道中にて
そのダンジョンナンバー34『緑の編み籠』は以外に都市から近い場所にある。
けれど何故か人がその場所には行きたがらない。
その理由はそこに行くまでの森の道に問題があったからだ。
「カシナが来たぞー!」
前方を歩いている男の人が叫んだ。
この地方の保護生物、カシナ。
首が3つある四足の愛くるしい動物で、ぬいぐるみも人気である。
そのつぶらな瞳も可愛らしいと評判なのだが、昔はその毛皮、肉、ツノまでが貴重品であったため乱獲されて数が激減してしまった。
その頃はまだ、そういった保全という概念はなかったために、結局完全にとってしまえば長期的にそれを得られなくなり、また他の生態系にも影響を与えるという事で考えだされたのが、感情に訴えかけることだった。
それにより、このカシナが食べ物を与えると近づいてきたり、その餌をくれる人を見分けるなど賢い動物だといった話を訴え続け、時には児童用の物語を作り広めていった。
やがてぬいぐるみやアクセサリーといったものになる程度に人気が出たカシナ。
だがその頃には、人間が狩らなくなったために異常にカシナが増えてしまい、逆に他の生物を荒らす結果になってしまったのである。
ちなみにカシナは雑食で時々人間も襲う恐ろしい動物である。
しかし動物園のオリの中で見る程度にしか知らず、本当のカシナのイメージと現実が現在は乖離しつつあった。
そこの話は割愛するが、増えすぎたという問題から、最近は一定の期間は猟師によって猟をしていいことになっており、また、襲われたときは反撃して殺してもいいことになっていた。
ちなみに道に出たカシナも倒して良い事になっており、その肉は高値で引き取ってもらえる。
なので、猟師の人がこの道を通る人達の治安も兼ねて、パトロールを普段からしているのだが……。
乾いた音を立てて、カシナの頭の一つが撃ちぬかれた。
けれどもう2つの頭が生きている限り、カシナの動きは止まらない。
そしてそれは、アリア達のもとにやってくる。
牙を剥き出しにするカシナに、アリアは手をかざした。
小さく早口で呪文を唱えて、
「“風よ、敵を撃て!”」
その言葉とともに、風が吹き荒れてカシナが近くの木に打ち付けられる。
そしてそのまま骨が折れたような音がしてカシナが動かなくなる。
「倒したみたいね、ちょっと様子見に行ってくるわ」
「おい、アリア、危険なんじゃ……」
「カイは心配症ね。大丈夫よ、ほら、猟師のおじさんも来ているし」
見ると恰幅の良い白髪交じりの、猟用の魔法銃を持ったおじさんがやってきて、
「いや、助かったよ。魔法使いのお嬢ちゃん」
「いえいえ、まっさきに私を狙ってくるこいつが悪いんです」
「全くだ。それで、どうかね、この獲物を譲ってくれないかね。代わりに、私の自家製カシナのカシナジャーキーを四袋渡すから」
「ちょうど人数分ですね。これから遺跡に潜るから持っていくのも面倒だし、カシナは鮮度が命だし……いいですよ」
「そうかいお嬢ちゃん! これが、カシナジャーキー、それとうちの店のクーポンだ。10%割引」
「わぁ、ありがとうございます。あ、帰り道に通れそう、帰りに少し買っていこうかな……瓶詰めや缶詰は保存性もいいし」
「来店を待っているよ、お嬢ちゃん。それじゃあ」
自身のカートに先ほど倒したカシナを乗せて、手を振って去っていくおじさんに、カイが、
「……明らかに安く見積もられていないか?」
「運ぶ時間と、処理、その他加工も考えると面倒だからこれでいいわよ。これも定価で買うと結構いい値段なんだよ」
「でも……もぐっ」
そこでカイの口に、カシナジャーキーがアリアの手で放り込まれた。
アリアにしてみれば、カイが口煩く言うので静かにさせようという魂胆の方が大きかったのだが、カイにしてみればアリアに食べさせてもらったことになる。
それだけで嬉しくなって、それ以外のことはどうでも良くなってしまうカイ。
よし、おとなしくなったとアリアは思ってから、シオリとミトにもそれを渡す。
ミトは嬉しそうだが、シオリはなんだかひきつっている。
「どうしたの? これ嫌いなの? シオリ」
「いえ……蛍光の黄色の肉って……」
口をひきつらせるシオリ。
そんなシオリにそこでミトが、
「シオリちゃん、口開けて」
「う、ミトさん。私には無理です……」
「いいから、一口だけ」
シオリが恐る恐る口を開くと、そこに一口大にちぎった肉をミトが放り込む。
それをシオリがこわごわと噛んでいくが……。
「! 美味しい!国産牛のステーキの味がする!」
「ね、美味しいでしょう?」
「はい! ……でもこの世界の食べ物の色って、どうしてこんな食欲のわかない色をしているんでしょう」
「……シオリちゃんが見ている色と、僕達が見ている色は違うのかもしれないね」
「それは……確かに」
「僕達が見える可視領域の波長とは違うものを見ているのかも。所詮僕達が見ているのはその物体が吸収できなかった色だしね」
「……でも食べ物以外は普通の色に見えるんですよ?」
「……そんなに毒々しいんだ」
「はい」
それにミトは少し考えてから、
「でも特に不調はないんだよね?」
「はい、こちらに来てから風も引かなくなりました」
「うーん、分からないや。大した理由はないのかもしれないね」
そこでミトが話を終わらせた頃、四人は遺跡の前へとたどり着いたのだった。
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