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Hexe Complex  作者:
72/85

Order:72

 ヴィンデンラントの貴族級魔術師、ハインラート伯爵の執務室に足を踏み入れた俺は、差し込む朝日の目映さに僅かに目を細めた。広い執務室は、入り口の反対の面が全てガラス張りになっていた。

 朝日に目を奪われたのも一瞬、直ぐに俺は執務室内をクリアにする。

 広い室内にデスクや本棚、ソファーセットが並ぶ執務室は、無人だった。

 ハインラート伯爵は不在なのか、アオイの迎撃に出たのか、どちらにせよ好都合だ。

 今の内に何かしらの手掛かりを探さなければ。

 何か、騎士団のテロ計画に繋がるものを……。

 俺は、ガラス面を背に配置された重々しいデスクに駆け寄った。

 机の上に置かれたパソコンに電源を入れ、書類を漁る。俺たちの襲撃に慌てたのか、大きな机の上には様々な書類が散らばっていた。

 何か無いのか……。

 片手でライフルを保持しながら、片手で書類を漁る。机上に並んだファイル類もさっと取り出し、素早く中身を確認していく。

 大きな机の上に散らばっていたのは、ハインラート伯爵の事業に関する書類ばかりで、騎士団に関係のありそうなものは見つからなかった。

「これは……」

 しかしデスクの引き出しを開けた瞬間、3通の手紙に目が留まった。

 高級そうな便箋に入った紋章は、獅子と鷲。

 これは、犯行声明の放送でも見た聖アフェリア騎士団の紋章だ。

 中身を確認するよりも先に、取り敢えず俺はそれを腰のポーチに押し込んだ。そして次に、やっと立ち上がったパソコンに触れようとしたその時。

 ミシッと机が鳴った。

 背筋がピリピリする。

 胸の真ん中がすっと冷たくなった。

「くっ……!」

 俺はとっさに後退り、机から離れた。

 その瞬間。

 机が傾き、パソコンが吹き飛ぶ。

「なっ……!」

 俺はさらに後退し、ライフルを構えて警戒する。

 机とパソコンは、突如床から生えた黒い何かに貫かれていた。

 滑らかなで濡れているような光沢がある。しかし表面はゴツゴツして、微かにささくれている部分もあり、じっと見ても質感がよく分からない黒い板状のもの。それが巻き上がり、円錐形の棘を作り出していた。

 大きさは俺の身長程もある。

 その黒い棘が、机ごとパソコンを串刺しにしているのだ。

 攻撃……。

 魔術、攻撃だ!

 黒の棘がしゅるしゅるとほどけながら、床へ消えていく

「侵入者。何者だ」

 低い声が轟く。

 そして、ガチャリと鳴る金属音が執務室に響き渡った。

 デスクから見て右の壁面は、先ほどまで本棚がすらりと並んでいただけだった筈だった。

 しかし今そこには、ぽっかりと暗い通路が口を開けていた。

 見落とす筈がない。

 先ほどまでなかった通路。

 ……隠し扉か。

 そしてそれは、その通路の暗闇の奥から、のそりと姿を現した。

 磨き上げられた装甲板には、精緻な装飾彫刻が施されている。兜には、目を引く大きな羽根飾りがあしらわれていた。

 ガシャリと金属音を鳴らし、こちらを見据えるのは、フルプレートの騎士甲冑だった。

 しかしそれが、ただの鎧である筈がない。

 鎧は上半身に比べて太ももの部分が異様に大きく、手や足には鋭い鉤爪が生えていた。物語に出て来る騎士というよりも、どこか禍々しい魔物の様な印象を受けてしまう。

 恐らくは貴族級魔術師の戦装束、エーレクライトだ。

「何者だと問うたのだ。名乗る口すら持たぬか、下郎め」

 甲冑はくいっと顎を上げた。

「我が館に土足で踏み入った罪、死を持って贖え」

 表情はわからなくても、鎧が嘲笑したのがわかった。

「ハインラート伯爵か……!」

 俺は腰を落としてライフルを構え、低く呟く。

 騎士団の幹部クラスの魔術師だ。

 こいつを制圧出来れば……!

 身をたわませ、突撃を仕掛けようとした瞬間。

 俺の足元から、黒い棘が突き上げて来た。

 咄嗟に後ろに飛んで回避する。

 強化された知覚が無ければ、貫かれていた……!

 しかし黒の棘は、俺の回避する先から足元に現れる。

「くっ!」

 俺は大きく後ろに跳躍する。

 ライフルを持つ手以外の3肢で着地し、すぐさま前転で前に飛ぶ。

 その後を追ってくる円錐の棘。

 ……はっ!

 身をよじり、そのまま側転に入る。

 着地し、さらに後方へ。

「くく、よく逃げるな」

 鎧が嗤う。

 はっ、はぁっ!

