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閻魔大王だって休みたい  作者: Cr.M=かにかま
第4章 〜憎まれ子〜
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Fiftiesecond Judge

天国、慰霊碑付近のオープンカフェ


「それはどういう意味だ?」


「そのままの意味よ、ここ天国では美原千代という人物の名前そのものが秘匿対象であって詮索をするなんてもってのほかという意味よ」


ヤマシロは須川の言葉の意味を理解できなかった、確かに天地の裁判所でも美原千代に関する資料は少なかったが天国ではどうやら詮索することができない名前になっているらしい

こんなことができる人物は一人しか思い当たらないが今は置いといていいだろう、それでも須川時雨という情報屋は話してくれたことをみるとヤマシロだから話したのか、それともかなり無理をしているのかもしれない

ちなみに五右衛門と瓶山は現在少し離れた場所に移動してもらっている


「須川、お前一体誰から情報を仕入れているんだ、お前のバックに誰かいるのか?」


「.....そのことについては詮索しない約束よね?」


「そうだな悪かった、以後気をつけるよ」


須川は不機嫌にコーヒーを飲みながらズボンのポケットから一枚の紙とペンを取り出す


「まず美原千代という人物だけど彼女はこの天国では第一級の重要人物として扱われていて存在すらも伝説級となっている」


「存在が?」


「さっき話した秘匿のせいで皆美原千代という人物の存在すらも疑い始めたのが始まりよ、もう何十年も昔からそんな状態が続いてるわ」


須川は話しながら紙に何かを書き込んでいく、どうやら話を要約しながらメモをしているらしい

恐らく天国でこんなことをできるのは神か閻魔大王クラスの権限を持っていないと不可能、そして美原千代のことを詮索されて都合が悪い人物、ヤマシロには自身の父ゴクヤマしか思い当たらなかったが少し考えてある矛盾点に気がつく

まず、ゴクヤマは美原千代と関わったことから閻魔大王の職を引退した可能性が高く閻魔大王を引退してからはそんな権限はないこと、仮に閻魔大王在職中に行ったことだとしても美原千代という人物、なんて未だに天国に来ていないのかもしれない人物を秘匿にすることなどできるのだろうか、まず誰かが疑いを持ち調べ始めてもいいはずだ

ヤマシロにはどうもゴクヤマのやることには疑問ばかりが思い浮かぶ、昔から何を考えているのかよくわからない男だったのも事実だ


「なぁ須川、美原千代の写真とかってあるか?」


「写真?それらしき人物のならあるけど信憑性はないわよ、偽物かもしれない」


「それでもいい、見せてくれ」


須川はまた自分の谷間に手を突っ込みゴソゴソと漁り始める、いやこの場合ゴソゴソという効果音は正しくないかもしれないが効果音を変えてしまうと何かダメな気もする...

須川は何食わぬ顔で「あったあった、これこれ」とヤマシロに向かって写真を放り投げる、仮にも秘匿扱いされているかもしれない人物の写真をこんな適当に扱っていいのかと疑問が生まれたが所有権は彼女にあるのだからあまり追求はしないでおく

ヤマシロは写真を受け取り一応少し遠慮するような感じで写真を見る


「......ッ!?」


ヤマシロは写真を見た瞬間、頭が真っ白になり全ての思考が停止した

何故ならその顔はどこかで見たことのある、いや知人の顔だからである

だがこれでゴクヤマの考えも少しだけわかった気もするし、ゼストの言っていることにも未だに半信半疑の状態だが納得もいく


だって、この人の顔は...


「ヤマシロ!?」


須川は驚いた表情でこちらに駆け寄ってくる、突如ヤマシロは苦しそうな表情を浮かべて机に突っ伏したのだ


「ちょ、大丈夫!?」


「だ、大丈夫、裁判所から通信が入っただけだ」


ヤマシロは顔に汗を滲ませる

どうやら天地の裁判所の従業員から脳波による脳話を受けたらしい

しかも、同時に複数の...

脳波は脳から直接発せられる電波のようなもので脳話とはそれを利用して通話する力であり、マンツーマンの対話ならば脳は対応が簡単だが、複数となると脳に負荷が掛かってしまう


(あの馬鹿ども、一度に複数はやめろっつてんのに...)


「須川、今から俺独り言話すけど気にすんなよ」


「え、えぇ...」


須川は席に戻りコーヒーを再度注文し美原千代の写真を仕舞う


「どうした、誰か一人が代表して話せ頭が痛くて仕方ない」


『閻魔様!申し訳ありません、では私がお話いたします!』


「用件は?」


『至急、裁判所にお戻りください!緊急事態につき帰りの便の手配も済ませております!』


「何があった?」


『ヤマクロ様が、封印を破り...』


「......!!?」


ヤマシロは先ほどよりも顔を青くし冷や汗をダラダラと垂らし、席から立ち上がる


「ヤマシロ?」


「悪い須川、急用ができた!」


「ちょ、ヤマシロ!?」


ヤマシロは須川の呼び止めにも応ずることなく走り始める


「状況は!?」


『現在天狼さんと査逆が戦い引き止めております、ですが被害者は既に何人も、地獄は今までにない異常な量の瘴気で覆われております!』


「だろうな脳波越しに伝わって来るよ、亜逗子と麻稚は!?」


『亜逗子様なら麒麟亭でご休息、麻稚様は三途の川の復旧作業の続きに出かけております!」


「亜逗子を裁判所で待機させておけ、俺も直ぐに戻る!それまで誰も地獄に近づくんじゃねぇぞ!」


『了解しました!』


ヤマシロはそう言って脳話を切り急ぎ空港へと向かう


「ちくしょう、無事でいろよ天狼さん、査逆!」


ヤマシロは複雑な心持ちなまま空港を目指した、ヤマクロのことを思うと今でも心が痛くて仕方ないのだ


(ヤマクロ、絶対に俺が救ってやるからな!)




