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閻魔大王だって休みたい  作者: Cr.M=かにかま
第5章 〜輪廻謳歌〜
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Seventiethird Judge

間宮樺太、笹雅光清、東雲胡桃

三人の幼い鬼達はそれぞれが数奇で悲しい過去を背負いながら懸命に生きてきた

ある日をきっかけに彼らが出会い、三人で生きていくことを誓った


しかし幼い子供が地獄を生き抜くことはいくら鬼とはいえ困難なことだった

村を出て大人たちは信用せずに自分たちで生きていくことがどれほど困難なことかを幼い頃から知ってしまったのだ

本来ならそんな現実を知らずに穏やかに暮らせていける年頃なのに

それでも三人は必死に生き延びた

支え合い、喜び合い、悲しみ合い、励まし合い、笑い合いながら死に物狂いで生き続けた


しかしある日を境に三人で生きていくのに限界を感じ始めていた


そんな時にある男が彼らに救いの手を差し伸べたのだった...




ベンガディラン図書館...


「月見里査逆、俺は絶対にあんたを許しはしない」


「.....!」


間宮は感情のない無機質な冷たい目で査逆を睨み付ける

その瞳の奥には復讐に燃え上がる灯火がメラメラと映し出されていた


「ウチも、マジ舐められたモノだね。毒付きナイフごときで、殺せるとでも?」


「勿論思っちゃいないさ」


間宮は懐から拳銃を取り出して銃口を査逆に向ける


「なるほどね、ウチに相当な恨みがあるみたいだね。その為に煉獄君に憧れたとかそういうのを口実にウチに近づいたのかい?」


「.....煉獄さんに憧れを持っていたのは事実だ」


間宮は顔を俯かせてゆっくりと声を絞り出す

拳銃を持っている手はぷるぷると震えていた


「あの人は強くて格好良くて、俺たちに生きる希望と力を与えてくれた。どんな状況でも挫けないでどんな理不尽にも耐えて、それでいて俺たちと同じように、いや俺たち以上の苦しみを背負っていても前へと生きていくその逞しい姿に憧れたんだよッ!」


間宮は言いたいことを言うと拳銃の引き金を引く

弾は軌道を変えることなく真っ直ぐ査逆に向かって飛び出した

しかし弾丸は査逆に当たることなく虚空を撃ち抜いた


「なっ...」


「ホン、トこんなんで殺せると思ってるなんて、ウチもマジ舐められたモンだよォ!」


弾丸を躱した査逆は間宮に急接近して間宮の腹部目掛けて膝蹴りを放つ

ミシミシメキメキと間宮の体から聞こえてはいけない悲鳴が響く

衝撃を吸収しきれなかった間宮の体は勢いに従い後部に吹き飛ぶ


「な、なぜその傷で動け、る!?」


「あんたが話してる間に回復させてもらった、あんだけ長いことタラタラと話してるんでマジで暇だったんだよ」


そう間宮が一方的なマシンガントークをしている間に脳波を使って傷を塞いでいたのだ

わざと間宮を挑発して話させてその時間を使って回復するという戦法を取っていたのだ

査逆の実力ならば傷があっても動ける自信はあったがナイフに付着した神経麻痺性の毒も解毒する必要があったのでついでに傷を塞いだのだ


「それよりあんた...」


査逆はゆっくりと間宮に接近する

間宮は恐怖のあまりにガタガタと体を震わせていた


「さっきから黙って聞いてあげてたけどマジ自己中なこと言ってんじゃない。苦しみを背負ってる姿に憧れた?ウチを許しはしない?誰だって苦しみやコンプレックスの一つや二つは抱いてるモンだし、後者に至っては見に覚えがないね。ウチは別にあんたに恨まれるようなことはした覚えはないッ!」


査逆は拳を握りしめて容赦無く間宮の顔面を殴り飛ばす

図書館の本棚を貫通して壁にめり込み間宮は本当に声にならないほどの小声で


(.....天狼さん)