 飛びすさりながら、鎧を一瞥する。

 この棘は、間違いなく奴の攻撃だ。

 しかし、術式詠唱をしている気配はない。

 これが奴の、あの鎧の能力か……。

 間違いない。

 あれは、ハインラート伯爵のエーレクライトだ。

 鉤爪のエーレクライトは、腕組みしながら回避を続ける俺を見据えている。

 髪を振り乱して回避を続けながら、俺は必死に考える。

 このままではダメだ。

 ……反撃しなければ!

 俺は大きく左に飛んでから、身構える。

 そして次の棘を、俺は再び大跳躍すると見せかけて、身を捩り、最小限の動きでかわした。

「はっ……これでっ!」

 俺は円錐形の棘にカツンとライフルの銃口を当てた。

 すかさずトリガーを引く。

 銃身が震える。

 極至近距離より放たれた小銃弾が、黒の棘を引き裂いた。

 ズタズタにされた黒い帯は、円錐形から形を崩し、床に溶けるように消えた。

「はっ、はっ、はっ……」

 俺はこの隙に、すかさずエーレクライトに銃口を向けた。

「ふふ、なかなかやるな」

 鎧は、低くくぐもった声を上げた。

 俺に銃口を向けられているにも関わらず、鉤爪のエーレクライトは腕組みをしたままだった。

「ハインラート伯爵。お前が騎士団の一員だという事はわかっている。大人しく軍警に出頭しろ」

 俺は鋭く警告しながら、エーレクライトとの間合いを計る。

 特殊能力のあるエーレクライトといえども、装甲の間に銃弾を撃ち込めば十分に倒せる相手なのだ。

 ルストシュタットの古城で遭遇した巨大なエーレクライトにだって効いたのだ。

 ハインラート伯爵の鎧は、あのディッセルナー伯爵の鎧よりも随分華奢だ。

「ふむ。良く見れば可憐な少女か。ふむ」

 鎧がガシャリと金属音を上げて一歩踏み出す。面防の奥の視線が、俺をじっと凝視しているような気がした。

「その玩具を捨てよ。そうすれば、命は助けよう」

 俺を威嚇する様に腕の鉤爪を広げてみせるエーレクライト。

 俺は今、窓を背にしている。

 伯爵のエーレクライトは、執務室の出入り口を背に立っている。

 仮に逃げるにしてもアオイと合流するにしても、あのエーレクライトは突破しなければならない。

 しかし……。

 俺はライフルを握る手を一瞬緩め、再びぎゅっと握り締めた。

 未だ騎士団やテロ計画に関する情報を、十分に手に入れたとはいえない。

 ならば、まだここで引くわけにはいかない……!

「投降しろ、伯爵!」

 俺はトリガーに指を掛けて叫んだ。

 鉤爪のエーレクライトは、しかしおどける様に腕を大きく広げた。

「ふむ。ならば遊ぶか、少女」

 エーレクライトは、俺に向かって手のひらを差し向ける。

 俺はキッとその無機質な面防を睨みつけ、床を蹴った。



 照準。

 トリガー!

 3点バースト射撃。

 連続2回!

「slullg wgeg trace」

エーレクライトが前面に防御場を展開する。

 弾かれる銃弾。

 俺は目を細める。

 ハインラート伯爵は普通に詠唱を行い、防御場を張った。

 あの鎧には、防御機能は無いようだ。

 ならば、至近距離からのフルオートで防御場を突破する。

 俺は姿勢を低くして加速する。

 俺と鎧の間には、強化された脚力なら一瞬で肉迫出来る距離しかない。

 間合いを取る様にエーレクライトが後退した。執務室の出入り口の前まで。

 そしてすっと鋭い鉤爪が生えた人差し指を、俺に向けた。

「わ、わっ!」

 追撃しようとしていた俺は、その瞬間激しく転倒してしまう。

 左肩を強かに打ち付けてしまった。

「うきゅっ……」

 思わず苦悶の声が漏れる。

 肩を襲う激痛に顔をしかめながら、俺は足元を見た。

 顔をしかめる。

 俺の右足には、先ほどの黒い帯が巻き付いていた。

 くっ!

