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Hexe Complex  作者:
2/85

Order:2

 爆発の炎の中に佇む黒衣の魔女。

 響き渡る術式成句と魔術の発現たる光。

 ひんやりと冷たい枕に顔を埋めながら、俺はあの夜の事をぼんやりと思い出していた。

 魔女との邂逅。

 その後の事は、全く覚えていない。

 何がどうなったのか。

 グラム分隊長や分隊のみんなはどうなったのか。

 術式陣を発動させて自爆した魔術師。

 あの爆発の中で、みんなは無事なのだろうか?

 ……いつまでも寝ている訳にはいかない。

 取り敢えず隊と連絡をつけなければ。

 俺はゆっくりと体を起こす。

 体全体の違和感はまだなくならないが、動く分には問題ないようだ。

 上半身を起こし、ふっと息を吐く。

 視界に、はらりと髪が落ちてくる。

 む……?

 俺は思わず固まってしまう。

 ドキリと胸が高鳴る。

 これは、誰の髪だ?

 視界に落ちてきた一房は、赤み掛かった金髪。さらさらと絹糸のように俺の手からこぼれていく艶やかなストロベリーブロンドだった。

 俺は、もともと黒髪短髪だ。

 こんなに髪が伸びるまで昏倒していたのか?

 いやいや。

 首を振ると、さらさらした髪がなんの抵抗も無くふわりと広がり、そしてもとの位置に治まってしまった。

 慣れない感覚に、内心の動揺がさらに大きくなる。

 それに、もう一つ気になるポイントを見つけてしまった。

 起き上がった自分の体。

 気のせいか、体積が半分くらいになってしまったような気がする。

 激やせして体が縮む程長い間昏倒していたのか?

 いやいや。

 ……ダメだ、思考がループしている。

 それに、痩せた割には病着の胸を突き上げている膨らみが2つ。

 そっと触れてみる。

 ふにっと指先が飲み込まれるような柔らかい感触。

 ……胸?

 これじゃまるで女みたいな……。

 ベッドの上で体を起こし、自分の胸に触れたまま、俺は完全に思考停止に陥っていた。

 目を見開き硬直した俺の頬を、一筋の冷や汗が流れ落ちていく。

 もう、頭の中が真っ白だ。

 そこへ、控えめなノックの後、ガチャリと病室のドアが開いた。

 俺ははっとして、慌てて手を引っ込める。何か猛烈な後ろめたさが湧き上がって来る。

 平静を装い、目だけで音のした方を窺うと、先程の看護婦と医者らしい白衣の女性が入って来るところだった。

「気分はいかがですか?」

 白衣の女医がベッドサイドに腰掛け、笑い掛けてくる。

「えっと、私はこの病院の医師メアリ。お嬢さん、お名前は?」

 メアリ医師の優しげな笑みを、俺は呆然と見つめ返す。

 ……お嬢さん。

「大丈夫? まずはあなたのお名前を教えてくれないかしら?」

「俺は……」

 口を開くが、俺の喉から発せられるのはまるで少女の声だった。

「俺は、ウィルバート・アーレン。軍警オーリウェル支部ミルバーグ隊Λ分隊所属です。先生。状況を教えていただきたいのですが……?」

 俺の訴えに、しかしメアリ先生は少し困ったような笑みを浮かべるだけだ。

 先生は黙って俺の脈を取ると、そっと頷く。

「少し待っていてね」

「先生……!」

 鈴の音のような自分の声。その声に。俺は顔をしかめる。

 するとメアリ先生は、ふふっと微笑むと俺の頭を優しく撫でた。

 ……なんなんだ、この扱いは。

「大丈夫。そんなに心配しないで。私たちがついてますから」

 まるで子供を落ち着かせるためのような優しい声音。

 俺は少し恥ずかしくなってしまい、憮然と沈黙するしかなかった。



 一旦病室を出て行ったメアリ先生は、直ぐに別の人物を連れて戻って来た。その顔を見て、俺は思わずベッドの上で身を乗り出してしまった。

 俺の病室にやって来たのは、サイドに青のラインが入った黒色のズボンに左胸に階級章が輝く同色のジャケット。チャコールのシャツにライトグレーのネクタイを締めた大柄の男だった。

