合理主義者だったので
これからまた更新していきます。よろしくお願いします。
中は広い場所になっていた。
部屋全体の大まかな形は、円柱に球を半分に切ったものを乗せた形。
その壁を支えるように、わん曲する石の柱が八本ほど空に伸びて、最も高い場所で一つにまとめられている。
その曲線を描く天井は深い濃紺で彩られ、夜空の星々らしきものが散りばめられている。
その星々は金色の輝きを帯びながら光を放っており、その星の中でも特に大きく輝く星を結び、動物?が描かれている。
いわゆる星座というもので、その役目は方角を知るものも含まれる。
つまり何か方向を示す空であり、この場所の存在を明確化する象徴として示されているのだろう。
その星の形は細長く首をもたげた蛇のように見える。
それを見ながらアリアはうーんと唸って、
「首が三つ生えた足のある蛇? 確かそんな魔物も、前にここに入った時に見かけた気はするけれど……ここにある星座は、私の知る限りこの世界のものではないわね。とりあえず撮っておきましょうか」
シオリにアリアは、“魔法映像複写機”を渡してもらう。
四角い紋様の彫られた木枠に、透明なガラスよりも軽い、魔力繊維が幾重にも渡ってはめ込まれており、これの場合は159枚までその場の映像を保存できる代物だった。
とりあえずは、上に広がる星空を撮っていく。
よくよく見れば人らしきものがその怪物に襲い掛かろうとしているものもある。
そしてそれを全てを画像として治めた所で、気づけばシオリが壁に描かれた文字をじっと見ていてた。
「シオリ、あそこに書いてあるものが気になるの?」
「え? あ、アリアちゃん、写真撮影は終わったんだ」
「“シャシン”?」
「あ、えっと、私の世界の、映像を写す装置です」
「そうなんだ……でもこの原理が発明されたのはそこまで昔じゃないから、多分、その頃にはシオリの板場所とも交流があったと」
アリアがぶつぶつ呟くも、その言葉にシオリはしゅんとする。
「やっぱりアリアちゃん、信じてくれないんですね?」
「う、で、でもあまりにも色々な概念やら何やらが似すぎていて、信じられないの。……ごめん」
「そう、か。そうだよね。話している言葉も通じちゃっているしね」
悲しげにシオリが続けると、そこでシオリの頭をミトがなぜて、
「アリア、あまりシオリをいじめないでくれるか?」
「う、そういうつもりは……」
「きっと、シオリは異世界人だよ。“チキュウ”の“ニホン”に住んでいた、でもそれで良いじゃないか」
「それは……そうね。ま、棚上げが一番良いかも」
そこがアリアの妥協点だった。
ミトはシオリが好きだから全面的に支持するが、アリアは確かに友達としては好きだが、彼女の言う事を全面的には信じられないのである。
むしろ世界から来た一般人がいきなり自分達と同じ言語をしゃべるなど、ご都合主義も良い所だ。
その人がそう認識しているだけで実態が異なることなど幾らでもある。
シオリが何者か。
それをシオリ自身が知りたいのだから、シオリの望む形でなくともその答えを見つけるのには協力するつもりだ。
何しろアリアにとって、初めての同年代の友達だし、シオリはいい子だから協力したいと思う。
そこで、ぽんぽんとアリアの肩をカイが叩いて、
「いつもの話に落ち着いたみたいだから、とりあえずあそこの中央の大に刺さっている剣が俺には気になるんだが」
そういえば、カイは剣士だったなと今更ながらアリアは思い出して、そのカイが指し示す剣を見る。
金と銀に彩られ、赤や緑の大きな宝石――おそらくは魔力の結晶である石だろう、それがはめ込まれた、輝く剣である。
細やかな細工や、光のなかで時々魔法の緻密な模様が浮き出てくるあたりでも、これは高度な魔法道具であることは確からしい。
正直魔法道具を作ったりしている立場のアリアも惹かれるには惹かれる。
見ているだけで惚れ惚れとしていそうな美しい剣。
だが、それをあえて無視した理由がアリアにはあるのだが。