 俺は即座に起き上がり、黒い帯に向かってトリガーを引く。

 弾丸はあっさりと帯を引き裂き、霧散させた。

 俺は再び顔を上げエーレクライトを睨みつけると、ギリっと奥歯を噛み締めた。

「くっ……」

 俺の周囲の床から、今まさに無数の黒い帯が生えつつあった。

 その一本一本がまるで意志を持っているかの様に蠢き、鎌首をもたげた蛇の様に俺の方を向く。

 どう対処するか。

 そんな事を考えている余裕はなかった。

 すぐに黒い帯が襲い掛かって来る。

 今度は棘を形作って突き上げてくるのではない。

 帯状のまま、俺に向かって巻き付いて来るのだ。

 再び足に巻き付かれる。

 しかし即座にライフルで撃ち抜く。

 俺は後退しながら、さらに襲い来る黒帯を迎撃する。

 黒帯の一本ずつは大した事はない。2、3発も浴びせれば、簡単に消滅させられる。

 しかし厄介なのは、その数だった。

 俺と鉤爪のエーレクライトの間に、無数とも言える黒帯が蠢いていた。撃ち貫いても、次から次へと生えてくるのだ。

 エーレクライトが俺を指差し、手首を捻った。

 その瞬間、複数の黒帯が同時に俺に襲い掛かって来た。

 俺はフルオートでトリガーを引き、弾幕を形成しながら後退する。

 弾切れだ。

 弾倉を落とす。

 その間にも襲い来る黒帯。

 俺はレッグホルスターからハンドガンを引き抜き、発砲する。

 ハンドガンを仕舞いながらさらに後退し、新しい弾倉をライフルへと装填する。

 しかしその間に、俺は窓際まで追い詰められてしまっていた。

 ……くっ。

 幸いにも、棘状態と違い、帯状のそれは巻き付かれたからといって即ダメージを負うものではない。

 ならば、突破だ……!

 俺は襲い来る帯を身を捻って躱し、そのまま前方へ大きく跳躍した。

 鉤爪のエーレクライトに向かって!

 着地。

 迫る帯群を迎撃する。

 身を捩り、回避しながら5.56ミリ小銃弾をバラ撒く。

 そして再び跳躍。

 強化された俺の跳躍力なら、このまま黒帯に捕られずに行ける!

 そう思った瞬間。

 ライフルを保持した俺の腕に、ぐるりと黒帯が巻き付いた。

 しまった!

 とっさにハンドガンを抜こうとしたが、そちらの腕にも黒帯が巻き付いた。

 なっ!

 俺を絡めた黒帯は、警戒していた床から伸びて来たのではない。

 天井から生えていたのだ。

「くく、捕まえたぞ、小娘」

 鎧が嗤う。

 黒帯は、捕らえた俺をぐるぐると振り回し始める。

 そして十分に勢いをつけ、そのまま壁に投げつけた。

「かはっ……!」

 激突。

 視界が明滅する。

 全身に走る衝撃。

 息が出来ず、一瞬遅れて体がバラバラになりそうな激痛が全身を駆け抜ける。

 俺はそのまま床の上に崩れ落ちた。

 はっ、かはっ、はっ、はっ……。

 そこへさらに、黒帯が巻き付いて来た。

 今度は左足に。

 俺は再び持ち上げられ、宙吊りになる。

 再び俺を振り回し始める黒帯。

 黒帯を断ち切ろうとトリガーを引くが、不安定な体制からの射撃では当たらない。

 僅かな浮遊感の後、今度は本棚に激突する。

 本棚のガラス戸が砕け散る。

「くっ!」

 顔をしかめる。

 しかし今度は、上手く受け身を取る事が出来た。

 俺は唇を噛んで痛みに耐える。

 このままではダメだ……。

 俺は歯を食いしばりながら周りを見渡した。

 俺が激突した本棚の隣には、先ほどエーレクライトが現れた隠し通路が口を開けていた。

 うずくまりながら、俺は一瞬その隠し通を睨みつける。

 俺を本棚にぶつけた黒帯は、しかしそのまま俺を離さず、さらには太ももや胸にも巻き付いて来た。

 胸がむにっと潰される。

 俺は身動きが取れない風を装い、タイミングを計る。

「くくくっ」

 鉤爪のエーレクライトが余裕の笑みを浮かべる。

 その瞬間。

 今だ!

 俺はばっと身を起こし、ライフルで黒帯を断ち切った。

 そして、全力で跳躍する。

 本棚の間の隠し通路の中へと。

「小娘、貴様!」

 ハインラート伯爵が声を上げた。

 俺はそのまま身を翻すと、薄暗い通路の奥へと走った。



 はっ、はっ、はっ。

 薄暗い通路を進んでいると、背後からガシャンガシャンと金属音を上げ、鎧が俺を追って来るのがわかった。

 エーレクライトに、先程までふんぞり返っていた余裕はなさそうだ。その様子からも、俺がこの隠し通路の先に行ってはマズい事がわかる。

 この先には、何か騎士団に関わる重大な情報があるのかもしれない。

 俺は振り返り、追跡してくるエーレクライトに向き直る。そしてライフルを構えてフルオート射撃を浴びせる。

 防御場に弾かれたのか、銃弾が跳弾している音が聞こえた。

 俺は再び通路の奥に向かって走りながら、弾倉を交換する。

 通路の両側には、アンティークなランプが並んでいた。しかし光源としては弱々しく、都会の高層ビルの中というよりも、まるで古い城の地下にいる様な錯覚に襲われる場所だった。

 その通路は直ぐに終わり、広い部屋に突き当たる。

 そこで俺は、はっと息を呑んだ。

 やはり弱い光にぼんやりと照らし出された室内には、ずらりと甲冑が並んでいた。

 まさか、エーレクライト……!

