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Hexe Complex  作者:
8/85

Order:8

 出勤の準備を整えた俺は、自転車を担いで部屋を出ると、階段を降りる。

 学生の頃乗っていたこのロードバイクは、総重量10キロを切っている。突入時の装備重量よりは遥かに軽い。

 俺の今の服装は、スパッツみたいにフィットしたレーサーパンツに有名サイクリングチームのレプリカジャージ。それに赤いラインのヘルメットだ。

 まさか中学時代に使っていた服装が、こんなところで役に立つとは。

 胸やお尻は少しキツイけれど、サイズも概ね良好だった。

 一階には今日も大家のおばさんがいて、挨拶を交わす。

 アパートメントの向かいの駐車場には、レインの同僚に回収してもらった俺の愛車が止まっている。しかし俺は今、車通勤ではなく自転車通勤をしていた。

 でっち上げたウィルという少女の身分では、運転免許証というものがない。年齢設定や見た目的に免許証取得は無理と判断されたのだ。

 しかし、自転車通勤は体力作りにもなるし、今のところ不便は感じていなかった。それに、朝のひんやりとした空気の中、石畳の凹凸を感じながらオーリウェルの街中を走り抜けるのは、気持ち良かった。

 さぁと、今日も気合いを入れて走り出そうとすると、背後からハイヒール高く響く足音が近付いて来た。

「ウィル、おはよう」

「ソフィ。おはよう」

 やって来たのは、アイボリーのパリッとしたスーツに身を包んだソフィアだ。

 出勤前の女教師モード。

 こうして澄ましていると、ちゃんとした先生に見えなくもない。

「ウィル。ちゃんとタオル持った?替えのシャツとか下着とか大丈夫?」

 腕を組み、心配そうに俺を見るソフィア。

 少し苦笑しながら、俺は背負ったリュックをぱんぱんと叩いた。

「うん、大丈夫」

 俺の体の事を告白してから、ソフィアが何かと世話を焼いてくれるようになった。食事を作ってくれたり、様々な必需品を買って来てくれたり。疎遠になっていたここ最近の事が嘘みたいだ。

 まるで、学生の、あの時に戻ったみたいだった。

 色々教えてくれるのは有難かったし、買ってくれる服や下着もレインよりずっと俺好みだ。

 ……いや、女物が好きとかそういう意味じゃなくて、シンプルなデザインというか、フリフリじゃないというか。

 自分で嵌ってしまった自己嫌悪を振り払うように、俺はふるふると頭を振った。サイクリング用ヘルメットの後ろから出した結んだ髪が、風を受けてふわりと揺れる。

 ちょうどいい汗をかいてオーリウェル支部に到着すると、教練着に着替えてまず走り込みを行う。

 ストレッチをしてから、支部の外周10キロコースを40分くらいかけて走る。終わるとストレッチをして、今度は200メートルで息を上げて100メートルで息を整えるインターバル走を10セット。

