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魔物

「“風よ、敵を撃て!”」


 アリアが魔法を放つと、小型だが頭がワニの形をした獰猛な蝶が風の刃によって真っ二つにされる。

 半数以上を今の魔法で片付けながら、その取りこぼしをカイが処理していく。

 使用するのは、炎の魔法が負荷された“紅蓮の剣”。

 切り裂くごとに炎を上げて、黒い塵となり宙に消えていく。

 それを一瞥して、再びアリアとカイは駈け出した。


「全く面倒なことになったわね」

「そうだな、と言うか一回に二度も“異界の門”は出てくるものなんだな」

「そうね。でもまだ人為的な発生の先は消えていない」


 ポツリとアリアがこぼしたその言葉に、灯りを持っている剣の妖精のミルが珍しくアリアに問いかける。


「どういう事ですか?」

「邪推といえば邪推だけれど、入口付近に、私達を見ている変な視線を感じたの。同時に“異界の門”に似た気配も」

「! 本当ですか! というか皆さんがそういうのがわかってしまうと私の存在意義が……」

「諦めろ、ていう?」

「酷いです! でも何で私のこの察知網に引っかからなかったのかなぁ」

「……その周りを調べるそれ、どういったものを取り除いているの?」

「んー、それは企業秘密なので言えません」


 ミルの答えに、アリアは少し考えてから別の質問に切り替える。


「そういえばさっき、リドルって呼んでいたわね」

「はあ、でもそれに関しても、私はお話できません」

「……ふーん。でも彼がここにいるのを知っていなかったみたいね。彼貴方のことを回収しに来たみたいだったのに」

「……」

「つまり、貴方の世界の人間だったら、気づかないのにね。そして入り口にいる彼」

「話が飛躍し過ぎでは?」

「そうかしら? けれど可能性だけをのべるなら、構わないでしょう」

「それに私は答えられませんよ?」

「それは人為的な、それこそ魔法による制約で?」

「そういったものもありますが、いずれ元の世界に戻る身としてはあちらとも波風を立てたくないのです」

「なるほど……だとすると先ほどのリドルをとっちめてお話を聞くのが一番よさそうだけれど……それは、ミト達がやっておいてくれるかな。シオリがいるから、そんなえげつないこともミトにはできないだろうし」

「! まさか、そんな……」

「ミト、意外と手際がいいから。好きにすればいい、と言いたいところだけれど、今の話を照らしあわせてその入口にいるような奴らが、この“異界の門”を呼びだしたとするでしょう?」


 そういいながら再びアリアは魔法を使い、現れた魔物群を倒していく。

 それらは再び先ほどのワニのような蝶のような魔物であったが、それが郡制となり連続してではなく断続的にやってくるのを見ながら、


「そして、私達の世界に攻撃を仕掛ける意味は何なのかしら。そしてその“異界の門”は断続的につながったり弱まったりを繰り返している可能性がある」

「……“異界の門”はそんな不安定なものでないはずです。きちんと制御された高度な魔法技術ですから」

「その粗悪品が出回っている、もしくは以前よりも技術力が低下している……それは考えられない?」

「粗悪品……であれば他国が。でも、あれを? ……技術力の低下、昔作れていたものが作れなくなってしまう、主要因……でもそれはない。他国でなければ、自国内での悪質な模倣? ……分からない」

「そう、もしかしたならミル達の世界が、代理戦争を仕掛けてきたのかもと思っていたけれど」

「それはないです。たしかに兵器はありますが、あの世界には戦争をするほど、人間は残っていません」


 どこか寂しそうにミルが呟いた。

 何故そうなったのか、どうしてそうなったのかはわからないけれど、そうらしい。


「そうなの……あの、“リドル”という人も?」

「……そうですね。でもリドルがここに来るなんて。そして私達を回収しようとしたってことはあちらの世界で何かあったんだろうか」

「一応私達のところよりも文明は進歩しているのよね?」

「はい、ミサイルがある程度には」

「……今一分からないわ。もう少しそのみさいるとやらのイメージを……」

「街一つが一瞬で遠方からの攻撃で消え去ります」

「……凄まじい魔法ね。でもそれが何発くらい?」

「資金力によりますかね?」


 ミルの言葉になるほどと考えてから、けれどそこで矛盾を感じる。


「でもカイのもつ剣は、凄い破壊力じゃない? 使おうとお思えばこの兵器だって……」

「近接用の近づいて攻撃する武器ですから。敵から離れて確実に仕留められるのであれば、そちらのほうが安全に行為が行われます。一昔前、人間の人口が伸びていた頃には、無人兵器がもてはやされた時期がありましたが、今はもうそんなものを誰も必要としていませんから。魔物もあまりいなかったですし。……でもこの私の剣を回収しようとするなんて、おかしいですね。その無人兵器に搭載する気なのでしょうか」

「確かにそれなら安全だけれど、その武器が敵に渡るのも危険だから違うのでは? あとは事態がそれほど切迫しているのか……遠隔攻撃だけでは対処できない所に入り込まれていると?」


 そこまで考えていると再び魔物に襲われる。

 先程から蝶のような魔物が繰り返し現れている。

 つまりそれだけその場所に蝶の魔物ばかりが大量に発生していることになる。


「ミル、あなた達の世界で魔物ってどうやって出来るか、すでにわかっているの?」

「メカニズムですか? 確か、不完全な負の魔力というものがありまして、それが既存の動物などの生態系をコピーして不完全に融合して、足りないものを補うために人間を襲う、だったはずです」

「その不完全な負の魔力はどうやって出来るの?」

「異界といいますか、世界の外から降り注いでくると言われています。ちなみに世界の外には、無数の世界もありますがその世界間に入り込んで満ちているものなんです」

「それに触れるとどうなるの?」

「人ですか? 人がそれに触れても害は全くありません。だからあのシオリさんも、ちょっと異常ですがこの世界にこれましたよね?」

「たしかに問題は特に無さそう。でもこれだけ同じものばかりとなると、一つの場所に大量に降ってきた?……ミル達の世界で、何か異常が起きていて、対処できないからその影響でこちらにその魔物を流している可能性は?」

「……無人兵器で一応は魔物狩りもされているはずなのですが……そんな余裕が無い状態だと?」

「ミルの記憶はいつ頃から更新されていないの?」

「……かれこれ、20年は確実に。ですがそうなってくると先ほどのリドルが扉を閉めようとした理由がわからない」


 ミルが呻くように呟く。そこで新たに現れた大きな魔物の影に、アリア達は気付いたのだった。


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