰えておらんようじゃ」


「お前もな、尾張の大うつけ!若さの勢いとビギナーズラックで数多くの国を落としただけのことはあるようだな!」


「おいおい、ビギナーズラックは余計じゃ。儂に実力があり過ぎただけじゃよ」


「どんだけ自分を過大評価してんだよ!」


「どうでもいいからさっさと戦ってくれ!」


『戦ってもないシャバゾウが大きな口叩くな!』


「はい!すみませんでしたー!」


ギャーギャーワーワーと信長と信玄は言い争いつつ、五右衛門は二人の仲裁に入りつつ一般人の避難に全力を注いでいた

五右衛門と瓶山に戦闘能力はないため一般人を安全な所に誘導するということしかできないが今この場においては非常に重要なポジションでもあった


「夏紀、本当に大丈夫か?さっきから顔色悪いぞ」


「うん、大丈夫...」


瓶山は夏紀の側で待機していた

餓鬼が現れてから夏紀の体調が崩れたように熱が上がってきたからである

それも長い時間三途の川で餓鬼に積み石の妨害を受けたトラウマが蘇ったのかもしれない

本来三途の川にいるはずの餓鬼が何故こんなところに現れたか夏紀にも理解が追いつかない


「ヤマクロ君だって戦ってるんだ、私も負けてられない...ッ!」


「無理するな、ここは閻魔様の弟に何とかしてもらうしかない。俺たちみたいな一般人が出しゃばったトコで悔しいが犠牲が増えるだけだ」


瓶山は悔しそうに暴れまわっている戦国武将と小さな体で応戦しているヤマクロの方に目を向ける

こんな状況に一般人が乱闘に紛れ込んでもどうにかなるならない以前の問題である


「瓶ちゃん、この辺りも危険だ。夏紀ちゃんを連れて遠くに」


「五右衛門、でもお前は」


「俺はある程度危険な道をくぐって来たから大丈夫だ、いいから夏紀ちゃんを安全な所へ」


「すまねぇ!」


瓶山は夏紀を連れてどこか遠くへと走り出した

五右衛門は瓶山親子を見送った後、木片を拾って餓鬼に投げつける

直接的な戦闘能力はない五右衛門だったが投擲には人一倍の自信があった


「ヤマクロ、君は一人じゃない!俺たちがいる!だからこっちの心配はせずに目の前の状況を何とかすらはんだ!」


五右衛門はヤマクロに力の限り叫んだ

その叫びが果たしてヤマクロに届いたか届いていないかは誰にもわからなかった




一方、居酒屋「黄泉送り」の二階に健在する須川時雨の住居前に居酒屋の主人である相谷宗吾が訪れていた


「おい、須川!いるのか!?」


「.................何?」


.....今起きて絶賛不機嫌です、的な声が一つ返ってきた

どうやら須川は今の今まで寝ていたようで相谷が扉を叩く音で目を覚ましたようだ

ここで相谷は怯むわけにもいかず、


「今外で何が起こってるんだ!?俺にはさっぱりだ、教えてくれ!」


相谷はずっと店番をしていたため外の状況が理解できていなかった

ゴミを外に出しに行ったら空が異常に暗くて何やら空港の方向から黒い火柱が立っていたとこまで知っているのだが詳しくは知らない

ラジオも機能しておらず情報が入ってこないのだ

天国の一住民としては知りたいところである


「外?何か騒がしいみたいだけど、祭りでもやってるの?」


「いや、いくら何でも祭りにしては力が入り過ぎやしないか?」


どうやら須川は本当に今の今まで爆睡していたらしい

天国一の情報屋がこんな売れそうで皆が知りだそうな情報を知らないはずがない

彼女がどこからどのように情報を仕入れるかは不明だが大抵の情報が正確で役に立つモノばかりである

ここまで言えば彼女も外に出て話を聞いてくれるだろうと相谷は期待したのだが、


「ごめん、眠いからまた今度...」


......期待は大きく裏切られた

どうやら彼女にとってどうでもいい知る必要のない情報とインプットされてしまったようだ


「........今月の家賃は諦めるか」


どちらかと言うとこっちが相谷の本音だったりもした


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