隠してる
ダンジョンナンバー34『緑の編み籠』
入り口がつるで覆われておりそれが幾重にも編まれて空高く伸びている。
それを見ていたシオリが、
「都市から見えていたあの緑色の雲の上まで伸びたつるが、これだったんですね」
「うん、晴れた日には雲の中に隠れている花が見えるのよね」
「本当に初めてあれを見た時、ここはどこだって私は思いましたから」
巨大なつるが天に向かって伸びるさまは、異世界のイメージそのもの。
どうして自分がこんな所にと、シオリは涙目になって……けれど幸運な事にアリアに拾われた。
そこでアリアがそのつるの入口部分のぽっかり開いた部分を指差して、
「じゃああそこから入りましょう。それと剣の妖精、ミル!」
「はーい、なんですか―。おお、異界の門の気配がすごくしますね、頑張ってください」
「そう言って何で剣の中に消えようとするのよ……」
「いえ、先日、皆さんの根城である図書館に行った時に幾つか本を失敬してきたのです」
「それ! この前ようやく集めた全シリーズ物!」
「これ私達の世界の物語で、続きが気になっていたんですよ。だから昨日からずっと読んでいてですね、今も続きが早く読みたくてですね、えっと……」
そこでアリアはミルを手で握りしめるように捕まえながら、
「妖精さん、もう少し何か仕事をしろ」
「でも、私は基本、この剣の説明係で“惑う星を断ち切る剣”が変な使われ方をしないか見ているだけの簡単なお仕事だったはずなんです」
「……で、妖精さんは何が出来るの?」
「……多少の攻撃魔法とか治療とかです。援護がメインかな」
「そう……折角だから、灯りを持って私達の側で飛んでいなさい」
「えー、面倒臭……はい、謹んでお受けさせて頂きます」
「素直なことはとてもいいことだと思うの」
アリアが手に力を込めていると、妖精のミルは素直に頷いた。
その様子にアリアは手を放してから、明るい入り口へと向かっていったのだった。
つるの中には、光り輝く白い花そこかしこに咲いていた。
キラキラと煌くその一輪をアリアは手を伸ばして引きちぎる。
そしてその摘み取られた花は、すぐにまた生えてくる。
「中が明るいのは良い事なのよね。ほら、これ持って」
「はーい……うう、折角良い所だったのに。しくしく」
「無料で貸出しているんだから少しくらいは手伝いなさいよ。あの本だって取ってくるのはすごく大変だったし」
「……はーい」
渋々といったように呻く妖精のミル。
そうやって登って行くと、蔓を伝ってアリア達は2つほど上の階に登ったわけだが。
「この高さであの雰囲気からすると……あと20階近く登らないといけないじゃない……」
「僕はこのへんでシオリとお茶をしていて、あとはアリアとカイの二人っきりで頑張るのはどうかな」
ミトが逃げようとした。
それに一言文句を言おうと思ったアリアだがそこで、アリアはカイにポンと肩を叩かれて、
「よし、アリア、一緒に頑張って上に行こう!」
「カイ……まぁ、危険からシオリを遠ざけたほうが良さそうだし、ね」
「シオリの事なら僕に任せたまえ」
「……期待していていいですか?」
「いざとなったら釣りに穴を開けて脱出するから好きな様に暴れてくるといい」
そうミトが肩をすくめる。
そしてアリアはカイに向き直るが、カイはニコニコしている。
実はアリアと二人っきりという響きにカイが憧れていたのだが、アリアにはあづかり知らぬこと。
ついでに、アリアもカイに聞きたい事があった。
昔からずっと、気付いていたけれど言わなかった事。
そもそも、それをしていなければこんな風に妖精のミルに舐められる事もなく……ということはないような気がした。
カイは、お人好しで温厚で人がいい。
そこがアリアもとても気に入っているのだが、時々危なっかしく見えてしまう。
世の中善人ばかりでないことは、アリアはよく知っている。
でも、アリアがその分頑張ればいいだけと、アリアは思った。
アリアにとってカイは、好きとか嫌いとかを超えた近い存在で、いるのが当たり前の相手だったのだから。
5つ上の階へ行くと、大きな蝶が青い光を放ちながら花の蜜らしきものを吸っている。
それを足音を立てないようにアリアとカイは、こっそりと歩いて行くが……。
パキッ
眼の前にあった枝をなぜかカイが踏んだ。
そしてその音でその蝶のような魔物に気づかれたようだった。
バタパタと飛んでくる蝶の魔物を、“惑う星を断ち切る剣”ではなく、いつもの“紅蓮の剣”でカイは切りさいていった。
「ご主人様、私の剣は使いたいと思わないのですか?」
「思わない、危険過ぎる」
「じゃあ魅了……うぎゃ」
アリアは妖精のミルを容赦なく握る。
「そういう事しないの。どの道、もうカイには魅了は聞かないだろうけれど邪魔しないの」
「そんな事ないです!ていっ!」
「あ、こら、やめなさい」
魔法を無効化するにはちょっと遅くて、カイに到達してしまう。けれど、
「あれ、アリア今俺に何か魔法をかけたか?」
「これが魅了の魔法を」
「……ああ、うん」
言葉を濁すカイだが、それにアリアは、
「カイも実力とか隠すんじゃなくて、それ位は魔法防御力を上げておかないと」
「え? いや、俺は別に隠してなんか……」
「本当?」
アリアの問いかけにカイはぎくりとする。
アリアは一体どこまで気付いているのだろうと。
けれどそれはカイにとって言えない秘密だ。
気配が大きくなったのは、その時だった。