 口髭を生やしたその制服姿は、見紛う筈もない。

 俺たちの隊の隊長、ミルバーグ中尉だった。

 隊長の刺すような鋭い眼光が俺を射抜く。普段なら射竦められるところだが、俺は「隊長!」と思わず声を張り上げていた。

 厳しい表情のミルバーグ隊長が、ベッドサイドに腰掛ける。そしてしばらくの沈黙の後、低い声で口を開いた。

「お前は誰だ?どうしてあの場に倒れていた?」

 殴り飛ばされたような衝撃が全身を襲う。

 ズキリと胸が痛む。

 俺は思わず身を乗り出して、ミルバーグ隊長の腕を掴んだ。

「自分です、ウィルバート・アーレンです!Λ分隊の、グラム分隊の」

 まだ体の調子が戻らないのか、それともこの体の異変のせいか、力が入らない。

 掴んだ隊長の腕が、まるで鋼の塊のようだった。

 俺は頭を振りながら、さらに身を乗り出した。

「状況が分かりません。自分はどうなってしまったんですか?分隊長は、ワルターは、オルサムは、みんなはどうなったんです?」

 矢継ぎ早にまくし立ててしまったのは、胸の内にくすぶる不安の所為だろう。気が付くと、自分でも言葉が止められずにいた。

 そこで初めて、隊長の表情が動いた。

 口髭を生やし髪を短く刈り込んだ巌の顔が、俺の胸元に視線を落とし、そして困惑の表情を浮かべて視線を逸らす。

 ……何だ?