 夏でもカラッとした暑さが特徴的なオーリウェルでも、だいたいこのぐらい動き回れば汗だくになってしまう。

 走っていると、自分の体のバランスが変わってしまったのが良く分かった。

 特に強く走ると、胸が弾んで少し痛い時がある。女性は何で胸にも下着をつけるのかと思っていたけれど、身を持って納得することが出来た。

 そんな体力トレの後は、研究課のオブライエン主任のところに出向いて検査を受けるか、ノルトン教官に実技指導をしてもらうか、日によって変わって来る。

 今日はオブライエン主任の検査が午後になり、ノルトン教官が多忙だったため、1人で屋内射撃場に行くことにした。

 実弾射撃は慣れだ。

 銃の癖。

 反動。

 グリップの感触。

 いつでも即座に撃てるよう、それらを体に覚え込ませなければいけない。

 部に関係なく、俺たち軍警の人間には、定期的な実弾訓練が義務付けられていた。

 訓練棟にある実弾射撃訓練用の射撃レンジ。

 間仕切りによって区切られたブースがずらりと並ぶ中には、俺のように自主練を行っている隊員の姿がちらほらとあった。

 断続的な銃声が響き渡る。

 硝煙の香が強く立ちこめていた。

 そのブースの1つに、俺は立つ。

 防音用のイヤーマフを装着し、透明の防護ゴーグルを掛ける。

 足は軽く開いて立ち、両手で包み込むように握った45口径ハンドガンの銃口を、25メートル先のターゲットボードに向ける。

 狙いをつけ、引き金を引く。

 空気を震わせる銃声。

 跳ね上がる銃口。

 排出された薬莢が、軽い音を立てて足元に転がった。

 再び慎重に狙いを付けて、撃つ。

 それを数度繰り返す。

 重たい衝撃に手がじんと痺れる。

 次は、連射。

 ハンドガンを構え、立て続けにトリガーを引き絞る。

 軽快に薬莢が宙を舞い、手の中で銃が激しく暴れる。

 ガンガンと響く激しい銃声。

 唐突に銃上部のスライドが、後退したまま停止した。

 弾切れだ。

 俺は空になった弾倉を引き抜くと、一応ハンドガン本体にも弾が残っていないのを確認してスライドを戻す。そしてコトリとブースの台に銃を置いた。

 ふうっ。

 深く息を吐く。

 俺は間仕切りに設置されているボタンを押して、ターゲットボードを引き寄せた。

 機械音を響かせて近寄って来るボード。

 ボードの上に張られたターゲット用の紙は、穴だらけになっていた。

 俺はその着弾痕を数える。

 大体は当たっているが、3発外している。当たっている弾もばらけていて、集弾率は悪い。

 ……まだまだ。

 もっともっと、練習しなければ。

 俺はきゅっと唇を噛み締め、ターゲット用紙を引き剥がした。



「ウィルちゃん」

 もう少し練習しょうと銃器係に新しい弾薬を貰いに行く途中、俺は不意に呼び止められた。

 振り向けと、教練着姿の男が3人、こちらに手を振っていた。

 名前は……思い出せないが、E分隊のメンバーだ。当直ローテーションは違うが、同じミルバーグ隊に属しているから顔は知っている。

「何です?」

 ゴーグルを掛けたままの俺は、首を傾げる。

「マジかよ。これがもと男かよ」

「すげーな」

「いや、信じらんねー」

 口々に感想を漏らしながら近寄ってくるE分隊員。

 視線が俺の顔だけじゃなく、胸や腰を這うのがよく分かる。

 こういう失礼な対応にはもう慣れっこだ。Ω分隊の奴らはもちろんの事、もとの俺なんか絶対に知らないだろうというような奴らも、なんだかんだとちょっかいを掛けて来る。

 しかし、そもそも俺にその原因があるのだからしょうがない。

 支部本棟ならまだしも、こんな訓練棟の端っこには、女性などめったに現れないのだから。

 きっと、校庭に侵入して来た野良犬に学校がざわめくのと同じ心境なのだろう、多分。

「何か?」

 俺はきっと3人の真ん中の男を見上げた。

 男は一瞬気圧されたように顎を上げたが、直ぐに気を取り直し、一歩進み出た。

「ウィルちゃん。折り入って頼みがある」

「……自分はまだ訓練がありまして」

 俺は困ったようにふうっと息を吐く。

「大丈夫。ここで直ぐに終わる事だ。おい!」

 真ん中の男が合図すると、左端の男が頷く。そして、その手にしていた大きな荷物を差し出した。

 それは、長大な狙撃銃。

 50口径の対物狙撃ライフルだった。

「お願いだ、ウィルちゃん。そのライフルを構えてくれないか?」

「はっ?」

 俺は目を丸くする。

 ……構えるだけなら構わないが。どういう意図のお願いなんだ?