と呟き、意識を手放した




間宮達が盃天狼と出会ったのは今から百年前くらいの話

東雲が瀕死の状態のところを彼に救われたのだ

以来、三人は天狼に世話になることになった

天地の裁判所で働いているにも関わらず麒麟亭に住まずに自分だけの住居を持っていた当時の天狼にとって幼い子供を三人迎えた程度で部屋が狭くなることはなかった


ある日を境に彼は天地の裁判所に辞表を提出した

今から五年前くらい、随分と最近のことだと覚えている

それからは三人が近い将来、天地の裁判所で働けるほどの一般常識や戦闘方法なんかも教わった

そして三年後、間宮樺太と笹雅光清は地獄の管轄部隊に、東雲胡桃は雑務をメインとした職に就職した

そして天狼もどこかへと稼ぎとか言って行ってしまった


そして更に二年の歳月が流れ現在に至る

天狼は再び天地の裁判所の職員として迎えられ麒麟亭に移住した

間宮達も定期的に顔を合わせに行った

そして地獄で膨大な瘴気が観測された時、天狼が戻ってくることはなかった


間宮はその時ある一人の人物に憎悪を抱いた、それが月見里査逆である

彼女が出発する前に間宮は対面しており、必ず天狼と戻って来てと約束をした

しかしその約束は果たされなかった


盃天狼を殺したのは月見里査逆だ...


間宮はいつしか査逆に殺意を覚えるようになっていたのだ

そして宴会の時に煉獄と知り合った

彼の話を聞いていると何だか勇気を貰えた気がした

そして三人は煉獄の下に就いた

その時、彼の上司が査逆だとは思いもせずに...




「.....そんなことが」


間宮が気絶した後、地獄へ向かった筈の笹雅が戻って来て間宮の心中を査逆に話していた

間宮は長い時間を過ごした人物には自身の思考や考えを反映させるという不思議な力があるのだ

これは彼が寂しさのあまりに自然に身についた脳波による思考伝達の応用だと調べてみてわかったが本人は知らない


「えぇ、俺っち自身はあんたに恨みも殺意もない。天狼さんはあんたが殺したんじゃなくて地獄を救う為に死んだんッスよね?俺っちはそう聞いたので...」


笹雅は申し訳なさそうな顔で査逆を見つめる


「いいよ、ウチもあいつを救えなかったことにはひどく反省してる。あの時ウチがあいつの説得に成功していたら、こんなことには...」


査逆は悔しそうに拳を握りしめる

笹雅は査逆と天狼がどんな関係だったのかは知らないがここまで感情を表に出せるほどの仲なんだと独自で解釈した

笹雅は間宮に近づくと彼を背負う


「査逆さん、樺太はあんたを呼びに来たんだ。閻魔様の指示で地獄の亡者の避難に協力してほしいッス」


笹雅は瞬時に切り替える

そう、今ここでしなければならないのは図書館の後片付けでもなく間宮の今後の処置について討論をすることでもない

地獄で起こっている異変を解決することである


「.....そうだね、今は目の前のことに集中...?」


「査逆さん?」


「笹雅君、閻魔様はたしかに亡者の避難を指示したの?」


「えぇ、間違いないッス!俺っちはたしかに閻魔様本人から聞いたッスから」


査逆は悩むようにして何処か納得のいかない表情を浮かべる


「たしかに亡者の避難は大切よ、亡者を死なせてしまったら輪廻転生の輪が大変なことになってバランスが崩れちゃうから。でもそれだったら一体誰がこの事件の本質の解決をしようとしているの?」


「閻魔様じゃないッスか?」


「でも、さっきまでいた亜逗子の元に入ってきた通信では現世でも影響が出てるみたいよ。いくら閻魔ともいえど現世に行くのは不可能よ、マジで」


笹雅も査逆の意見に同意した

査逆の言ったことは全て筋が通っていて納得しかできないからだ


「まさか、また閻魔様無茶するんじゃないの?」


「俺っちに聞かれても」


「笹雅君、貴方は間宮君連れて地獄で作業続行して!」


「え、ちょ、査逆さん!?」


査逆はベンガディラン図書館を飛び出すとヤマシロの元へと急いだ


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