寝ちゃ駄目、起きて!
朝日が眩しいなと思いながら、アリアはベットの上をごろごろしていた。
それをシオリが、軽くアリアを揺さぶって、
「アリア、起きてよ。もう時間だよ!」
「うーん、シオリ、後五分。ぐー」
「ご飯も作ったから、起きてよ。今日は朝から、カイ君やミトさん達と待ち合わせでしょう?」
「うーん、何だか暑くて良く眠れなくて……もう少し」
「アリアー! 寝ちゃ駄目、起きて!」
シオリが必死になって揺さぶるも、アリアはいやいやと首を振って起きない。
そもそも現状ではアリアがかぶっている毛布をめくれば良いのだが、それが出来ない事情があるのだ。と、
「おーい、アリア、シオリ、迎えに来たぞ! あれ、開いてる?」
「カ、カイ……ちょ、ちょっと待って、アリアが……」
「アリアは朝が弱いからな。任せろ! そういう時の叩き起こし方を俺は知っているから!」
「ま、待ってください! 来ちゃ駄目です! 本当に駄目!」
焦るシオリの声を聞きながらも、カイは何で焦っているんだろうと疑問に思いながらも、部屋に上がっていく。
そしてシオリの声が聞こえた方にやってきて、そして部屋の惨状を見てカイは顔を赤くして固まる。
しかもその声にアリアは、
「ううーん、カイ、うるさいなぁ……」
と言いながら、ごろりとアリアがベットを横に転がって、毛布がはだけて胸の辺りが……。
「カイ、見ちゃ駄目ー!」
「う、うんそうだな、俺もあっちに行っているから」
カイは答えて慌てて、その場を去る。
カイは未だに胸の動機が収まらず、しかも、アリア、そこそこ胸が成長したんだなとか、肌も結構綺麗でとか、とてもどきどきして、いけない妄想をしてしまいそうになって必死で押さえる。
だってアリア相手にそういう事をするのはカイにとってとてもいけない事の気がするのだ。
それでも、落ち着かずそわそわとしながら、カイは先ほどのアリアの部屋を見る。
けれどこの位置から見えず、ただ声は聞こえる。
「アリアもはしたないよ! ほら、もう起きて服を着て! カイも来ているんですか」
「うぅ、分ったよ。だいたい、カイの事はそんなに気にしなくて大丈夫だよ……。ああ、そういえば私、裸だった。昨日暑くて良く眠れなくて……」
けれどそれを聞きながら、カイは、俺、そんな風に男として意識されていないのか、そうだよなー、と悲しく思っていたのだが、
「ほら、アリア、服!」
「ありがとう、シオリ。でも、カイはそういう所はちゃんとしているから、襲ってきたりしないよ。そういうカイの真面目な所も私は好きだけれどね?」
「……なんだろう、この凄い生殺し感。カイが気の毒に思えるくらいの絶妙さ加減……アリア、もう少し言い方を変えた方がいいと思うのだけれど」
「なんで?」
「……私は考えるのをやめた。以下略」
そんなシオリとアリアの会話があったのだが、その時は、カイはアリアに真面目な正確がすきって言われた、と、ぼんやり幸せな気持ちになっていたので、その後の会話はまったく耳には言っていなかった。
そして支度をしたアリアがシオリと共に現れて、
「わ、今日はこれかぁ。美味しそう!」
「……人参とジャガイモのスープと、目玉焼きです。カイもいかがですか?」
「あー、えっと朝食は食べてきたからその、赤と紫色のスープだけでいいや」
「そうですか。分りました、すぐに器に盛りますね」
そう答えるシオリを見ながら、スープに口をつけるアリア。
「相変わらずシオリは料理が上手いわね。でも、こんな色初めはありえないなんて言っていたものね」
「こんなに美味しいのに? 色だって見るからにいい色じゃないか」
「でも異世界人だとすると、似たものが違う色なのかも」
「なるほど、そうか……でもこれからは遺跡散策でもシオリの力が役に立ちそうだな」
「まあね。あの翻訳能力は最高だわ。……後は異世界に来た事で、シオリの体にどういう変化があるのか一度精密検査を受けておいたほうがいいかもね」
「あの怪力も、こちらに来た影響とか?」
「それはありそうね……体に妙な負荷がかかっていないかも、調べておいたほうがいいかもね」
そんな会話をカイとアリアがしていると、シオリが温かいスープを持って現れる。
「はい、人参とジャガイモのスープです」
「美味しそうだ、いただきまーす。うん、美味しいな、シオリは料理の天才だ!」
「ありがとうございます。喜んでもらえると、つくりがいがありますね」
そう、シオリはほほ笑んだのだった。
「裏切り者」
「……ミトさん、俺は偶然そうなっただけで……」
「シオリの手料理。シオリの手料理。シオリの手料理。シオリの手料理。シオリの手料理」
「五回も言わないでくださいよ! そんな恨めしそうな声で」
「裏切り者」
そうミトがにたぁとカイの方を見て笑う。
何か良くないことを思いついた、そんな顔にカイは見えたのだがそこでシオリが、
「もしよろしければ、そのうちミトさんにもご馳走しましょうか?」
「本当ですか! ぜひ、ぜひお願いします!」
ミトが嬉しそうな声を上げて、元気を取り戻した。
そこでカイの剣から、妖精のミルが現れて、
「ご主人様、今日はお楽しみでしたね」
「……それを言うために出てきたのかお前は」
「と、言うのは冗談でして。やだな、怖い顔で見ないでくださいよ。ここに異界の門があるみたいだから頑張って下さい」
「……強いやつがなだれ込んでいないだろうな?」
「……一応設定上は弱い魔物です」
「カイ、いざとなったら遺跡ごとぶち壊して倒しちゃえば良いのよ」
「アリア……この剣で?」
「私の魔法でも良いけれど?」
実際にアリアの魔法でそれは出来るし、昔、誰も知らない遺跡に潜り込んだ時とても恐ろしい怪物にあって……あの時会はアリアを助けようとして……アリアが、カイが良い所を見せる前に一撃で倒してしまったのだ。
というかあの頃からアリアは強くて俺が守れるような存在じゃなかったんだよな、爽快は目をとろんとさせて追憶していると、ミトが、
「……この前の遺跡が天井吹っ飛ばされて、その事後処理の書類が大変だったのだけれど……止めてくれないかな?」
「別にすきで遺跡を破壊しているわけじゃないですよ? 私達」
「そうなんだけれど……ま、いっか。命には代えられないし」
「そうですよ。さて、早速なので、列に並ばずにこの迷宮、ダンジョンナンバー34『緑の編み籠』に行きましょう! そしてさっさと異界の門を壊してしまいましょう!」
そう叫ぶアリアに続いて、カイ達も遺跡の迷宮に入っていく。
そんな彼らを見つめる人影に、アリア達はまったく気づいていなかった……ように見えたのだった。




