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閻魔大王だって休みたい  作者: Cr.M=かにかま
第5章 〜輪廻謳歌〜
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Seventiefirst Judge

天国よりも遥か上層部に位置し、強力な結界によりあらゆるモノの侵入を拒む特殊な世界、古今東西伝説上のあらゆる神々が暮らす神の国とも呼ばれる世界でも天国の結界が破壊されてしまったように影響は発生していた

その異変にいち早く気がついたのはイエス・キリストと天照大御神の二人だった


「キリスト殿、これはもしや...!」


「うむ、まさか今も現世で使い方を知る者が居るとはな。もう既に何百年も前に伝記など文献は全て死神達に回収させたはずだが...」


「迂闊でしたね。伝記や文献に残ることはなくとも脈々と後世に伝えられていたなんて」


天照大御神は普段の落ち着きのあるようでないような雰囲気とは違い太陽の化身に相応しい雰囲気と威圧を兼ね備えていた

キリストもまた緊迫した真剣な表情で天国の方向を見据えていた

天国の方向から黒い柱のようなモノが飛び出してきてから神の国の周りの白い雲は天国を中心として徐々に黒みを帯びた紫色に染まってきていた

神の国の結界は天国よりも強力なモノでちょっとやそっとのことでは破壊されないので心配なかったが、今二人が危惧しているのはもっと別のことであった


「姉上、天国はどうやら閻魔殿の弟殿がいるらしいです」


「彼の、弟が?」


「見た目チビで臆病そうなガキだけどアレは中々肝が座ってるね。一度近くで見てきたけど兄貴よりも度胸あるんじゃないの?」


「そんなことに興味はないな」


二人の青年が会話に途中参加する

月読命(つくよみ)素戔嗚尊(すさのお)は天照大御神の双子の弟で髪型と服装と性格以外は基本的に瓜二つである

兄である月読命は丁寧な性格で月を神格化した伝承もあり、藍色と黄土色を中心とした月を象る和服を身につけている

弟で末っ子の素戔嗚尊は荒々しいがどこかクールな性格をしており破壊神とも呼ばれており、紫と黒を基調とした和服を着崩している

共通しているところと言えば髪色に性別、二人とも滅多なことがない限り笑わないところと姉の天照大御神に毎度手を焼いているというところぐらいであろう


「天照よ、ヤマシロの弟君という者は信用できると思うか?」


「わかりません、会ったことも見たことも聞いたこともありませんので。ですが、あのヤマシロさんの弟ですので疑う要素の方が少ないのでは?」


天照大御神はキリストの質問に滑らかに応える

キリストは一瞬呆気に取られ、キョトンとした顔をするがすぐに表情を元に戻す


「そうだな、友の弟だ。疑うなど友に失礼な行為だったな」


「えぇ、それに彼の血もしっかりと引いているのです。何だかんだで何とかなりゅッ彼のし、子孫なんでしゅかりゃ.....」


.......................................................................................。


四人の間に気まずく何とも言えない沈黙が空気を支配する

最初に口を開いたのは素戔嗚尊だった


「姉貴、なんでいっつも大切なとこで残念なの?狙ってるの?」


「そ、そんなこと言われたって...!」


「一先ずその両目に溜めた涙を流すか吹くかどちらかにしてください。情けないですよ」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁん!!」