 さっと銃口を向ける。

 しかし鎧は動かない。

 俺はライフルに装着したフラッシュライトを点灯させ、改めて周囲を見回した。

 良く見てみると、左右の壁際に列を作ってずらりと並ぶ鎧は、胸甲と兜だけだった。全て同じ意匠の物が、ずらりと並べられている。

 その簡易鎧の胸には、獅子と鷲をあしらった騎士団の紋章が見えた。

 そうか……。

 軍警オーリウェル支部襲撃事件の夜を思い出す。

 あの時俺たち軍警部隊が対峙した魔術師は、簡易版エーレクライトと呼べるような胸甲だけの鎧を身に付けていた。

 さらにゲオルグの屋敷を襲撃した白仮面も、このような鎧を身に着けていた。

 即ちここにあるのは、 ハインラート伯爵の手下の戦闘装備という事か。

 ジーク先生が胸甲の魔術師を率いてオーリウェル支部を襲撃した様に、あの鉤爪のエーレクライトがこの簡易鎧を装備した魔術師を率いるのだろう。

 俺はライフルを握る手に力を込めた。

 その時、俺の周囲からゆらりと黒帯が生えた。

 追い付かれた……!

 俺はさらに部屋の奥に跳ぶ。

 短くトリガーを引き、迫る黒帯を粉砕する。

 俺の直ぐ近くに生えた黒帯が、数枚絡み合って厚い帯を作り出す。

 鞭のようにしなったそれが、俺を打ち据えようと迫って来た。

 俺は左に飛んで回避する。

 回避した筈、だった。

「え?」

 ガクンと体が重くなり、跳べない。

 次の瞬間。

 俺は右肩に猛烈な衝撃を受け、吹き飛ばされた。

 呆然としたまま、俺は宙を飛ぶ。

 自分でもスローモーションになっているのではと思える様な滞空時間の後、俺は大きなデスクの上に落下した。

「うっ、かはっ!」

 デスクの上にあったパソコンや書類、本や様々な雑品を巻き込み、俺はデスクの反対側に転がり落ちた。

「ぐうっ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 俺は慌てて大きなデスクの影に身を隠す。

 激痛で荒くなる息を何とか抑えようと試みる。

 ……そうか。

 俺は激痛の走る右肩を押さえた。

 信じたくはないが、このタイミングでアオイの身体強化術式が切れたのかもしれない。

 ……くっ。

 俺はぎゅっと唇を噛み締めた。

 情けないが、身体強化がなければ、あの無数の黒帯をかわせる自信はない。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 俺は周囲を見回す。

