おかしい
その気配が近づいてくるのに気付いて警戒をしていると、誰かがアリア達に近づいてくるのが足音で分かった。
黒い布で体と顔を覆った男。
その男はアリア達を見て、
「早くここから離れた方がいい」
厳かな声で一言告げた。
けれどそんな彼にアリアは、
「まだ用があるから、ここを退く訳にはいかないわね」
「だが、危険過ぎる! ……それは、“惑う星を断ち切る剣”。どうしてそれを!」
「ん? カイが引き抜いたの。それがどうかしたの?」
「……回収される前に引き抜かれたか。……だとすると、“異界の門”を開く魔法を解除しておいたほうがいいな。まずは上に連絡して、許可を……」
更に焦ったような目の前の男。
けれど今の話から察するに、彼は、
「貴方は異世界人ですか?」
「……ええ、そうです。貴方方が古代文明“蛇の都市”などと呼んでいるものが我々の過去です」
「そんな貴方がどうしてここへ?」
その問いかけに、彼は黙ってしまう。
これ以上は言えないことなのかもと察したアリアは、
「話せないようでしたらこちらも深く追求しません。それよりも、“異界の門”が近づいてきていますが」
「ああ、そうなんだ。その剣は“異界の門”を開いてしまう効果も付随しているから、早くここから逃げないと」
「それはこの剣がなければ“異界の門”が開かないと?」
「現状で先ほど私が、開きにくくする処置をしたばかりだ。だがその剣があるだけで自ずと開きやすくなってしまう……しまった!」
焦ったように彼は言う。
それと同時にアリア達の目の前で扉が開こうとして……そのままカイは扉ごと引き裂いた。
剣戟が扉を凪いで、それと同時に壊れたように崩れて塵となる。
この扉そのものは、普通の石版によって作られた扉状の形をしているが、魔法で出来ているらしい。
現に魔力を込めた剣で容易に神のように切り裂ける。
そしてハラハラと崩壊していくのをみ届けながらそこで、
「あの、もしかして“リドル”さんですか?」
「? ……ああ、君はあの剣の妖精、ミルか。確か資料にあったな」
「はい、それで……“リドル”さんが来なければならないほど切迫した状況なのですか?」
「そういう事になりますね。そして貴方のことも回収する手はずになっていたのですが……」
そう、“リドル”という彼に妖精のミルは話しかける。
けれどアリアは再び上を見て、
「“異界の門”が現れたからここに来たはずなのに先ほどのもの以外は感じないけれど、どういうことなのですか? そういえば先ほど扉が開くのを留めたとか」
「……目の前に現れたので逃げる時間を稼ぐために、その扉を固定したのですが」
「……変ね」
ぽそっと、アリアが呟いた。
それに同意するようにカイも頷く。
実際におかしいのだ、だってアリア達は、ここにそれが出ているという話で来たのだ。
なのにそれらしい“異界の門”は今壊した。
開く前に。
「ミル、一つ俺は気になったから聞きたいんだが」
「なんでしょう、ご主人様」
「“異界の門”は一度に幾つも開くものなのか?」
「いえ、そんな事はないです。ないはず……あれ?」
そこでミルも事態の奇妙さに気付いたようだった。
すでにここに“異界の門”が開いていたはずなのに、これ以外に、その気配はどこにもない。
アリアがリドルに問いかけた。
「“異界の門”がもしも開かれたならその後、どうなるの?」
「それは、その世界から排除し(・)た(・)い(・)魔物達をこちらに送ってくるものだから」
「……それは、意図的にされているものなのですか?」
「いや、イメージで言うと、高い所から低い場所に水が流れるようなものだ」
そう告げるリドルだが、カイは更に続けた。
「その魔物をこちら側に送ったあと、その扉は消滅する」
「その魔物の量はどれくらいで?」
「周辺にいる物を呼び寄せるが、扉の大きさ質によって変化するから……」
「だったらその魔物を呼び出して消えてしまうという可能性があるわけですね」
「……そうだ」
短く答えるリドル。
実の所それはアリアにとってもカイにとったも再確認でしかなかった。
なぜなら自分達の情報から妙な気配が漂っていたから。
黒い闇の気配。
淀んだ魔力、自分達に危害を加える敵の気配。
そこでアリアが走り始めた。
「待ち伏せするよりも、こちらから仕掛けましょう、カイ」
「そうだな、やってきた奴らはそれほど強くなさそうだし、この剣で十分だ」
「えー、ご主人様私を使ってくれないんですか?」
「力が大味すぎて扱いにくいんだ」
カイに返されて、見るがショボンとする。
けれどこんな狭い場所で上に伸びたこのつる。
もしかしたら上層階に人がいるかもしれないので、ここで上まで一気に消滅というわけにも行かないのだ。
あとにはリドルただ一人が取り残されたのだった。