 俺も自分の胸元を見て、はっとした。

 前で合わせるタイプの病着が、身をよじって激しく動いたせいだろう、少しはだけてしまっている。

 そこから覗くのは白い胸。

 えっと……。

 自分の、だからだろうか。変にドキドキはしないな……。

「中尉さん!」

 メアリ先生が、声を上げて慌てた様に割り込んで来た。

「少しあちらを向いていて下さるかしら!」

「あ、ああ……」

 女医さんの迫力に、隊長は慌てて顔を逸らした。

 病着の胸元を直してくれる先生が、俺に顔を近付けて囁く。

「きっと記憶が混乱しているのね。怖い目にあったのでしょうから当然よね。大丈夫だからね」

 にこりと笑ったメアリ先生は、ミルバーグ隊長を厳しい目で睨んでからまたベッドから離れた。

 なんか俺には優しい。少し不思議な感じだった。

「ウィルバート、か」

 隊長がわざとらしく咳払いをした。

「ならば、お前が知っているウィルバートの事を話してみろ」

 俺を捉える鋭い眼光。

「はい」

 俺は隊長の目を見て頷いた。

 ウィルバート・アーレン。

 年齢22歳。生まれはこの街、オーリウェル。軍警認識番号671377D。

 住所、生年月日、生まれ、出身学校、軍警入隊までの経歴。

 俺は早口になりそうなのを必死にこらえ、自分でも1つ1つを確かめるように話していく。

 そして、家族のことを口にする。

 父に母、姉の話。

 今はもういない俺の家族。その家族を奪った、忌まわしいあの事件の事を……。

 やがて話が軍警の隊員としての活動や他の隊員の話になり始めたところで、ミルバーグ隊長がすっと手を上げた。

「もういい。わかった」

 隊長が顎を引いてメアリ先生を一瞥した。

 それで俺は、はっとする。

 部外者であるメアリ先生や看護婦の前で、軍警の任務内容を語るのは好ましくない。

 隊長が俺の目を見て頷いてくれた。

 ミルバーグ隊長が、改めてメアリ先生に振り返った。

「先生。例のものを」

「わかりました」

 メアリ先生が再び病室を出ていった。そして直ぐにまた戻って来る。先生の腕の中には、大きな四角い鏡が抱きかかえられていた。

「ウィルバート。これから君の置かれた立場を説明する」

 先生から鏡を受け取ったミルバーグ隊長が、徐にその鏡を俺に向けた。

「よく見ろ。これが今のお前の姿だ」

 鏡に俺の姿が映り込む。

 俺は言葉を失った。

 そこにいたのは、困惑した表情を浮かべる少女だった。



 ストロベリーブロンドのセミロングの髪。白い肌に、少しつり上がった大きな目。睫がびっくりするほど長くて、ライトブラウンの大きな瞳を彩っている。小ぶりな鼻に、少しだけ開いた艶やかな桜色の唇。すっきりした顎のラインと細い首筋。

 それは、どう見ても十代半ばの少女の顔だった。

 俺は、俺の意志でそっと頬に触れてみた。

 鏡の中の少女も、頬に手を当てている。

 これが、間違いなく俺の姿なのだ。

 本当の俺の、男の俺の面影など微塵もない。

 改めて自分の両手を見る。

 白く細い指。

 まるで俺の手ではないかのような……。

 声を、髪を、胸を認識した瞬間から、微かな予感はあった。しかし、それは馬鹿げた夢想のようなもので、決して現実になるようなもので無い筈で……。

「すまないが先生。少し外してもらえるかな?」

 呆然としている俺をよそに、隊長がメアリ先生に声をかけた。

「中尉。彼女は目覚めたばかりなのですから、くれぐれも無理はさせないように」

 メアリ先生は隊長を睨み付け、俺には微笑みかけてから、席を立った。

 その背中を見送ってから、ミルバーグ隊長が改めて俺を見据える。

「さて、ウィルバート。あの夜何があったのか、詳しく聞かせてくれ」

 ミルバーグ隊長の静かに低く響く声に、俺は顔を上げた。

 目が合うと、隊長は少し困ったように視線を泳がせたが、直ぐに鋭い視線を向けて来た。

「隊長は、自分がウィルバートだと信じてくれるのですか?」

 しかし俺は、思わずそんな質問を隊長にぶつけてしまった。

 俺は俺だ。

 それは間違いない。

 しかし自分ではない姿、もとの自分からかけ離れたこんな少女の姿を見せられれば、それすら疑ってしまいそうになる。

 俺はなんだ?

 どうなってしまったんだ?

 ミルバーグ隊長は、しばらくの沈黙の後、眉間にシワを寄せて腕組みする。

「お前が俺の隊のウィルバートであることは、間違いない。先ほどはいらぬ質問をしたが、あれは最終確認だった」

 そう言うと隊長は、あの廃工場から現在まで出来事を説明し始めてくれた。

 敵魔術師の自爆により半壊した廃工場。その瓦礫の中で俺は見つかったらしい。どう見てもサイズの合っていないブカブカの戦闘服を身にまとい、気絶していたそうだ。

 身に付けていた認識標などから、装備一式が俺、ウィルバートのものだという事は直ぐにわかった様だが、この少女の姿の俺が誰なのかということは判明しなかった。もちろん、少女がウィルバートの装備を身に着けて倒れているという状況を説明することも、誰にも出来なかったそうだ。

 意識不明の俺は、一旦不審者として拘束されたようだ。しかし、その後の諸検査で、俺がウィルバート自身だという疑いが持ち上がったという。

「バンクに登録されていたウィルバートの指紋データが、お前と一致した。さらにお前の血中から高濃度の魔素が検出されたのだ。それらの事実から、我々はウィルバートが何らかの魔術攻撃を受け、そのような姿になったのではと推察した」