 何か、何かないか……。

「小娘。どこだ。こんなところに逃げ込むなんて、悪い子だ。お仕置きしなくてはな。くくく……」

 黒帯で俺を捉えた手応えがわかっているのか、鉤爪のエーレクライトは余裕の口調を取り戻していた。

 奴はまだ俺を見失っている様だが……。

 俺はエーレクライトの方を窺おうと身を起こした。

 その時、ライフルの先がカチっと何かにぶつかった。

 先ほど俺が巻き込んで倒してしまったパソコンの本体だ。

 よく見ると、USBが刺さっている。

 俺はさっとそれをマガジンポーチにしまった。

 とりあえず今は、あのエーレクライトを何とかしなければならない。そして、出来ればこの部屋も何とかしておかなければ。

 ここを潰せば、少なくとも幾らかの騎士団の戦力を削ることが出来る。

 ガシャリとエーレクライトの足音が近づいて来る。

 俺は手早く装備を確認した。

 スタングレネードはあと3つ。フラググレネードは4つ。弾倉はまだ3つある。

 これで何とかするしかない。

 ふうっ……。

 俺は深く息を吐き、一瞬だけぎゅっと目を瞑った。

「出てこい、小娘」

 暗闇にハインラート伯爵の声が響く。

 俺はポーチからスタングレネードを取り出した。

 安全ピンを抜き、デスクの下からさっと転がす。

 エーレクライトの足元に向けて。

 そして俺は耳を塞ぎ、目を瞑った。

 その刹那。

 盛大な炸裂音が響いた。

 そして激しい閃光が、暗闇に慣れたエーレクライトの目を眩ませている筈だ。

「ガアアアアアアァァァァ! 小娘ぇぇ! 貴様ぁぁぁ!」

 エーレクライトが絶叫する。

 同時に俺は、デスクの影から身を踊らせた。

「slullg wgeg trace ghqle!」

面防を押さえながらも鉤爪のエーレクライトが展開したのは、防御場の術式だった。それも鎧の全身を囲む広範囲術式だ。

 目眩ましの隙に俺が攻撃を仕掛けてくると思ったのだろう。

 しかし。

 攻撃はしない。

 今は。

 その代わり、お土産を置いていく。

 俺はエーレクライトの脇を走り抜ける。

 身体強化術式に慣れてしまった感覚では、やはり自分の動きが遅くなってしまった様に感じてしまう。

 それでも俺は、必死に走る。

 部屋の出口に辿り着くと、俺はフラググレネードを取り出した。

 ピンを抜いたグレネードを2つ同時に、胸甲鎧の列に向かって投げつける。もう一方の鎧群にも、同様にグレネードを2つ投げておく。

 そして俺は、隠し通路をダッシュで駆け戻った。

 直ぐに背後で、爆音が膨れ上がった。

 僅かな時間差で、さらなる爆音。

 建物全体が震える。

 天井からパラパラと塵が落ちてきた。

 隠し通路を出た俺は、ハインラート伯爵の執務室に転がり出た。このままアオイと合流するため、俺はさらに執務室も飛び出した。

「いたぞ、侵入者だ!」

 その瞬間、目の前に赤く燃え上がった炎の塊が現れる。

 火炎弾!

 俺はとっさにライフルを振り上げ、トリガーを引く。

 黒帯の直撃を受けた肩が、ずきりと痛んだ。

 迎撃。

 2つを撃ち抜く。

 しかし、その後ろから迫る3つ目には間に合わなかった。

 一瞬、こちらを指差す魔術師の顔が見えた気がした。

 お腹と胸に衝撃が走る。

「うぐっ、あああっ……!」

 痛みを感じる暇もなく、俺は火炎弾に弾き飛ばされた。

 ざっと床を滑り、執務室内に戻される。

 直ぐに体勢を立て直さなければ……。

 敵が来る!

 俺は起き上がろうとするが、直撃を受けたお腹と胸に激痛が走った。

「けほっ、けほっ、けほっ……」

 俺は激しく咳き込んでしまう。

 ぐうっ……。

「仕留めろ!」

「賊はこっちだ!」

「行け、行け!」

「お前、うわぁぁぁぁ! ご、がはっ!」

 声が近付いて来る。

 俺は何とか身を起こそうとする。

 せめて銃口を敵に向けるくらいは……。

 カツンと足音が響いた。

 俺は唇を噛み締める。

 くっ……。

 キッと睨み付ける俺の視界に、黒いマントがひるがえった。

「ウィル!」

 執務室に飛び込んで来たのは、敵魔術師ではなかった。

 アオイだ!