とはいえ、幼馴染のカイが望むのであれば何とかしたいと思うのもアリアの心情で、
「カイはあの剣がほしいの?」
「見ていてあの強さが分らないのか?」
カイのその問いかけに、アリアは首をかしげる。
それはただの一般的な力を持った綺麗な剣にしか見えないのだが、
「あれは素晴らしい剣なんだ。その力は素晴らしいんだ。大切な事なので二回いいました」
「……そうなの? 私には普通の剣にしか見えないけれど」
「そうなんだ」
言い切ってしまうカイ。
いつもと違い、アリアはカイに戸惑いながら、
「カイ、大丈夫?」
「何がだ?」
カイには自覚症状がないらしい。
普段からそういうことやっているからいざという時にこうなるのよ、と思う。
カイ自身上手く隠せているし、周りも皆騙されている。
そしてカイ自身もアリアに気づかれていないと思っているし、それをカイ自身がそこはかとなく望んでいるのをアリアは感じ取っていた。
なのでアリアはそちらに関して突っ込まずに、
「まずは、壁の古代文字と、あの編の本棚を確認しましょう。入り口の扉にあったレリーフは“眠りの王”の神話だから、(仮)古代文明“蛇の都市”のもの。その言語はすでに解読されていたはず」
「でも俺は読めないぞ? それに時代ごとに言語は変わるだろう?」
「その時はその時、諦めるしかないわ」
「……無理やり引き抜くのは駄目か?」
危険には敏感はずのカイだが完全に様子がおかしいとアリアは気づく。
そして妙に剣に執着しているのだ。
昔からあまり色々なものに執着しない……というよりも、どうでもいい事は諦めてしまいがちなカイなのだが異様に執着をみせている。
剣自体が本来の目的ではないし、カイにはすでにお気に入りの剣がある。
そんなカイはこう見えて、やると決めたらやるし譲らない心の強さを持って入るのだが、この場合は違うように思える。
「やっぱり何かの魔法にかかったか。それも強い魔法」
アリアがカイを見ながら小さく呟く。
軽い魔法かと思えばかなりどっぷりと使っているカイ。
そして剣への異様な執着。
そこから考えるに、強い“魅了”の魔法が、カイにはかかっている可能性が高い。
ちらりと見ると、シオリは特に変化はなく、ミトはどうやら気づいていたらしく、にやっと笑う。
気づいていたなら教えろ、とアリアは思うもそれを言ってカイが、無理やり剣を引くよう操られてはたまらない。なにせ、
「この右上の天井見てみて」
アリアが指差すそこは、その部分だけ塗料が剥がれ落ちて、壁の石がむき出しになっている。
しかもその部分は、薄くなっているように見える。
「あの部分が薄くなっているから、ここの中で爆発があったりすれば、あそこからその威力を逃すのかも」
「そうなのか?」
「うん、わざと弱い部分を作っておいて、爆発があった時に少しでも周りに影響が出ないように、弱い部分を作っておくものが、古代文明の遺跡であったはず」
「下手に引っ張ると危ないか、そうだよな」
「それに地面に突き刺さった剣を引き抜くと、剣が悲鳴を上げて、その声を聞くと死ぬって言うし」
「何処の怪談だよ」
「私の読んだ本では、そういった話があると書かれていただけだから真偽は定かじゃないけれど、どの道危険だからやめておくわ」
そうアリアがカイと話して、カイの手を握り本へと向かう。
どういうわけか大人しくカイは連れて行かれていたが、アリアは暴れださなくて良かったと思っていた。
何分魅了の魔法なので、思い余ってどう行動するか分らないのだ。
ここで下手を打って、やっぱり無理やり俺は剣を引っこ抜いてやるんだぜ、となるかもしれない。
そんな危険性の面で、幼馴染のカイをアリアは心配しての行動だった。
ちなみに、アリアが手を引っ張っていたので、そのすぐ後ろをカイが歩いていたので気づかなかったのだが、手を繋がれてカイは顔を耳まで赤くしていたのだ。
それをミトとシオリが見ながら、けれど指摘するのは可哀想だったので、ただにまにましながらその様子を見送ったのだった。