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閻魔大王だって休みたい  作者: Cr.M=かにかま
第2章 〜百鬼夜行〜
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Twentieeighth Judge

「隗潼さん...」


「大きくなったな、二人共」


合戦開始から七分が経過...

ヤマシロと麻稚の前に敵方の総大将、蒼 隗潼が現れる

その威圧感と人を纏めるカリスマ性は本物でヤマシロも勢いに負けてしまいそうになる


「父上...」


「どうした麻稚、ここは戦場だぞ?」


麻稚は父の登場に思考が働かなくなる

煉獄の話から隗潼が敵にいることは知ってもいたし覚悟もしていたつもりであった

だが、それは所詮 "つもり" にしかすぎなかった...

事前に情報を手にいれていても、事前に覚悟を決めていたとしてもそれは彼女のただの強がりに過ぎない

現実というものはそのような覚悟を根こそぎ奪うものである


「カァッ!!」


隗潼は動けないでいる麻稚に向け張り手を放つ

その巨大で強力な一撃は辺りの地面を抉り、大気を震わす


「...あ、」


麻稚の驚嘆の声が隗潼に届くことはなかったと共に隗潼の一撃が麻稚に届くこともなかった


「.....ヤマシロ」


「隗潼さん、あんた変わっちまったな...」


間一髪の所でヤマシロが隗潼の一撃を防ぎに入る

ヤマシロは悲しみと怒りの混じった表情で隗潼を睨みつける


「昔のあんたは俺の憧れだった、親父の我儘に振り回されながらも平気な顔して仕事して、それでいて優しくて、格好良くて...」


ヤマシロは唇を噛みながら鬼丸国綱に力を入れる

相当の力を入れているせいか刀身がカチャカチャと音を立てる


「俺は、俺はあんたのお陰で閻魔大王やろうと思えたんだ!親父が急に引退して仕事全部押し付けられたけど、しんどいのは俺だけじゃないってことをあんたは教えてくれた!」


ヤマシロは本音を吐きながら隗潼に攻撃を加える

そう、幼いヤマシロにとっては父親、ゴクヤマも勿論憧れを抱いていたが、それ以上にその父の為に毎日奮闘する隗潼はそれ以上の憧れを抱いていた


「もう親父は引退した、あんたも引退した!後のことは俺達で十分だ、大人しく静かに暮らしておけよォォォ!!」


ヤマシロは鬼丸国綱に地獄の炎を纏わせ隗潼に全力の一撃を放つ

本来ならば閻魔帳を経由して地獄の炎は放つモノだが、此処は地獄...

わざわざ閻魔帳を経由せずとも炎を扱うことはヤマシロにとっては造作もないことだった


しかし、


「調子に乗るなよ、小僧ォ!」


その一撃は隗潼によって片手であっさりと受け止められる

更に隗潼からはヤマシロも麻稚も今まで感じたこともないほどの殺気が放たれていた

辺りにいた鬼達はその殺気を浴びて気絶してしまうほどだ

そして、ヤマシロは隗潼によって大地に全力で叩きつけられる

その際、中心にはクレーターが完成し、辺りには地割れが凄まじい速度で広がる


「閻魔様!!」


「お前達の世代に任せておけないから俺達が立ち上がった!静かに暮らす?俺達で十分?口先だけは立派だな、5代目ェェェ!!」


「ぐ、ハッ...!?」


隗潼の怒号が大地を震わす、隗潼の一撃が大地を砕く...


「お前達に任せたからこうなったんだ、お前達に任せたから秩序が乱れたのだ!」


隗潼の一撃は止まることをしらない

全てヤマシロに向けて怒りの一撃が放たれる

隗潼の力は冨嶽や百目鬼を越えるとも言われている


しかし、その隗潼の攻撃が続くことはなかった


「ぬっ!?」


何者かが隗潼の腹に強烈な一撃を加えたからである

隗潼には遠く及ばない低い身長、隗潼と決して並ぶことはない華奢な身体、隗潼と同じ青い髪だが深みはそこまでない髪、隗潼と同じ青い角だが彼ほど鋭さはなく精々薄いモノを貫くのがやっとそうな角...


「麻稚...」


蒼 麻稚が隗潼に不意の一撃を加えた

彼女の本分は閻魔大王の補佐、及び閻魔大王の敵の排除...