 アオイは悲壮な顔をして、倒れたままの俺に走り寄って来た。

「……アオイ」

 その名前を口にした途端、俺は全身から力が抜けるのがわかった。

「表の敵は……」

「倒したが、どうしたのだウィル! 怪我をしているではないか!」

 アオイがしゃがみ込み、俺の体をペタペタと撫で回す。そして即座に回復術式を掛けてくれた。

 鈍い痛みが消え、体の奥が温かくなった。

「アオイ、エーレクライトがいる」

 片目を瞑りながら身を起こし、俺は隠し通路を見た。グレネードの爆発だけで奴を倒せたとは思えない。

 アオイがさっと眉をひそめた。

「離脱するぞ、ウィル」

 今度は俺が眉をひそめる。

「いや、でもまだ……」

「ダメだ」

 まだ情報収集が終わっていない……。

 しかし俺の抗議など無視し、バッとマントを広げたアオイは俺をその中に包み込んだ。俺は何とかそのマントから抜け出そうとしたが、アオイはガシッと俺を抱き締めてしまう。

 右肩がズキリと痛んだ。

 傷はまだ完治していない様だ。

 俺が痛みに耐えている隙に、アオイが転移術式の詠唱に入る。

 そして俺とアオイは、ハインラート伯爵の拠点から離脱した。



 ヴィンデンラント郊外。

 朝の陽光にキラキラと輝く街を一望出来る小高い丘。その上に作られた駐車場の片隅に、真っ赤なスポーツカーが停車していた。

 その運転席のシートに身を預けた俺は、目を瞑って小さく息を吐いた。

 助手席に座ったアオイが、こちらに身を乗り出して治癒術式を掛けてくれていた。

「ウィル。あまり無茶をしてはいけない」

 怒った様なアオイの声。

「……ごめん」

 俺は小さく呟いた。

 アオイの治療術式が体中の痛みや裂傷を消してくれる。しかし直ぐに完璧に治癒する筈もなく、特に直撃を受けた右肩と胸には未だ鈍痛が残っていた。

 ハインラート伯爵の拠点から転移術式で撤退し、この車に戻って来てから、アオイはずっと怒っていた。

 もちろん原因は、単独でエーレクライトに向かって行った俺の無謀な突撃だ。

 今冷静に考えれば、俺も少しやり過ぎてしまったかなという反省はあった。しかし同時に、もう少し粘れば何か重大な手掛かりを得られたのではという後悔もあった。

 俺は眉をひそめ、じっとフロントガラスを睨み付ける。

「ウィル。馬鹿な事を考えてはいけない」

 一旦治療を終えたアオイが、助手席に戻りながら俺の顔を睨んだ。

「ありがとう、アオイ。痛みは消えたよ」

 俺はにこりと笑顔でお礼を言うが、アオイは俺を睨んだままだった。

 ……わかっている。

 一度襲撃を受けたハインラート伯爵は、今や厳戒態勢を敷いているだろう。

 先ほどの様な奇襲はもう通用しない筈だ。

 さらには、めぼしい情報は既に始末されている可能性も高い。

 再度侵入、情報収集するというのは難しいだろう。

 俺はそっとマガジンポーチを押さえた。

 咄嗟に持ち出したこのUSBと騎士団の紋章の入った幾通かの手紙。

 確保出来たのはこれだけだが、ここから何かが分かれば良いのだが……。

 俺は軽く息を吐き、腰のポーチから騎士団の紋章の入った手紙を取り出した。

 しわくちゃになってしまったそれに、俺はさっと目を通した。

 これは……。

 俺は眉をひそめて再び文面を追った。

 明確な個人名や具体的目標は出てこないが、どうやらこの手紙は、上役からハインラート伯爵が率いる魔術師部隊に対する命令書の様だった。

 ……む。

 代名詞が多く、さらには古めかしい言い回しも多くて、直ぐには内容が読み取れない。

 しかし、手紙の最後の文章に目が吸い寄せられる。

 卿らの隊はいかなる場合においても、重打撃を与え得る装備にて、事前通告の通り首都に参じよ。我らが悲願たる時に、卿らの力が遺憾なく発揮せらるるを期するものなり。

 首都に参じる……。

 首都、オーヴァル。

 奴らはどうやら、首都を集結地点にしている様だ。

 それが次なる段階のテロ攻撃の準備を指すのかはわからない。しかしこの手紙は、奴らの関心が明らかに首都に向いている事を示している様に思えた。

 もしもこの推測が正しかったとしたら……。

 俺は目を見開いて、さらなる情報はないかと再び手紙を読み直し始めた。

「ウィル」

 隣からアオイの声がする。

「……ん」

 かなり間が開いてから、俺は返事した。

 手紙を読みながら。

 その瞬間。

 横から延びてきたアオイの手が、ばっと手紙を奪い去った。

「アオイ、何を……おむ」

 アオイの方を向いて抗議しようとした瞬間、むにっとほっぺたを押される。

 突然の事で俺が目を丸くしていると、なおもアオイは俺の頬を人差し指でぐにぐにと押してきた。

「アオイ」

 俺はその指を握って捕獲しながら、アオイを睨んだ。

「ウィル。少し休んだ方がいい」

 アオイは、少しだけ眉をひそめながら俺を見た。

「この街を離れたら、少し仮眠を取った方がいい。昨夜から動き続けているのだから」

 アオイが手紙を返してくれる。

 確かにその通りだが、今は眠くはない。それよりも、騎士団の情報を確認して……。

「ウィルは十分頑張っている。ウィルがそれ程気負う事はないんだ」

 アオイが今度は優しく声を掛けてくれた。