 俺は巨大なライフルを受け取ると、ストックを肩に当てて構えて見せた。

 やはり、重い。

 持つだけで精一杯だ。バイポッドで支えて伏せ撃ちでもしない限り俺には撃てそうにない。

「おお!」

「すげーな!絵になるなぁ!」

「言ったでしょ?少女と巨大な武器の組み合わせはいいって!」

 異常な盛り上がりを見せるE分隊員。

 ……な、なんなんだ、こいつら。

「こら、貴様ら!」

 感嘆の声を上げるE分隊員の背後から、突然銃声のような怒鳴り声が響いた。

 男たちが慌てて振り向くと、そこには薄くなった真っ白の頭にごま塩の無精髭を生やした年配の男が1人、腕を組んでこちらを睨んでいた。

 この射撃場を管理する銃器係の主任、オットー軍曹だ。

「貴様ら!銃は玩具ではないぞ!あと、ウィルちゃんも玩具ではない!さっさと訓練に戻らんか!」

「し、失礼しました!」

 E分隊員たちは俺からライフルを奪い取ると、脱兎のごとく走り去っていった。

「まったく、あいつらは……」

 ぶつぶつ言いながら俺に近付いて来るオットー軍曹。

 軍曹は、オーリウェル支部古参の隊員で、作戦部隊員の中ではノルトン教官に次いで恐れられている人物でもあった。

「ウィルちゃん。ウィルちゃんも嫌なら嫌と言いなさい」

 しかしノルトン教官と違って、俺には少し優しい。

「は、はい……」

 嫌というか、何なのか良くわからないというのが正直な所なのだが……。

「ところでウィルちゃん。射撃に手こずってるみたいだね。見てたよ」

 片目を瞑ってニヤリと笑うオットー軍曹に、俺はコクリと頷いた。

「まだまだ練習が足りません」

「ははは、真面目な事は良いことだ」

 そこでオットー軍曹は、手にしたケースを掲げて見せた。

「ウィルちゃん。ちょっとこれを試してみないか?」

 オットー軍曹は近くの台の上に黒いケースを置くと、蓋を開く。

 俺が脇から覗き込むと、その中には小振りのハンドガンと弾倉が収まっていた。

「こいつはリベット社のXP9。9mm弾を使う最新型ポリマーオートのハンドガンだ」

 俺はへぇと感嘆の声をもらしながら、黒のハンドガンとオットー軍曹を交互に見た。

 軍曹はその俺の反応に満足したかのように、大きく頷いた。

「ポリマーフレームの分野じゃアメリカの会社に遅れを取ってたリベット社が、遅ればせながらも発表したモデルだな。うちの支部にも性能評価って名目で、何丁か来ているんだ」

「握ってもいいですか?」

 俺がすっと手を伸ばすと、オットー軍曹は頷いてくれた。

 ケースから取り出したハンドガンを握る。

 弾倉を入れていないというのもあるが、軽い。軽すぎて、少し頼りないと思える程だ。それにグリップもすっきりしていて、いつもの45口径よりも断然ホールドし易い。

「反動はもちろん小さく、装弾数は45口径より多い。9mmじゃストッピングパワーが弱いという奴もいるが、分厚いアーマー着てる奴だけを相手にするのが軍警の仕事じゃねぇしな。そこそこ使えると思う。これはお前さんに預けるから、使ってみてくれないか」

「良いんですか、俺で」

 俺はきょとんとしながら軍曹を見る。

「ああ」

 うんうんと頷くオットー軍曹から、俺は手の中の銃に視線を落とした。

「定期的にレポート出してくれればいい。それにな。上手く行かないなら、道具を変えて見るのも手だと、俺は思うぞ」

 オットー軍曹が、深い皺の浮かぶ手をぽんっと俺の頭の上に置いた。

「射撃は銃との相性と銃を使いこなす人間のセンスだ。色々試して見るのも悪くない筈だ」

 俺は軍曹を見上げる。

 目線を変えてみる。

 俺には、そういう発想はなかった。

 ただひたすらに、今までの練習を繰り返していただけだ。

「ありがとうございます、軍曹!」

 俺はぺこっと頭を下げる。

 なるほど。

 復帰に向けての訓練といっても、無闇やたらに頑張るだけでは意味がないし、逆に効率が悪くなるということもあるのか。

 やはり先輩方の意見は参考になると思う。そういえば昔も、自主トレの件ではグラム分隊長に色々と世話になったっけ。

「いいんだよ、いいんだよ」

 ほわんとした笑顔を浮かべるオットー軍曹。その顔は、軍警歴戦の大先輩というより、孫と遊ぶお爺ちゃんみたいな顔だった。

「ウィルちゃん、良ければ俺の事はオットーおじちゃんと呼んで……」

「早速撃ってみてもいいですか?」

「お、おお。もちろんだ。俺が見ててあげよう」

 よし……!