地獄、査逆が全ての鎖を脳波による爆発を発生させた某所にて...


「査逆ィ!てメェ、俺ヲ縛っテる鎖まで爆発させテンじャねぇぞ、死ヌとコろダッたじゃねェカァ!!」


査逆の背後から天狼が怒りを露わにしてズカズカと歩いてくる、瘴気を体内に吸収しているせいでタダでさえ負の感情が現れやすくなっているため普段温厚な天狼でもキレる


「大丈夫よ、あんたマジで体丈夫なんだしさ〜」


「汗ダラだラ流シて顔逸らしてんじゃねぇよ、坊ちャんブチノメしタラ次はお前だカラなァ!!」


「.....互いに無事でいられたらね」


正面の爆炎が払われ、村正を構えながらヤマクロが笑顔で体を焼きながら歩み寄ってくる


「さっすが査逆、ボクの期待通り想像もつかないことしてくれちゃうよね!ホント楽しくて仕方ないよ!」


「流石です、あの攻撃を受けて無傷とはね」


ヤマクロと査逆が互いに褒め称え合う、ヤマクロも査逆も互いに余裕を見せ合っているが、実際に余裕と余力が残っているのはヤマクロである

査逆は実際五つの脳を持っていても脳波による脳にかかる負担は変わらないためである、対してヤマクロは脳波による戦闘方法を知らないため脳波はこの戦闘で一切使っていない、全て自身の身体能力で戦っている

ヤマクロはそうだった、生まれながらに戦闘能力が凄まじく兄のヤマシロにも匹敵するかもしれないと将来を期待されていた

しかし、性格に問題があったため封印され隔離された、実際ゴクヤマにはヤマシロという跡継ぎがいたためヤマクロを必要としなかったこともあったためヤマクロの性格は更に歪み、いつしか涙や悲しみを誤魔化すために仮面を被るようになった

当時世話役であった査逆のみがその事実に気がつきゴクヤマにヤマクロの封印をやめるように説得したが皆無に終わってしまい、当時欠番だったベンガディラン図書館館長及び司書長にまで降格させられてしまう結果となった


「天狼、マジで構えて」


「あン?」


「坊ちゃんの戦闘センスは歴代閻魔の中でも群を抜く程よ、ウチもあんたもマジで戦わないとマジで命が危ういかもしれないわ」


「.....お前が言うんなら嘘じゃなさそうだ」


天狼は声を落ち着け体内に残った瘴気を力に変換して、


「ナら、体をぶチ壊しテデモォ、挑まないとナァ!」


天狼は勢い良く炎を吹き出す、先手必勝と言わんばかりの凄まじい炎がヤマクロを襲う、恐らく温度は1万℃を軽く越えているであろう

アルコールの着火成分と瘴気の成分が混ざり合った炎はユラユラと燃え広がって行く


ただ、一箇所を除いては


「う〜ん、フライングスタートはどうかと思うけどね〜☆」


ヤマクロは天狼の出した炎を瘴気と共に村正に纏わせる

一太刀、横に振るえば炎が大地を斬り裂き、空を瘴気が斬り裂いた


「うぉ!?」


「忘れるなよ天狼、坊ちゃんだって閻魔の血を引いているんだ、それにあのヤマシロの弟。坊ちゃんにも脳波を属性に変換させる能力があって当然だ!」


「しかモ属性はヤマシロと同じ炎かよ、くそッタレ...!」


査逆は鎖を使いヤマクロが斬り裂いた大地に固定し、大地を持ち上げる

天狼は腕に瘴気と力を集中させ大地に一撃攻撃を加え地響きを発生させその衝撃によって発生した地割れをヤマクロに向かって放つがヤマクロは空を飛んで回避する

そして査逆はヤマクロに持ち上げた大地の欠片を頭上に落下させるが村正によって一刀両断される


「もう飽きた、そろそろ終わらせてもいいよね?」


次第にヤマクロの表情から笑みと目のハイライトが消え、その場から姿を消したと思えば辺りを無差別に斬り裂き始める


二人はヤマクロの動きを追うことに精一杯になってしまい動くことができなくなる

そんな中、天狼は査逆の近くに巨大な瘴気が迫っているのを肌で感じ取るが査逆は気がついている様子はない


「査逆ィィィィィィィ!!」


「え、何......ッ!?」


気がついた時には既に遅かった、ヤマクロの無差別の斬撃は査逆の身体を捉えており鎖ごと査逆の体に斬撃が刻み込まれた

赤い液体が飛び散り査逆が「え...?」と小声で呟いたのはほぼ同時のタイミングであった


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