「魔術で人を苦しめる騎士団は許せない。さらに、あの不埒な男を捕らえるのも重要だ。それは、私も承知している。今が切迫した状況だという事もな。しかしそれよりも、だ」

 アオイが再び身を乗り出し、俺の太ももに手を置いた。

「ウィルは私のたった1人の家族なのだ。妹が傷付いて悲しまない姉はいない。ウィルにもしもの事があったら、私は……。だから、あまり無茶はしないで欲しい」

 すっと細まるアオイの目。

 その中に宿る光が、微かに揺れていた。

 俺は、その目を見てドキリとしてしまう。

 家族。

 そうだった。

 家族が家族を想うのは当たり前の事なのだ。

 アオイに心配を掛けている申し訳なさが、胸の奥で膨れ上がる。しかし同時に、家族と呼ばれる気恥ずかしさで、何だかむずむずとしてしまった。

 俺は意識して無表情を保つ。

 気を抜くと、何だか間の抜けた表情になってしまいそうだったから。

 そして俺は、ごほんと咳払いをした。

「そう、だな……」

 俺は横目でアオイを見る。

「……うん。アオイの言うとおりにする」

 アオイがじっと俺の顔を見る。

 見つめられると、胸の内が見透かされている様で、だんだん顔が赤くなってしまうのがわかった。

 む、むう……。

「ウィル」

 俺の名を呼ぶアオイの声は、必死に笑みを押し隠している様だった。

「ウィル」

 ちらりとアオイの方を見ると、アオイがポンポンと自分の太ももを叩いていた。

「休むなら、姉が膝枕してあげよう。ささ、ささ」

 俺は大きく長く息を吐いた。

「……バートレットに連絡する。一旦オーリウェル方面に戻りながら、どこかで落ち合おうと思う」

 俺はキーを回してエンジンを掛けた。重く低いエンジン音が轟いた。

「どこかで俺も休むから、アオイも今の内に休んでおいてくれ」

「ふっ、照れなくてもいいのにな」

 アオイが不満そうな声を上げた。

 俺は今度は短くため息を吐いてから、バックにギアを入れた。そして後ろを見ながらアクセルを踏み込む。

 車がゆっくりと動き出した。

「ウィル。大丈夫だ。大丈夫。焦らずにいこう」

 アオイが優しく静かな口調で呟いた。

「……うん」

 俺は後ろを見てハンドルを切りながら、短く返事をしておく。

 前を向き、ギアをローに入れ直す。

 そして俺とアオイは、ゆっくりとオーリウェルへの帰還の途に付いた。



 ヴンデンラントからオーリウェルへの道のりは、特に問題もなくスムーズだった。

 それでもオーリウェルは遠い。

 アウトバーンを全力で飛ばしても、オーリウェル近郊に戻って来たのは昼過ぎになってしまった。

 もちろん途中で仮眠を取っていたのも、時間が掛かった原因なのだが……。

 アオイの転移術式で戻ればさらに時間短縮出来たかもしれないが、オーリウェルとヴンデンラントは離れすぎていた。いかに慣れ親しんだオーリウェルの強固なイメージを目的地に出来たとしても、超長距離の転移はかなり精度が落ちるらしい。

 さらに魔素の負担や安全面でも問題があるという事だったので、俺たちはそのまま車で帰る事にしたのだ。

 オーリウェル近郊に到着すると、俺とアオイはバートレットたちと接触した。

 俺たちが確保した情報を伝え、騎士団の手紙やUSBなどの証拠品を引き渡す為だ。

 あらかじめ約束していた人気のない森林公園の駐車場に、真っ赤なスポーツカーと軍警公用車の黒塗りのセダンが並ぶ。

 バートレットとアリスはスーツとコート姿だったが、当然ながら俺は戦闘装備のままだ。

 無数の擦り傷や火炎弾を受けて僅かに焦げた俺の戦闘服を見て、アリスは絶句していた。しかしバートレットは、特に何も尋ねてこなかった。

 バートレットは俺の差し出した騎士団の手紙にさっと目を通し、俺と同じ結論に達した様だった。

「狙いはやはりオーヴァルか。オーリウェルや他の街を襲撃したのは、こちらの注意を逸らす陽動だったという訳だな」

 バートレットが伸び放題の無精髭の顎を撫でた。

「精査は必要だが、これで軍警の主力を首都に集結させる根拠が得られるかもしれん」

 バートレットがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 俺ははらりと落ちて来る髪を掻き上げて耳に掛けながら、コクリと頷いた。

「……ウィルちゃんは、まだ捜査を続けるのかね」

 バートレットが俺の顔を見て、それから俺の全身を見た後、ふっと笑みを消してそう尋ねて来た。

 もちろん俺は、即座にコクリと頷いた。

 しかし……。

 俺はそっと目を伏せる。

 次の騎士団の目標が首都であるならば、ジーク先生もそちらに現れる可能性が高い。さらに、ジーク先生の事だけでなく、実際に何かが起これば放ってなどおけない。

 テロの事前抑止活動や騎士団の制圧はもちろん、被害者の支援や避難誘導など、俺に出来る事もある筈だ。

 オーリウェルでじっとしている訳にはいかない。

 俺も、首都を目指さなければならないのだ。

 しかし、首都オーヴァルはヴンデンラントよりさらに遠い。

 アオイの転移術式を頼る事は出来ないだろうし、また車を飛ばして行くしかないか……。

「……ウィルちゃん」

 俺はバートレットの声に顔を上げた。

 バートレットは俺の顔をじっと見つめていた。

 ……む?

