Fortiesecond Judge
物陰喫茶「MEIDO」、厨房にて...
「材料、入りましたー!」
「こっちも、調味料入りました!」
「いや、本当に助かるよ!」
「いえいえ、本来の仕事をしてるだけなんでね」
現世からの材料の調達が無く、材料切れでメニューの変更が迫られた物陰喫茶に死神ゼストという救世主が訪れる
死神は現世と死後の世界を行き来できる唯一の種族のため、今までも死神部隊の物資調達班が現世から必要な物資を仕入れていたのだが、隗潼により死神を全滅させられてしまったため、生き残りであるゼストが死神部隊全ての仕事を担うことになってしまった
「.....隗潼さん、一生恨むぜ」
「どうかなさいましたか?」
「いえ、別に」
ゼストはあくまでも仕事を段々とこなす
いくら悪態をつこうとも、隗潼に殺意を芽生えさせたとしても、手伝いが欲しいなと思ったとしても、彼は与えられた仕事は最後まで全うするという意外にも真面目な心持ちであったりする
「そういえば死神さん、どうやって現世に移動してるんですか?」
「そこんとこ企業秘密でお願いします」
ゼストは営業スマイル百パーセントで対応する
そう、これも世間を渡っていくには必要不可欠な能力だ
「では、そろそろ現世に行かせてもらいますよ」
「あ、了解です、頑張ってくださいね」
ゼストはそう告げて厨房を出て、店のカフェを通り天地の裁判所の階段を登り...
「あの、尾行するのはやめていただいていいですか?」
「チッ!」
あくまでも企業秘密である
※
麒麟亭、娯楽室の一角にて...
「.......................」
「どうしたの亜逗子、手が止まってるわよ」
「あ、あぁ悪い」
パチン、と音が響き渡り同時に亜逗子が大きなため息を一つ吐く
それを少し不快に思ったのか、対戦相手の麻稚は表情を少し歪める
現在、ヤマシロが天国に用事がある、と行って中々戻ってこなくなったので仕事も一通り終わった二人は一時麒麟亭に戻ってきていた
確かに今日に限って死人は少ない、だからこそヤマシロもこの日を天国に行く日に選んだのかもしれない
そんな感じで二人は娯楽室で現世から仕入れられてきた娯楽である将棋を指している
「本当にどうしたの亜逗子、最近ずっとこの調子じゃないのよ、あなたらしくないんじゃない?」
「そう、かな?」
「そうよ、あなたの部下達も心配してたし...」
そう、亜逗子はここ二、三日の間、魂が抜けたように普段のテンションの高さがなくなっていた
人が変わったように元気が無くなり、一日中部屋に閉じこもったりしたこともあった
「なんか最近、気分が悪いんだよ」
「気分が?」
「頭痛が激しいし、目眩とかもたまにあったりするんだ、体もいつもより熱がある気がするし...」
「............」
麻稚は亜逗子の話を聞いて思いつくことが一つだけあった
おそらくだが二日酔いであろう
確か、三途の川で麻稚がヤマシロと共に問題を解決しに行った時彼女は酒呑童子の盃 天狼と共に酒を飲んでいたと聞いている、というか酔ってべろんべろんになった亜逗子を背負い心底疲れた様子の天狼に亜逗子を任された気もする
天狼の話によると、ヤマシロが宴会の席を離れて不機嫌になり酒に付き合わされており、止めはしたが止まらなかったらしい...
つまり、天狼は悪くない、悪いのはこの気分を悪くしている赤鬼だ
(...心配して損した気分ね)
その後、麻稚も違う意味での頭痛に悩まされたらしいがそれはまた別の話
ちなみに将棋の勝敗は麻稚の圧勝だったことだけは報告しておこう
※
ベンガディラン図書館にて...
「.....なるほどね」
「ねぇ煉獄君、ここ最近ずっとその本読んで仕事が進んでいないのは一体どういうこと?」
「あれ、言ってませんでしたかね?これを読み終わったら作業するって言ったはずですよね?」
「その広辞苑並みの本、いつ読み終わるかマジわかんないし!!」
「ここでこうで、そうかそうか」
「お願いだから早く読み終えてー!」
本当にあんた仕事しろよ、と上司にやっとこさ見つけた死神伝記を熟読する鬼と死神のハーフ、煉獄 京と部下に早く仕事させたい一心で貧乏揺すりが激しくなるなんちゃってギャル上司、月見里 査逆が一つの机に向かい合う状態が丸二日間近く続いている
基本、鬼という種族は腹に食物を収めなくても生きていける種族なのでこのような無駄な籠城状態も簡単に完成してしまうこともある
煉獄は自分の父から教わり損ねた死神の暗殺術が他にないかを探すため眼鏡を装備し図書館の仕事を中断してまでも長い時間読み耽っている
ちなみに頑張れば習得できそうな術を数個見つけたのでこれが読み終わり、図書館の仕事を終わらせてから実際に試そうと心に決めていた
一方の査逆は煉獄が読みたい本があるので読み終わるまで仕事を休ませてほしい、という願いを聞き入れてしまった
あの煉獄 京が本に目覚めたという嬉しさがあったのだろう、図書館の本を読んでもらえることが嬉しかったのだろう、彼女は煉獄の願いを聞き入れたのだが、半日近く経った辺りでそれは後悔に変わった
まさか、こんなに分厚い本だとは思いもしなかったからである
それでも仕事はしないといけないので信頼の薄い数少ない部下を呼び出し、手伝わせたりもした
しかし、煉獄の読書は終わることはなかった、もう読書というよりは研究のレベルかもしれない
二人の睨み合いはまだまだ続いたそうだ