「これ以上、閻魔様に手出しはさせない!」


麻稚はメガネを外し、拳を握り締め握力で粉々に砕く

彼女の武器である近接戦闘も可能に改造されたスナイパーライフルを構え直す


「いい眼だ、それでいい」


「絶対に許さない」


普段はポーカーフェイスを維持している麻稚からは考えられないほど怒りの篭った声が隗潼へ向けられる

そう、此処は戦場

隗潼は確かに父親であるが、戦場においてはそれ以前に敵である

麻稚はスナイパーライフルを構え隗潼に接近する

本来スナイパーは遠距離戦闘が得意だが、彼女のスナイパーライフルには打撃攻撃が可能な造りになっている

持ち前の速度で隗潼の背後に回り込み、五発発砲する

隗潼はその気配に気づき、振り返り張り手から放たれる衝撃波で攻撃するも麻稚は既に隗潼の懐にまで移動する

そしてゼロ距離からの大型砲撃を放つ、この砲撃は本来巨大生物や鱗が分厚い相手に用いる砲撃、生身の身体に放たれてはいくら隗潼とはいえども無傷では済まない


「うぬ...!?」


「貴方は閻魔様を傷つけた、そんな相手に手加減などできませんのでご勘弁ください」


いつもの如く、平坦な調子で麻稚は更に素手で隗潼に容赦のない追い撃ちを加えた




「二対一は流石にきついな...」


「うぃ、いきなり乱入とはいい度胸じゃねぇか」


「いいじゃん、隗潼行った、俺暇だったからさ」


一方、亜逗子と盃が戦っている最中、敵方の朧岐 御影が二つの巨大なバトルアックスをそれぞれ片手で持ちながら現れる

彼の乱入は味方である盃も予想外であったらしく不満の声を漏らす


「今は俺がこいつとやってんだよ、引っ込みな」


「却下、雑魚共は所詮雑魚、俺求むの強者のみ」


盃と朧岐が睨み合う形になる

亜逗子はどうすればいいかわからずにいるが、とりあえず警戒は強め、朧岐に話しかける


「なぁ、斧の奴」


「あん?」


「あたいは今その酔っ払いと戦ってんだ、邪魔しないでくれない.....!?」


亜逗子の言葉を遮るように不意打ちとしか思えない一撃が朧岐から放たれる

巨大なバトルアックスを亜逗子の顔面に向けて一振りしてきた

間一髪のところ躱すのに成功するが当たれば頭は吹っ飛んでいたであろう


「てめ、どういうつもりだ!」


「言ったろ?俺、暇なんだ」


亜逗子の問い詰めに朧岐は何の躊躇いもなく応える

盃も亜逗子と戦っていた時の表情はせず、どこか不満な表情だ


「殺りあおうぜ、俺はただ強者と戦いたいんだ」


亜逗子は躊躇いながらも目の前の男の異常性に冷や汗を流す

煉獄とはまた違った異常をこの男、朧岐 御影は抱えていた


(やるしかないか!)


亜逗子は二人同時に相手にする気で構え直す

しかし、現実は予想外の方向へ進む


「...どういうつもりだ、盃」


盃 天狼が亜逗子の方へ歩み寄る


「朧岐、お前強者と戦いたいんだろ?俺達二人で相手してやるよ」


「なっ...!?」


「ヘェ〜」


亜逗子は驚きの表情を浮かべ、朧岐は目を細める

別にそれでも構わないと言わんばかりの表情である


「いいのか、隗潼を裏切ってよ」


「俺はただこいつと早々に決着をつけたいだけだ、それにはお前が邪魔なんだよ」


「黙れよ、酔っ払い!」


朧岐が殺気を放つ

亜逗子が小声で盃に尋ねる


「どういうつもりだ?」


「言ったろ、俺達であの馬鹿を瞬殺してさっさとさっきの続きやろうぜ」


盃は拳を亜逗子に向け突き出す


「...あたい個人プレーしか経験ないよ?」


「共闘っつても俺らは敵だぜ、息なんか合わす意味ないだろ?ヒック...」


その言葉に亜逗子は笑みを浮かべる


「今度酒に付き合ってよ」


「美少女からのお誘いは断れないな」


亜逗子も拳を盃に突き出す

二人の拳が合わさり、朧岐に視線を移す


「行くぞ!」


「おぅ!」


敵と味方、そんな関係を忘れ去り、紅 亜逗子と盃 天狼はそれぞれの戦い方で朧岐 御影に立ち向かった





そして誰も気がつかなかった...


この場にとてつもない力と脅威がもの凄い速度で迫っていることに


ソレは間も無く現れる...!



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