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全自動魔法ドリル

幼馴染は、幼い頃仲良く一緒に遊んだ人なので、アリアの一つ年上のカイも幼馴染です。紛らわしくてすみません。

 隠し部屋があるんじゃないか、とアリアが推測した場所に向かって行く四人だが。

 その場所はこの迷宮の深い場所にあった。

 とはいえ日帰りでしか今までも来ていない為……というよりも、そもそもこの迷宮自体が都市から近く人が沢山来る事ために内部の地図が作られているのだ。

 つまり探検されつくした迷宮なのだが、それゆえにカイがアリアに疑問をぶつける。


「隠し部屋があったなら、もう誰かが見つけているんじゃないのか?」

「でしょうね。でもあったなら、面白いじゃない?」


 と、気楽な答えを返すアリア。

 普通に聞けば、特に何の考えもなしにその隠し部屋があるという、そんな気がする場所に向かっているだけに聞こえる。

 けれど長年の経験からカイは、アリアの肩を掴んで、


「……何をする気だ」

「大丈夫、ちょっと試すだけだから」


 本当にカイったら心配性ね、と笑うアリアにカイの顔の血の気が引いていく。


「この前、大丈夫だといって、壊れて動かなくなった番人兵器を起動させて、大変な思いをしたよな?」

「いや、あれはたまたまだし。あの兵器はここにはないし」

「アリアが本気を出せば簡単に倒せる事は分っているけれど、危険な事をわざわざ……」

「あーはいはい。所でそろそろだと思うの」

 

 アリアがにっと笑う。

 けれどここは、まだまだその隠し部屋がありそうな場所には程遠い。

 そう思って、けれどアリアがそういうのは何か理由があるからだ、とカイは思う。

 間違っても意識をそらすためとかそんな理由ではない……と思いたい。

 そこでミトが、ああなるほどと手を打って、


「そういえばこっちのルートが近道なんだけれど、人が来ない理由を思い出した」


 カイが不穏な空気を察しているのを見て、まだ気づかないかなとアリアは、軽く壁を二回ほど叩いた。

 乾いた音が二回ほどして、同時に、ドンと大きなものが地面に落ちる音と僅かに伝わる振動。

 それはすぐに何かが転がるような轟音に変わって、すぐにアリア達の前に現れた。

 巨大な岩の塊が、ごろごろと転がってくるのを見て、カイは思い出した。


「皆、逃げるわよ!」


 アリアの号令に従って、カイ達も走り始める。

 その中で、シオリが涙目で、


「何でまたわざと罠を起動させるんですか! アリアちゃん!」


 確かに良くわざと罠を起動させて、魔法道具の実験をアリアがしていたし、その度にシオリは泣きそうになっていたが、そんな彼女にアリアははっきりした声で、


「考えがあるの! いざとなったらあのでっかい岩ごとぶっ壊してやるから安心しなさい!」

「信じますよ! 信じていいんですね! なんだか毎回こんな目にあっていますが!」

「大丈夫だよ、シオリちゃんだけは僕が守るから」

「ミトさん……うう、よろしくおねがいします」


 一般人の感性からすれば確かに恐ろしいが、実の所あの程度の岩は、アリアだけでなくカイもミトも、大した考えもなく粉々に出来る程度の力を持っていた。

 なので冷静にシオリ以外は走って逃げていたのだが、そこでふとカイが思い出す。


「これ、前も通った……」

「そうよ、カイは忘れっぽいわね。でもあれが落ちてこないと道が開かないのよね」

「道?」

「そう、マップを見ていたら、本来無い筈の所に横穴が開いていてね。ほら、私達があの岩を前回やり過ごしたところ」

「? けれど少しくぼんでいるだけだろう?」

「でも以前同じように罠を発動させないように潜った時、あの窪みは無かった」


 アリアはあの窪みが怪しいと思っているのだ。確かにその先は行き止まりだったので大して調べずに引き返したものの、ずっと引っかかっていたのだ。

 そしてマップの中にある空白地帯。

 それだけならば実は幾つもあるのだが、窪みの事を考えると一番怪しいのがこの場所だ。

 くわえて人の手が入らない場所であれば、貴重なものが沢山あるかもしれない。つまり、


「魔道図書館スティアなんかに負けて堪るかぁあああ」


 アリアは叫んだ。

 その声を聞きながら、カイは、はあと嘆息して、


「負けず嫌いなのもいいけれど程ほどにしておけ、アリア」

「勝利こそが私にふさわしい言葉よ!」

「あー、はいはい」


 カイはこれ以上言ってもいつもの問答が繰り返されるだけだなと何度目かになる嘆息をした。

 ついでにもう少し色っぽいイベントが自分とアリアの間にないかなと心の中で泣く。

 だが何度願っても、そんなイベントは起きないのである。

 それにある種の諦めを抱きながらカイは、ちらりとアリアを見て走っていく。


 やがて目的の所の窪みに辿り着いて、アリアたち全員が一斉に飛び込んだ。

 そんな四人の前に、ごろごろと轟音を立てながら岩が転がっていく。

 それをアリアは見送ってから、


「ふう、どうにか着いたわね。もっとも、もっと先まで行っても良く知られている道に戻れたのだけれどね。さて、この窪みがなくなる前に行きますか。シオリ、頼んだ五号出してくれる?」

「はい、分りました」


 シオリがふらふらとした手つきで、リュックを開いて中を調べる。

 先ほどの岩に追いかけられた恐怖がまだ抜けきれないようだった。

 そしてどうにかそれを見つけて、アリアに渡す。

 赤い色の箱に車輪が二組ついて、そのうちの一面に小さいドリルのついたおもちゃのようだった。

 それを三人の前で自慢げにアリアは見せつける。


「“全自動魔法ドリル君五号”! 穴掘りには最適な道具よ!」

「……アリアちゃん、ここ一応、国営の迷宮だから壊されると困るんだけれど」


 ミトがそれほど困っていないように呟くので、アリアはミトの服の端を引っ張って、傍の壁に連れてきてこそこそと耳打ちする。


「シオリとはまだデートは出来ていないんでしょう?」

「それはまあ、まだ喫茶店に誘ってお茶くらいしか……」

「シオリも誘って、私とカイとミトとで水族館とかどうですか?」

「ダブルデートか」

「? 私とカイは違いますよ? ただの幼馴染だし、私のお兄ちゃんみたいなものだし」

「……そこは突っ込むのをやめて、もう一声」

「途中で私とカイがはぐれた振りをする、いかがですか?」

「いいだろう、ここでの出来事を私は見なかった」


 ひそひそと悪い話をしている二人に、カイは何だかなと思いつつ、もう少し俺の方見てくれても良いのになー、と嘆いた。

 けれどすぐにくるりとアリアがカイの方を見て、上手く行ったわと合図する。

 そして、周囲の壁を軽く叩いて、アリアは様子を見ていると、ある面だけ空間があるような響きを感じる。


「よーしここね、行け! “全自動魔法ドリル君五号”」



 そう魔力をこめて手を放すとその小さなドリルが走っていって、壁にぶつかった。

 ドリルが突っ込んだ場所から上部へ地亀裂が入る。

 そしてすぐにばらばらと握りこぶしほどの石の固まりとなり砕ける。

 そこには、新たな洞窟が広がっていたのだった。


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