 俺は真新しいハンドガンに弾倉を装填すると、スライドを引いた。

 Λ分隊の仲間はいなくなってしまっても、俺にはまだ、軍警の頼りになる仲間たちがいる。

 真新しい銃を手にしているからだけでなく、その事を改めて噛み締めることが出来て、俺は少し高揚していた。



 午前中の訓練を終えた俺は、チャコールのシャツと黒のズボンの軍警制服に着替えると、大食堂に向かった。シャワーを浴びて髪を乾かすのに時間が掛かってしまったので、食堂に入ったのは13時を大きく過ぎた頃になってしまっていた。

 ちなみにネクタイはまだしていない。

 シャワーを浴びても暑くて……。

 午後のオブライエン主任の検査まではまだ間があったので、汗を沈めるのと、お昼も今のうちに済ませておきたかった。

 支部本棟1階にある大食堂は、無数の椅子とテーブルが並ぶ大規模なものだった。

 中庭に向かって開けたガラス張りの壁面からはグランドや訓練棟が一望でき、眩しい程の自然光が降り注いでいる。沢山の観葉植物がまるで植物園のように生い茂り、殺伐とした軍警オーリウェル支部の中にあっては、職員たちの最大の憩いのスペースとなっていた。

 正午ちょうどのピーク時には、立錐の余地も無いほど混み合うそんな大食堂も、この時間には空いている。お昼を食べている人の姿はまばらだった。

 俺はトレイを手に取って、料理を皿に盛っていく。大食堂の昼食は基本的にビュッフェ形式だ。

 トマトソースの冷製パスタにコーンが鮮やかなサラダ。黄金色に輝くオニオンのカップスープ。

 それらを乗せたトレイをカタカタ揺らしながら、俺は慎重な足取りで窓際の席に向かった。

 山盛りのパンとかパリッと揚がったフィッシュフライ。切り分けられたローストビーフなんてお腹に溜まるメニューももちろんあるが、最近の俺は少食だ。以前ならトレイに山盛り料理を盛っていたのだが、今は食堂前にあるディスプレイ品みたいに上品な盛り方しかしていない。

 結構運動している筈だけどなぁと思う。

 そもそも体の容積が減ってしまったからなのだろうか。

 俺はフォークを手に取ると、サラダをもしゃもしゃ口に入れる。

 美味しい……。

 ……ん?

 ふと視線を感じ、顔を上げる。

 俺の席から少し離れたテーブルに集まっている5人程のグループが、こちらをちらちらと窺いながらひそひそ話をしていた。

 俺は内心、ふうっと溜め息を吐いていた。

 俺のここ数日の短い体験からしても、ああゆう風に俺を見ている輩は、十中八九後で声を掛けて来る。しかも、話をしても特段中身のない会話ばかりなのだ。結局、用がないのならとその場を立ち去ることになる。

 ……まったく。そんなに俺みたいのが珍しいのか。

 ……まぁ、珍しいか。

 俺は艶やかなプチトマトにフォークを突き立てた。

「おっつかれ〜、ウィルちゃん!」

 さっさと食事を済ませようともくもく手を動かしていた俺の前に、不意にガシャンとトレイが置かれた。続いて、白のブラウスにグレーのタイトスカートの事務服姿のレインが、どかりと俺の対面の席に座る。

「レイン」

「ウィルちゃん、訓練どうだった?」

 にへらっと笑うレイン。

 レインのトレイの上には、山盛りのフライドポテトが乗っていた。

 まあまあと、簡単に答える俺。

「ところでウィルちゃん。ウィルちゃんの新しい服を仕入れたいの。何か要望ってある?ゴスロリとかお勧めなんだ。この間ネットで見てて……」

 ごすろり……。

 パスタをグルグルフォークに巻き付けながら、俺は首を傾げる。

 新型の対戦車ミサイルか?