 魔術攻撃……。

 意識を失う寸前、あの魔女が見せた術式の事か。

 今度は俺の方から、あの廃工場に突入してから以降の状況説明を行う。

「ふむ。無線記録とも一致するな……」

 ミルバーグ隊長が重々しく頷いた。

「しかし魔女か。10言成句以上の魔術を操ったとなると、それは大魔術師のカテゴリーだな」

 過去の魔術師が開発した魔術を、魔素の素養があるものなら誰でも使えるように簡略化したものを汎用術式と呼ぶ。簡略化といっても、廃工場で対峙した火球の魔術のように、十分な威力を持っているものばかりだ。

 そういった魔術は、通常1言成句から2言成句。

 10言ともなれば、並みの者では扱えない。

 俺は自分の手をじっと見つめた。

 唇を噛み締める。

 俺の体の中に魔素が流れている。

 それは、俺が女になってしまった以上に衝撃的な事だった。

 不快、と言ってもいい。

 しかし、受け入れるしかないのだろうか。

 押し寄せる現実は理解不能で理不尽極まりないものでも、確かに俺はここにいる。あの時感じた底なしの冷たい暗闇の中ではなく、確かに今、ここにいる。

 隊長はグラム分隊長たちの安否に関しては触れなかった。つまりは、そういう事なのだろう。

 それでも俺は、ここにいるんだ。

 ならば、みんなの為にも前に進むしかないのではないか?

 戦う。

 魔術師と。

 人の命を弄ぶ者と、俺は戦う。

 俺はその覚悟を確かなものにするために、肘を抱きぎゅっと身を固くする。しばらく心の内を落ち着けるように沈黙してから、顔を上げた。

 それでも、やはりこれだけは確認しておきたい。

「Λ分隊のみんなは無事なのですか?」

 気遣うような視線を俺に向けていた隊長の顔から、すうっと表情が消えた。

「Λ分隊は全滅した。お前を除いてな」

 分かっていても、胸が締め付けられる。

 悲しみも喪失感も感じない。

 ただ、胸が痛い。

「ウィルバート」

 その俺の肩に、隊長が大きな手を置いた。

「良く生還した」

 俺は、頷くことが出来なかった。

 


 それから3日間、俺の入院は続いた。

 入院といっても簡単な検査を繰り返すだけだったが、結果は、俺がすこぶる健康体だということが判明しただけだった。

 ……女性として、だが。

 その間もミルバーグ隊長が繰り返し訪ねて来てくれた。

 あの廃工場の一件について、詳しく聞き取りを行うためだ。

 俺の体の件もあったが、軍警ではそれ以上にあの術式陣が問題になっているらしい。

 確かに魔素はまだ充填されていなかった。それなのに、発動した術式陣。

 退院した後には、その件について軍警オーリウェル支部内での聴聞会が予定されていたので、その準備をしておく必要性もあった。

 しかし意外だったのは、隊長が妙に俺に優しく接してくれたことだ。

 ミルバーグ隊長は、軍警に入隊したころから鬼隊長として有名で、対峙する度に緊張を強いられていたものだ。グラム分隊長と違って気軽に話せる間柄でもなかった。ところが、俺の病室を訪ねてくる隊長は、妙に柔らかな視線で俺を見ることがしばしばあった。俺と目が合うと、はっとしていつもの厳しい表情に戻るのだったが……。

 昨日など、果物の差し入れまでしてくれた。

 小さいけれど、バスケットの上に丁寧に盛り付けられ、キチンとラッピングされたものだ。隊長は家にあったあり合わせだと言っていたが、そうではないと思う。ちゃんと店で購入したものだ。