流すことを選びました




「五右衛門さん、できるだけ皆を遠くまで連れて行ってください!兄さんが来るまでの間はボクが時間を稼ぎます!」


「いや、見た目ガキの奴を一人にしておくわけにはいかねェ!保護者(仮)である俺も協力する!」


「いつの間に保護者(仮)になったんですか!?いいから夏紀ちゃん連れて避難誘導しといてください、貴方しか頼れる大人はいないんです!」


「.....そういうことなら仕方ないが君はもっと大人という存在について学ぶべきだぞ、少年」


五右衛門が意味不明なセリフを言い夏紀を連れてその場を離れる


「ヤマクロ君!」


「大丈夫、ボクは第五代目閻魔大王ヤマシロの弟だ!」


ヤマクロが叫び右腕を振るうと今も溢れ出している瘴気の柱に向かって橙色の灼熱の炎の一本矢がメラメラと燃えながら直撃した

本来天国ではこのような力を使用することは禁止されているのだが緊急事態の為使用しても問題ないとヤマクロは即座に判断した

悩んだ所で事態が悪化して救えた筈の人が救えなくなってしまう可能性だって考えられる

炎は瘴気を包み込み規模が圧縮されていく

どうやら閻魔の属性変換の際に放出脳波には瘴気を抑え込む特殊な力があるらしい

ゼストが現世で瘴気を凍てつかせて破壊出来たのもこの特性があったからと考えられる


しかし、瘴気は炎の僅かな隙間から溢れ出て次第に大地を侵食し始める

膨大な炎の制御に集中力を費やしているヤマクロは炎を分散させ漏れ出した部分の瘴気を炎で抑える

脳波は使えば使うほど脳に負担がかかりまだ未発達のヤマクロの幼い脳に反比例して炎の威力が凄まじいため、その負担は常人の倍近くまでとなってしまう


「うっ、ぐ...わぁ!?」


やがて集中力が保たなくなってしまい炎が一気に燃え尽きてしまう

膨大すぎる力には膨大すぎる力を持っていなければ望めない

それに天国という環境が力を出すのを抑えている可能性もある


更にヤマクロの目の前で信じられない光景が広がる


溢れ出した瘴気がヒトの形に変えわっていくのだ

しかもその数は数え切れない

ヤマクロにも見覚えのあるその形はこの天国では本来存在してはいけないモノ、繁殖力が高く未だにどのように生まれどこからやって来るかもわからない


「な、に...?こいつら.....!?」


謎の生命体である餓鬼がヤマクロの前に大量に立ち塞がる




一方、麻稚が向かった三途の川では...


「まさか、三途の川が一番深刻な事態になってしまっているなんて...」


三途の川は本来現世と来世を繋ぐ架け橋と言ってもいい場所で川の向こうに行けば現世に繋がっているとも言われている

馬鹿正直に泳いでも辿り着けるはずはない、三途の川の奥底に身を潜める悪竜達が立ち塞がり向こう岸が見えないため辿り着く前に体力が無くなり結局悪竜の餌となってしまう


しかし三途の川はいつもの光景を失ってしまっていた

底なしの川は干上がってしまい、空間は歪み悪竜達も死に絶えてしまっている

分類上魚類に分類される鰻のような悪竜は水中でしか生きていけないのだ


「姐さん、どうしますか?」


「一度氷漬けってのはありましたけど、干上がるのは初めてのことですぜ」


部下達の不安そうな声がざわざわと響く

たしかに三途の川が干上がるという事態は前例にないことだ

何年もの古い歴史を持つ天地の裁判所のベンガディラン図書館の本を読み漁ったとしても見つかるかわからない

しかし、今は何とかしなければいけない

たとえ前例にない異例の事態だとしても直面したからには対策法と解決法を考え後世に伝える義務がある


「一度閻魔様に報告します。私は裁判所に戻りますのでここの指揮、監督は畠斑さんに一任しますので畠斑さんの指示に従うように!」


俺ー!?と指名された畠斑は叫んでいるが副隊長である彼以外に任せられる人材がいない

麻稚自身も畠斑の実力と人望を信じて任命したのだ


「私も出来る限り直ぐに戻りますのでそれまでの辛抱です。貴方以外に適任者がいないんです」


「お、俺以外いない...」


「えぇ、私の部下達の中で最も有望で優れている貴方にしか」


「お前らー!まずは三途の川の地質調査、そして干上がった可能性のある証拠を徹底的に探すんだ。見つけ次第分析して必ず原因を突き止めるぞー!」


畠斑謡代という人物はおだてればおだてるほど何故か全体的にやる気が上がる人物である

しかもやる気だけでなく、しっかりと仕事をこなしてしまうという本当に有望な鬼である


「姐さん、ここは俺たちに任せてください!」


「えぇ、期待していますよ」


麻稚は急いで天地の裁判所へと向かった


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