「俺たちは一度支部に戻って、他支部の捜査状況も含め、情報を整理する。結果はまた連絡してやるから、それまでは待機してくれないか」

 俺は少し驚きながら、頷いた。

 それはこちらからもお願いしようとしていた事だ。バートレットから積極的に教えてくれるとは思わなかった。

 バートレットは俺の肩をポンポンと叩くと車に戻って行った。

 バートレット、アリスと別れた俺とアオイは、一旦お屋敷に帰る事にした。

 食事をしてお風呂に入って、仮眠を取る為だ。

 もちろん本当は今すぐにでも首都に向かいたいところではあるが、アオイから無理はダメだと再び怒られてしまったのだ。

 それに、バートレットからの連絡も待たなければならない。

 お屋敷に戻ると、早速アオイの帰還に喜ぶレーミアに軽食を用意してもらった。

 食事を終えると、俺はお風呂に入った。

 お風呂は大事だ。

 寒い季節とはいえ、戦闘で激しく動いたのだ。全身たっぷりと汗をかいていた。少しベトベトして気持ち悪かったのだ。

 アオイも一緒にお風呂に入った。

 何でも、治癒術式の効き目を確認し、俺の体に傷が残っていないか確かめるためだそうだ。

「ひゃぁ」

 アオイが脇腹や胸の下を撫でるから、思わず変な声が出てしまった。

 風呂から出ると自室に戻った俺は、Tシャツ短パン姿で髪を乾かす。お屋敷の中は暖かいから、こんな軽装でも問題なかった。

 髪が乾くと、タオルを首に掛けたまま、俺はぽすっとベッドに横になった。

 自覚はなかったが、やはり疲れていたのだろう。

 一瞬にして睡魔が襲ってくる。

 眠りの淵に落ちながら、俺はぼんやりと考えていた。

 騎士団。

 ジーク先生。

 鷲のエーレクライト。

 倒れ伏す人々。

 凄惨なテロ現場。

 父さんや母さん、それに姉貴。

 俺の家族。

 グラム分隊長やΛ分隊のみんな。

 そしてアオイ。

 ふわりと柔らかく笑ったアオイが、俺に手を差し伸べて来る。

 俺はそっとその手を取ろうとして……。

 ぱちりと目を開いた。

 顔のすぐ近くにあった携帯が鳴っていた。

 俺は慌てて電話に出る。

『ミルバーグだ。ウィルか?』

 電話から流れてくる低い声に、俺はむくりと起き上がり、ベッドの上で正座した。

「は、はい、ウィルです。お疲れ様です」

 てっきりバートレットからの電話だと思っていた俺は、内心少し驚いてしまう。

『バートレット捜査官から話は聞いた。頑張っているそうだな』

 ミルバーグ隊長の言葉にドキリとしてしまう。

 軍警の任務でもないのに色々と勝手に動いた件を咎められるのかと、俺は身を固くした。

『軍警は、各支部から選抜された部隊を首都に集結させる事にした。2時間後、俺も隊を率いて首都に行く事になった』

 しかしミルバーグ隊長からは何のお咎めもなく、代わりに飛び出した重要情報に、俺は電話を握りる手に力を込めた。そして、バートレットの言葉に集中する。

 俺が得た情報だけで首都集結が決まったにしては、軍警の動きが素早すぎる。元々軍警は、騎士団のターゲットが首都であるという情報を掴んでいたのかもしれない。

『ウィル。協力する気はあるか?』

「えっ……?」

 完全に予想していなかったミルバーグ隊長の言葉に、俺はぽかんとしてしまう。

『お前とエーレルト伯爵は、なかなか良いコンビらしいな。人手はいくらあっても足りない。もしお前たちにその気があるなら、輸送機のシートに2つ空きが出来る。どうだ?』

 俺はとっさに返事出来なかった。

 もちろん俺は、何とか首都に行くつもりではあった。

 しかし軍警部隊と一緒に行動など……良いのだろうか。

 シュリーマン中佐の拒絶の言葉が頭を過った。

『もちろん、正規作戦に加える訳にはいかない。シュリーマン中佐にも内密の事だ』

 ミルバーグ隊長は黙り込む俺が考えている事を察してくれたのか、俺の疑問に先回りしてそう答えてくれた。

『ウィルが作戦部から弾かれ、刑事部から待機を命じられているのも知っている。しかし』

 ミルバーグ隊長はそこで少しだけ言葉を切った。

『それでも騎士団と戦おうとしているのも知っている。バートレット捜査官からも色々と聞いた。お前の事を高く評価していたぞ』

 ミルバーグ隊長……。

 バートレット……。

『ならば、ウィルがそこまで頑張っているんなら、協力したいと思うのは、仲間として当然の事だとろう?』

 お前みたいな女の子にばかり戦わせておく訳にはいかんからなと、ミルバーグ隊長が笑った。

 胸の奥が、ぽっと温かくなった。

 嬉しかった。

 ただ単純に、ミルバーグ隊長に仲間だと言ってもらえた事が嬉しかった。

 ……まぁ俺は、ただの女の子とい訳ではないのだけれど。

 口元が震え、視界が潤みそうになる。

 それを必死にこらえて、俺は携帯を耳に当てながら俯いた。

 そしてそのまま、ふわりと微笑む。

 俺には心配してくれる家族もいるし、気に掛けてくれる仲間もいるのだ。

「ミルバーグ隊長」

『ああ』

「行きます。首都に! 一緒に行かせて下さい!」

 俺は顔を上げて、キッと前を見た。


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