「でねー、新しいぬいぐるみの方は、アフリカの動物シリーズにしようと思うの。どう?」

 ポテトを口に運びながら一方的に話し続けるレイン。

 俺はスープを啜りながら、良く動く口だなぁとぼんやりと考えていた。

 あ。

 そういえば、ソフィアがいるから服はもう大丈夫だって言っておかなくては。

「ねぇ、ウィルちゃん。アフリカゾウとインパラ。どっちがいいかな?」

「……インパラ」

 俺はカチャリとカップを置く。コーヒー、飲みたい。

「あの、レイン」

「んー、何、何?」

「えっと、服はもう……」

 その瞬間、鋭い警報が食堂に響いた。

 何事かと周囲がざわめく。

「何……?」

 レインが呟き、俺も周りを見渡した。支部の館内放送ではない。

 音源は直ぐにわかった。

 大食堂内に数台設置されている大型テレビだ。

 別々の番組を写していたテレビ画面が、一斉に同じ画像に切り替わる。

 国営放送の緊急放送だ。

『ここからは番組を変更し、只今入りましたニュースをお伝えします』

 緊張した面持ちの女性ニュースキャスター。

『本日13時頃。首都ウォーヴァルの旧国会議事堂前広場で大規模な爆発が発生しました。死亡者並びに負傷者が多数発生しています。当局の発表によれば、これは、強力な魔術攻撃によるテロ行為であるとのことです』

 俺は思わず立ち上がった。

 がたりと椅子が、倒れてしまう。

 テロ、だと……?

 俺は呆然とテレビを見つめる。

 一瞬真っ白ななった頭に、徐々にキャスターの声が染み込んで来る。

『このテロ攻撃の後、先ほど犯行グループと名乗る者たちから、犯行声明と思われるものが出されました。その内容は、昨今論争を呼んでいる外国籍の者による土地買収の上限を撤廃する法律に反対するというもので……』

 ニュースキャスターは繰り返して同じ文面を読み上げて行く。読み上げられる死傷者の数だけが、じわじわと増えていく。

 俺はぎゅうっと手を握り締める。

 爪が食い込み、手が震える程に。

 死亡者の数。

 負傷者の数。

 それは、ただの数字じゃない。

 その1人1人が、人間なんだ。

 その誰もが、俺の父さんや母さんや姉貴やソフィアやグラム分隊長たちのように、家族や恋人と一緒にそこで生きていた人間なのだ。

「……今晩は緊急配備だね」

 レインがぼそりと呟いた。

 その通りだろう。

 首都の事件に便乗したデモやさらなるテロ攻撃が発生する可能性が、ここオーリウェルにだってある。

 俺も……。

 俺だって……!

 少しずつ頑張っていこうという決心は、この非常事態を前にして激しく揺れ動いていた。

 こんな事件が起こっても俺は、仲間と戦う事が許されないのだ。

 キュッと目を瞑り歯を食いしばる。

 一瞬だけそのどうしようもない状況に耐えて……。

 俺ゆっくりと息を吐いた。

 今は……。

 俺は食事の後片付けをすべく、トレイに手を伸ばした。

 そこへ、スーツ姿の男が食堂の入り口から小走りに駆け寄って来た。こちらへ、だ。

 レインの同僚かと思ったら、その男は俺の前に立った。

「ウィル・アーレンか?」

「はい、自分です」

 男は頷く。

「直ちに刑事部長のもとに出頭しなさい」

 刑事部長?

 俺の直接の上司であるミルバーグ隊長や作戦部長ではなく、刑事部の……?

「早く行きなさい。君に任務だそうだ」

 ……任、務?

 待ち望んでいた筈のその言葉に、俺は一瞬、硬直してしまった。

 読んでいただき、ありがとうございました!

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