 強面の隊長が果物屋にいる姿が想像出来なくて、俺は思わず微笑んでしまったのだ。

 きっと隊長は、俺に気を使ってくれているに違いない。

 分隊長と仲間たちを一瞬で亡くしてしまった俺に……。

 そうして自分の体にも、自分が置かれた状況にも慣れないまま、退院予定日を迎えた朝。

 今日も俺のもとに隊長がやって来た。珍しく同伴者を連れて。

「やっほ〜」

 大きな隊長の体の後ろから、跳ねるように女性が現れる。その顔を見て、俺はむっと眉をひそめた。

「うっそっ、マジですか、ミルバーグ中尉っ!まるでお姫さまみたいですよ!うおっ、写真、写真!」

 唖然とする俺に、キラキラ輝く視線を向けながら携帯を手に忙しなく動き回る女。

 その頭を、ぐわしっとミルバーグ隊長が掴んだ。

「落ち着け、レイン」

 ふわりとカールしたライトブラウンの髪を短く切り揃え、ブルーのカットソーに白いパンツ姿のこの女、レインを、俺は良く知っている。

 軍警オーリウェル支部の支部事務局付きの事務員だ。これまで事務手続きの関係で、何度も話した事がある。

 良く言えば陽気、悪く言えば落ち着きがない彼女が、俺は少し苦手だった。

「隊長。これは……」

 素足を下に垂らしてベッドに腰掛けていた俺は、きゅっと眉を寄せてミルバーグ隊長を見た。

 隊長がわざとらしく咳をする。

「退院手続きを済ませてから支部に向かう。お前の身支度も色々必要だがろうから、女性スタッフを連れて来たんだ」

 隊長の視線が俺のつま先から頭まで上がって行く。

「さすがにそのまま出歩く訳にはいかんだろう」

 確かに、そうだ……。

 俺は今、薄ピンクの病着姿だった。現場からこちらに運び込まれたので、制服や私服の備えはない。まぁ、例えあったとしても今のサイズに合う服なんてもっていないが。

「はいはーい、じゃあ、早速準備を始めますからね!」

 ミルバーグ隊長が手を離すと、リードから解き放たれた小型犬の勢いで、レインが俺に駆け寄って来た。

「まったくわからないけど、これがあのウィルバートくんなんだねぇ」

 レインは俺の髪に触れながら感慨深げに言う。

 歳が近いせいか、彼女は俺の事をくん付けで呼ぶのだ。

 俺はさり気なく頭を撫でるレインの手を払った。

「……服だけ貰えるか?後は自分で準備する」

 少し不機嫌な調子で言ってみたが、少女の声ではあまり迫力がない。

 それどころかますますレインの笑みが大きくなった。

「大丈夫、あたしに任せなさい、ウィル」

 ……ウィル。

 レインは俺に微笑みかけると、ミルバーグ隊長を振り返った。

「中尉、ささ、殿方は退室してくださいねっと!」

 にっこり笑うレインに、隊長が部屋の外に追いやられていく。

 俺たち隊の若手には厳しい隊長も、レインにはたじたじの様子だった。

 隊長、実は女性に弱いのだろうか。



 きゅっとライトグレーのネクタイを締め、俺は立ち上がった。

 レインが用意してくれた鏡の中の自分を覗き込む。

 黒色のパンツにチャコールのシャツを身につけ、ポニーテールに纏めた髪を黒のシュシュで纏めた少女が、こちらを見ている。

 もちろん、これが俺だ。

 ……思わず頭が痛くなりそうだった。

 俺が身に付けているのは、見慣れた筈の軍警の制服。

 しかしスラッとした足や丸みを帯びた腰のライン。ネクタイの下から膨らむ胸元など、同じデザインなのに普段見慣れたものとは随分と印象が違う。

 正直、人前に出るのが恥ずかしい。

 しかしまぁ、レインが用意してきた他の恥ずかしい服に比べれば、まだましというものだ。

 俺はベッドサイドに転がるレインの紙袋を、忌々しげに睨み付けた。女性の衣服の事など良く分からない俺を、着せ替え人形よろしくさんざん弄んだレインの悪行が、あそこに詰まっている。ここ30分ばかりの体験は、正直もう思い出したくない……。

「そろそろ良いか。行くぞ」

 ノックが響き、ミルバーグ隊長が顔を覗かせた。

「了解です」

 俺は隊長の方に歩み始めた。

 黒のパンプスが、かつりと鳴った。

 こんな姿になってしまった俺は、果たしてどこへ向かうのだろうか。

 読んでいただき、ありがとうございました!

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